400以上のAIモデルを1つのAPIで呼べる中継サービス「OpenRouter」の週間トークン処理量が、1年で20倍を超え、なお加速している。なぜ伸びているのか、私たちも使うべきなのか。仕組みと注意点を整理し、筆者自身の使い方も交えて考える。
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AIをプログラムから呼び出すとき、これまではモデルの提供元ごとに契約し、APIキー(利用者を識別する認証用の文字列)を発行してもらうのが当たり前だった。GPTならOpenAI、ClaudeならAnthropicと、それぞれ別々に契約する。実は、そうしたAPIを1本にまとめて中継するサービスは、OpenAIのAPIが普及し始めた頃には既に存在していた。ただ、公式のAPIが目の前にあるのに、なぜあえて中継サービスを挟む必要があるのか。その必要性は、当時あまり理解されていなかったように思う。
その中継サービスの代表格がOpenRouterだ。OpenAI互換の1つのAPIで、80社以上のプロバイダ(モデルを実際に動かして提供する事業者)が提供する400以上のモデルを呼び出せる。コード側は基本的にモデル名の文字列を書き換えるだけで、別の会社のモデルに切り替えられる。そして今、その利用量が、目を疑うような曲線を描いている。
OpenRouterの週間トークン処理量(2025年9月〜2026年9月、無料モデルを含む総量)OpenRouter公式のRankingsページには、週ごとのトークン(AIがテキストを処理する際の単位。日本語なら1トークン当たり1〜2文字程度)処理量が公開されている。筆者がそのデータを読み取ったところ、2025年9月8日の週は約4.9兆トークン、2026年8月31日〜9月6日の週は約115兆トークンだった。1年で20倍超、計算上は約23倍である。なお、この倍率は公式が発表した数値ではなく、公式グラフの公開データから筆者が算出したものだ。
注目したいのは、利用量の大きさだけでなく、その成長率の高さだ。OpenRouterによると、週間トークン量は2026年5月までの半年で5兆から25兆に増え、8月には1日10兆トークン以上を処理する規模に達した。グラフも対数目盛りではほぼ直線を描いており、規模が拡大しても高い成長率が続いていることが分かる。
なお、同じ8月19日にはOpenRouterが決済企業のStripeに加わることも発表された。ただしOpenRouter側は「名称も製品もロードマップも変わらず、既存の利用者側に変更は生じない」と明言している。本稿の主題はそこではなく、なぜこれほど伸びているのか、そして私たちも使うべきなのかである。
――ここからは『Deep Insider Brief』恒例の“ひと言コメント”として、筆者がこの動きをどう見ているかを述べる。その後、OpenRouterの仕組みや成長の背景、注意点を整理する。
Deep Insider編集長の一色です。こんにちは。
私自身、OpenRouterを毎日使っています。毎日プログラミングしているという意味ではなく、私が書いたプログラムが毎日API経由でモデルを呼んでいる、という意味です。具体的には、地理情報やAI関連のニュースを自動収集する自作のニュースチェッカー「location-news」で、英語の論文タイトルなどを日本語に翻訳させ、私が目を通す際の判断を楽にしています。
では、なぜ各社のAPIと直接契約するのではなく、OpenRouterを使っているのか。私の場合、大きな理由はモデルを簡単に切り替えられることです。最近はOpenAI、Anthropic、Google、中国系など、使いたいモデルが数カ月〜数週間単位で入れ替わります。複数のモデルで「どれが一番うまく訳せるか」を試したいとき、入り口が1本になっていると本当に楽です。モデル名を変えるだけで次々に試せるため、新しいモデルが登場したときもすぐに比較できます。
もう一つ大きいのが無料モデルです。OpenRouterには「(free)」と表示される無料モデルがあり、回数制限はあるものの、ちょっとした翻訳なら十分こなせます。私はOpenRouterの無料モデルが使えなければ、さくらインターネットの「さくらのAI Engine」の無料枠に切り替え、それも使えなければOpenRouterの有料モデルに切り替える、という三段構えにしています。この運用で、半年ほど無料モデルだけで回っています。
