M&Aで問われるサイバーセキュリティ 取引価値に直結Gartner Insights Pickup(437)

M&Aにおける取引価値を守る上で、サイバーセキュリティがますます重要な要素となってきている。取引前後の混乱を避けるため、CISOは早期にデューデリジェンスへ関与し、取締役会と連携して迅速にリスクを特定・管理する体制構築が不可欠だ。

» 2026年03月06日 05時00分 公開
[Christopher Mixter, Gartner]

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 2026年は、企業がM&Aにおける取引価値を守る上で、サイバーセキュリティが果たす役割の重要性がこれまで以上に明確になっている。

 M&Aのプロセスにおいて、サイバーセキュリティのリスク評価は実施時期が遅過ぎることが多い。そのためにリスク予防の重要な機会を逃し、取引完了後の相乗効果へのサイバーセキュリティの貢献について、見通しを誤ることになりがちだ。

 Gartnerの調査によると、2025年には非業務執行取締役の28%が、M&A取引の完了前または完了直後に、サイバーセキュリティ関連の混乱を経験したと回答している。規制により、サイバーセキュリティ問題の発見が遅れた場合のコストが増大しており、かつてないほど効果的なサイバーデューデリジェンス(適正評価手続き)を早期に行う重要性が高まっている。

 CISO(最高情報セキュリティ責任者)はビジネス成果を保護するため、デューデリジェンスへの早期関与を申し出る必要がある。取締役会と直接連携し、実用最小限のデューデリジェンス手順を導入することで、CISOはM&A取引を遅らせることなく、迅速にリスクを特定できる。

 これを基に、買収側企業のCISOはM&Aプロセスを通じてサイバーセキュリティを戦略的イネーブラー(支援ツール)として位置付け、取引価値を確実に保護する綿密な施策を講じる必要がある。

M&Aにおけるサイバーセキュリティの価値提案を再構築

 CISOは、M&Aプロセスにおけるサイバーセキュリティの価値を取締役会レベルで再定義することから始める必要がある。CEOやCFO(最高財務責任者)との連携は重要だが、これらの経営陣は取引のスケジュールや価値評価にばかり意識が向きがちだ。サイバーセキュリティのデューデリジェンスについて取締役会レベルの有意義な後押しを得るため、CISOは体系的なアプローチを取るべきだ。

  • M&Aがもたらす価値を踏まえ、現時点でサイバーセキュリティチームがM&Aプロセスのどの段階で関与すべきかを特定し、提案する。過去の取引において、遅い段階での関与がリスクの見落とし、追加的なコストの発生、または取引の遅延につながった具体例を示す
  • サイバーセキュリティデューデリジェンスは、迅速かつ集中的に行えることで取引価値を保護できることを示す証拠を挙げ、そのための最小限の労力で最大限の効果をもたらす手順を説明する
  • サイバーセキュリティデューデリジェンスを、取引完了後の統合計画の一環としてだけでなく、取引完了前の価値評価の一環としても実施することについて、正式な合意を目指す

M&Aに向けた最小限の労力で最大限の効果をもたらすサイバーセキュリティデューデリジェンスを導入

 CISOは、取引前に包括的なサイバーセキュリティデューデリジェンスに取り組みたいと、はやる気持ちを抑えなければならない。この段階では、最小限の労力で最大限の効果をもたらすアプローチの方が実践的だ。企業が迅速に動きながら、価値評価とリスク管理にとって真に重要なことに集中できるからだ。

 実用最小限の戦略は、デューデリジェンスにおける評価の範囲を、取引完了後初日から必要なコントロールのみに限定することから始まる。焦点を絞ることで、CISOはデューデリジェンスの所要時間を半分に短縮できる他、チームが起こり得る問題を網羅しようとする際に見落としがちな、重大なエクスポージャ(リスクにさらされている度合い)を見逃さずに済む。

 また、CISOがデューデリジェンスの際に、文書化よりもパフォーマンス指標のチェックを優先することも不可欠だ。M&Aの相手企業でサイバーセキュリティがどのように確保されているかを細部まで調べるのではなく、どのレベルの保護がなされているかに注意を向けるべきだ。

 最後に、CISOは人員とツールについて、2つの重要な質問のみをすべきだ。それは、「サイバーセキュリティチームの欠員は何人か」「どの技術が現在使用されているか」だ。この効率的なプロセスは、サイバーセキュリティが買収完了後の相乗効果を高めるか、阻害するかを迅速に判断するのに役立つ。

M&Aのタイミングを狙ったサイバー攻撃を予防

 CISOは、M&A手続き中の企業がサイバー攻撃者から、格好の標的と見なされやすいことを認識する必要がある。統合や戦略的変革に尽力するあまり、脆弱(ぜいじゃく)性が生まれ、攻撃者にすぐさま悪用されてしまうことがあり得る。こうした脅威に先手を打つ能動的対策が不可欠だ。

 M&Aの可能性が公表されたら、直ちに顧客保護を最優先する必要がある。CISOは企業広報や法務、その他の関係者と緊密に連携し、相手企業と共同で公式メッセージを発信すべきだ。このメッセージでは、顧客に推奨する安全な行動に焦点を当て、計画されている取引についてのより広範な情報発信と整合させることで、顧客が正規の連絡先を認識し、ソーシャルエンジニアリングやフィッシングの被害に遭わないように支援する必要がある。

 同様に重要なのが、この組織変化の時期における従業員の保護だ。CISOは、自社と相手企業の人事チームと協力し、安全な行動に焦点を当てた社内メッセージとトレーニングをタイムリーに提供する必要がある。

 M&Aの過程で自社と相手企業を内部脅威から保護することも極めて重要だ。先行きが不確実な状況に置かれ、不満を抱えた従業員が悪意ある行動に出るリスクが高まる可能性がある。内部リスクに対処する新たな戦術を導入し、自社と相手企業が内部の混乱に対するレジリエンス(回復力)を確保できるようにする必要がある。

出典:Elevating Cybersecurity’s Role in M&A to Protect Value(Gartner)

※この記事は、2026年1月に執筆されたものです。

筆者 Christopher Mixter

VP Analyst


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