資生堂ジャパンが全社的なAIトランスフォーメーションに取り組んでいる。情緒的、右脳的な要素を重視し、トップダウンでもボトムアップでもないサンドウィッチ型推進体制を採用。130名のアンバサダーが「失敗しないAIの業務活用」を進めている。
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「合理的、左脳的にやっていくというよりも、多少情緒的、右脳的にやっていく」
資生堂ジャパン(以下、資生堂)のDX&AIX戦略部を率いる永盛達也氏が発したこの言葉は、同社が推進するAIトランスフォーメーションの思想を最も色濃く表している。
資生堂は2026年7月30日、「Google Cloud Next Tokyo '26」で「伝統的な大企業の資生堂ジャパンが130名の現場推進アンバサダーと取り組むAIXの挑戦」と題した講演を行った。
同社のデジタル部門を牽引する永盛達也氏、菊地光氏、徐思捷氏の3名が登壇したセッションでは、150年以上の歴史を有する伝統的な化粧品企業が、AIによる変革をどのように全社へ浸透させているのか、その詳細な道筋が語られた。その様子をレポートする。
「美」をテーマにビジネスを進める資生堂が急進的な変革へと踏み出した背景には、国内市場の構造的な変化が存在する。日本の自動車業界や家電業界と同様に、人口減少に伴う国内市場の売上停滞は避けられない。同時に、海外ブランドの参入や、近年の韓国コスメや中国コスメの急速な台頭によって、国内の競争環境は激化の一途を辿っている。
一方、同社を支えてきた社員の年齢ピラミッドにおいて、最大のボリューム層が定年退職の時期に差し掛かりつつある。これらの外部および内部の環境変化に対応し、持続的な競争優位性を維持するためには、業務の進め方そのものを再設計する必要があった。この課題意識から、同社は「AIトランスフォーメーション」への本格的な取り組みを決断する。
資生堂は、変革の前提として、技術の導入を単なるプロジェクトではなく、全社に関わる経営課題として位置付けた。
まず行ったのは組織の改編。具体的には、従来のデジタル戦略子会社を本体に取り込み、経営戦略を議論する最高戦略責任者の配下にデジタル組織を移管した。これにより、営業やマーケティング、法務といった全部門を横断して変革を推進する機能を確立した。
新しい組織の下で、同社は「生産性向上」、「価値創造」、「AI-Readyなデータ基盤」の3つを戦略軸と定めた。効率化を進め、限られた人的資源を価値創造に当てて、新規ビジネスやトップラインの拡大につなげる。一方で、これらを実現するための基盤を整備していくという構造だ。
同社はこの3軸を推進するため、「ビジネス」「テクノロジー」「クリエイティブ」の3要素を統合し、組織の能力向上を目指した。ここでは、技術の合理性だけでなく、感性や楽しさを重視する姿勢が必要だったという。
「合理的、左脳的にやっていくというよりも、多少情緒的、右脳的にやっていく。そういう進め方が必要だと思い、あえて“ココロが動くAIX”というテーマを掲げて推進している」(永盛氏)
全社変革のグランドデザインを描くに当たっては、社会心理学者であるクルト・レヴィンが提唱した変革モデルを応用した。組織の古い習慣を溶かす「解凍」、新しい仕組みを導入する「変革」、そしてそれを定着させる「再凍結」の3段階を設定する。
永盛氏はまず、全社員に生成AIを普及させて利用への心理的抵抗をなくす「解凍」のフェーズから着手した。Geminiなどのツールに日常的な業務の中で触れ、楽しさや実用性を体感する環境を整えることが最初の目標となった。
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