こうした自分の使い方を振り返ると、先ほどのグラフが急激に伸びている理由も少し見えてきます。人間がチャット画面に文字を打ち込む量だけで、1年に20倍を超える伸びを説明するのは難しいでしょう。むしろ増えているのは、AIと会話する人だけではなく、AIを繰り返し呼び出すプログラムなのではないかと私は見ています。エージェント(自律的に何度もAIを呼び出しながら作業を進める仕組み)や自動処理なら、人間が操作していない間も繰り返しモデルを呼び出せます。
だから「私たちも使うべきか」と問われれば、私の答えは小さな定常処理から試す価値は十分あるです。毎日の翻訳や要約など、少量でも繰り返し発生する処理なら、OpenRouterの便利さを実感しやすいと思います。
ただし、OpenRouterの中心的な役割は、複数のモデルやプロバイダをつなぐことです。便利な一方で、どのプロバイダにデータが送られるのかなど、直接契約とは異なる注意点もあります。ここから、OpenRouterの仕組みと、使う前に知っておきたいポイントを順に整理していきましょう。
OpenRouterは、利用者からのリクエストを受け取り、指定されたAIモデルを提供するプロバイダへ振り分ける中継サービスである。80社以上のプロバイダと多数のモデルを1つのAPIから利用でき、同じモデルでも複数のプロバイダが提供している場合がある。既定では価格や稼働状況などに基づいて、自動的に振り分け先が選ばれる。
利用者から見た特徴は次の通りだ。
要するに、OpenRouterは「複数のモデルを気軽に切り替えて使う」ことに向いた窓口である。一方、1つのモデルに固定して本番で大量に使うなら、クレジット購入時の手数料がかからない直接契約の方が安くなる場合がある。
まず、どのモデルがOpenRouterで多く使われているのかを見てみよう。記事執筆時点(2026年9月7日)の週間ランキング上位10モデルは次の通りだ。
| 順位 | モデル | 開発元(国) | 週間トークン | 前週比 | 無料か |
|---|---|---|---|---|---|
| 1 | Hy4 preview | Tencent(中国) | 14.7兆 | +379% | |
| 2 | GPT-5.6 Luna | OpenAI(米国) | 12.9兆 | +66% | |
| 3 | GLM 5.3 Flash | Z.ai(中国) | 12.4兆 | +101% | |
| 4 | DeepSeek V4 Flash 0731 | DeepSeek(中国) | 12.4兆 | ±0% | |
| 5 | DeepSeek V4 Flash 0423 | DeepSeek(中国) | 5.19兆 | ±0% | |
| 6 | MiniMax M3 (free) | MiniMax(中国) | 5.02兆 | +95% | 無料 |
| 7 | Hy3 | Tencent(中国) | 3.99兆 | −40% | |
| 8 | Nemotron 3 Ultra (free) | NVIDIA(米国) | 3.64兆 | −32% | 無料 |
| 9 | GLM 5.3 | Z.ai(中国) | 3.02兆 | +128% | |
| 10 | MiMo-V2.5 | Xiaomi(中国) | 2.35兆 | −74% | |
| OpenRouterの週間トークン量ランキング(2026年9月6日までのデータ、公式Rankingsページより) | |||||
ここから、OpenRouterの利用が伸びている背景を考えてみたい。
まず事実として、上位10モデルのうち8つが中国系で、無料モデルが2つ入っている。1位のTencent製モデルは前週比379%増と、わずか1週間で約4.8倍に膨らんだ。前週比が大きく増減しているモデルも多く、ランキングの変動が激しいことがうかがえる。8月下旬には、開発元非公開の無料モデル「Ox Alpha」が公開から数日で週間17.5兆トークンを記録して1位になったとも報じられている。無料モデルが全体の利用量を大きく押し上げる局面があることも押さえておきたい。
その上で、筆者は伸びの背景を次のように見ている。
これらは筆者の見立てであり、OpenRouterが公式に成長要因として列挙しているわけではない。ただ、公式ブログが「AIは実験段階から本番のアプリやエージェントへ移行しつつあり、複数のプロバイダやモデルにまたがって安定して動く基盤が必要になる」という趣旨を述べていることとは整合する。
