Wi-Fi 7、Wi-Fi 8の裏で普及を目指す「Wi-Fi放送」の規格とは

Wi-Fiというと、Wi-Fi 7、Wi-Fi 8といった物理的な伝送技術の進化が話題の中心だが、これと並行して「Wi-Fi放送」を実現する規格の普及に向けた取り組みが進められている。スタジアムやショッピングモールのビジネスに直結する新たな手段として注目できるという。

» 2026年03月24日 05時00分 公開
[三木泉@IT]

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 Wi-Fiの世界ではWi-Fi 7(IEEE 802.11be)が普及期に入り、次のWi-Fi 8(IEEE 802.11bn)の標準化が2028年の完了を目指して進行中だ。その裏で、別のWi-Fi規格の普及に向けた取り組みが進んでいる。

 その名は「拡張ブロードキャストサービス(EBCS:Enhanced Broadcast Services)」。W-Fiにおけるブロードキャスト通信を改善するための規格だ。リアルタイムコンテンツを多数の端末に届ける放送的な用途で役に立つ。特にスタジアム/イベント会場やショッピングモール、公共施設など、混雑した場所における同時コンテンツ提供を念頭に置いて設計されている。

 従来、こうした用途にはマルチキャスト/ブロードキャストが使われてきた。しかし、マルチキャストはACKなし、再送なしで送信する。このため送信先の全端末に確実に届く保証がない。また、遅い端末や遠い端末ではパケットロスが発生する。

 Wi-Fiアクセスポイントは対策として、全端末が受信可能な速度に制限する。これにより、全体的にスループットが低下する。高性能な端末を持っているユーザーでも、品質の高いコンテンツが得られず、ユーザー体験が低下する。

EBCSは「接続しないでいい」規格?

 EBCSは上記のような問題の解決を目的とした技術。「接続せずに、信頼できるコンテンツとより良いユーザー体験を届ける」と説明される。この「接続せずに」という部分もWi-Fiの新しい使い方を示唆しており、興味深い。

 仕組みは、ケーブルテレビのチャンネル放送とサブスクリプション(購読)のシステムに例えると分かりやすい。具体的には以下のような仕組みで動作している。

 EBCSはMACレイヤーで機能する技術。コンテンツごとにMACアドレスが設定できる。アクセスポイント(AP)はこれをブロードキャストする。端末側は、コンテンツMACアドレスをテレビのチャンネルのようにサブスクライブすることで受信できる。

 端末側は、Wi-Fiネットワーク自体にログイン(接続)する必要も、IPアドレスを持っている必要もない。APの電波が届く範囲内にさえいれば、自分が購読しているチャンネルのデータを受信できる。

 ユーザーは、おそらくスマートフォンのアプリでコンテンツをサブスクライブし、利用することになる。将来的には、一般的なスマホで最大4つのチャンネルを同時に購読できるようになると想定されている。

 Wi-Fiは、既に米国の主要スタジアムで導入が進んでいるが、さらにEBCSのような新たな仕組みが求められていくという。その理由を、EBCSの普及活動に関わるExtreme NetworksのWi-Fi CTO(最高技術責任者)のデヴィッド・コールマン氏は、Wi-Fiの役割がもはやネットワーク接続だけでなく、「ファンとのエンゲージメント強化」と「スタジアム運営の効率化・収益向上」に移ってきているからだと話す。

 まず、スポーツを自宅で観戦する人が増えている中で、スタジアムではファンを呼び戻すために新たな付加価値を提供しなければならない。アプリを通じた飲食の注文・配達、簡単な試合関連情報の提供だけではもはや不十分。リプレイ動画などのリッチなコンテンツを提供し、利便性と楽しさを追求していかなければならない。

 一方でファンの行動やSNS利用を分析し、ビジネスパートナーシップの構築や、行列の解消など、リアルタイムの運営改善に役立てていく必要性も増しているという。

 そこで、EBCSのリッチなコンテンツを安定的に届けられる能力、そしてユーザー側の操作なしにコンテンツをプッシュできる能力が生きてくる。

 EBCSを使えば、Wi-Fiに接続していない観客のスマホにも、リアルタイムの試合データやスコア、さらには5〜10秒程度の4K画質のインスタントリプレイ動画などをプッシュ配信できる。また、「今なら売店でユニフォームが半額」といったリアルタイムの販売促進情報も一斉に送信できる。

 最終的にユーザーをWi-Fiに接続させたい場合にも役立つ。SSIDやセキュリティ情報を未接続の端末に配信することにより、ユーザーは届いた案内をクリックするだけで、パスワード入力などの面倒な手間なく、瞬時に接続できるようになる。

EBCSの普及に向けた課題とは

 EBCSは前述の通りMACレイヤーの技術。理論的にはWi-Fi 6以降なら全てのWi-Fi規格で使えるという。しかも「IEEE 802.11bc」として、2024年に標準化されている。だが、現在も概念検証(PoC:Proof of Concept)の段階にとどまっており、広く普及するまでにはあと数年かかるとコールマン氏は話す。主に3つの課題があるという。

スマホのアップデート

 EBCSのためにWi-Fiチップ自体を作り直す必要はない。ソフトウェア技術であり、理論上は数年前の既存端末でも動作する可能性がある。だが、現実問題として、スマホメーカーには古い端末のドライバなどをアップデートするメリットがない。従って、この機能が実際に一般の人の手に渡るのは、数年後に登場する次世代のWi-Fi 8対応端末が普及し始める頃になると予想されている。

スマホによる標準サポート

 スタジアムなどでEBCS用の受信アプリを開発することは可能だが、これでは現在のストアアプリ乱立と同様な状況になりかねず、理想的な普及の形とは言えない。広く普及するためには、AppleやGoogleがOSの機能として最初から組み込む必要があるとコールマン氏は指摘する。

なりすましAP対策

 EBCSの技術の普及を妨げる最大のリスクは不正APにある。悪意のある人物がAPを持ち込み、公式を装って有害なコンテンツや偽情報を勝手に一斉送信してしまう可能性がある。

 これを防ぐには、コンテンツの送信元の真正性を検証できる、デジタル証明書などの認証システムを業界全体で構築・実装する必要がある。

 Wireless Broadband Alliance(WBA)に参加しているコールマン氏は、東京で同組織が推進している「OpenRoaming(オープンローミング)」が、この課題解決に向けた重要な取り組みの一つになると話している。

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