OpenRouterでは、自分で指定しない限り、データが届くプロバイダは固定されない。既定のルーティング(振り分け)では、価格や稼働率などに基づいてプロバイダが自動選択されるため、同じモデルでも呼び出すたびに異なるプロバイダへ送られる可能性がある。
つまり、送信先を固定しなければ、中国系を含む想定していないプロバイダにプロンプト(AIへの入力)が渡る可能性もある。プロバイダを指定して固定する設定はあるが、筆者は個人用途では現時点で使っていない。私が行っているように論文タイトルなど公開情報の翻訳であれば問題にならないだろうが、社内文書などの業務データを扱うなら話は別である。
ここまで見てきたプロバイダ側のデータ方針とは別に、OpenRouter自身がデータをどう扱うかも確認しておきたい。公式ドキュメントによれば、利用者が明示的にオプトイン(同意して有効化)しない限り、OpenRouterはプロンプトと応答を保存しない。保存するのは、タイムスタンプやモデル名、トークン数などのメタデータ(内容ではなく利用記録)である。
OpenRouterによるプロンプトと応答の利用を許可すると、モデル利用料が1%割引になる設定もある。つまり、データの扱いはプロバイダ側とOpenRouter側の2層で考える必要がある。機密情報を扱う場合は、どちらの設定や方針も確認しておきたい。
OpenRouterには、ZDR(Zero Data Retention:ゼロデータ保持、プロバイダがプロンプトや応答を保持しない方針)に対応したエンドポイントだけへ振り分ける設定がある。ZDRを有効にすると、プロンプトや応答を保持するエンドポイントはルーティングの対象から外れる。設定はアカウント全体やモデルグループ単位で適用できる他、APIからリクエストごとに指定することもできる。なお、データの学習利用を避ける設定はZDRとは別に用意されている。
プロバイダごとのデータ保持と学習利用の方針は、OpenRouterの公式ページで確認できる。代表例を示す。
| プロバイダ | データ保持 | プロンプトを学習に使うか |
|---|---|---|
| Amazon Bedrock | 保持しない(Zero retention) | 使わない |
| Anthropic | 30日間保持 | 使わない |
| Alibaba Cloud Int. | プロンプトを保持 | 使わない |
| OpenRouter公式ページに掲載されたプロバイダ別データ方針の例(2026年9月確認) | ||
なお、データ方針は同じプロバイダでもエンドポイントによって異なる場合がある。実際に利用する際は、対象となるエンドポイントの方針も確認したい。
無料モデルには2つの注意点がある。一つは回数などの利用制限が厳しく、大量の呼び出しや本番用途には向かないこと。もう一つはデータ方針で、無料だからといってプロンプトが保存・学習利用されないとは限らず、扱いはプロバイダごとに異なる。
筆者のように論文タイトルなど公開情報を翻訳する用途であれば問題にしなくてもよいだろうが、社内文書などを入力する場合は、無料か有料かにかかわらず、利用するプロバイダのデータ方針を確認すべきである。
以上を踏まえ、用途別に筆者の考えを整理する。
ローカルLLMとの比較もしておこう。ローカルLLMは、一定以上の量を継続して処理するなら経済的になる可能性がある。一方、少量の利用では機材費を回収しにくく、使えるモデルやサイズも手元のマシン性能に左右される。呼び出し量は少ないが、多くの最新モデルを柔軟に使いたい人ほど、OpenRouterのようなAPI経由と相性がよい。
OpenRouterを使う意義は、「最良のモデルを選ぶこと」よりも「最良のモデルが変わっても選び直せること」にあるのだと思う。モデルの勢力図が短期間で変わる今、その柔軟性は小さな自動化やモデル比較で特に生きる。一方で、送信先やデータ保持について考える責任までなくなるわけではない。まずは公開情報を扱う小さな処理で試し、業務で使うならプロバイダの固定やZDRなどを確認する。このくらいの距離感から始めるのが、現時点ではちょうどよいだろう。
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