サプライチェーン全体のセキュリティ対策を評価する重要性が高まり、一方では評価においてもAIを活用する動きが広がっています。評価を信頼し、実務に生かすために、いまサイバーリスク評価には何が求められるのでしょうか。
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取引先へのサイバー攻撃が、自社の情報漏えいや事業停止につながる被害が相次いで報告されています。いま企業には、自社だけでなく、取引先のセキュリティリスクも把握することが求められています。
多数の取引先のリスクを把握するに当たっては、効率的に情報収集や分析をすることが欠かせません。その手段の一つがAIの活用です。しかし、AIを活用してリスクを評価できたとしても、その結果をどこまで信頼し、どう対応につなげればよいのでしょうか。
企業を取り巻くサイバーリスクが深刻化する中、国内では、サプライチェーンを構成する企業のセキュリティ対策状況を評価・可視化する「サプライチェーン強化に向けたセキュリティ対策評価制度(SCS評価制度)」について、2026年度末ごろの制度開始に向けた準備が進められています。制度は、委託元・委託先の双方にとって、取引先に求める対策水準と実施状況を共通言語で確認する契機になります。
本連載では、AIを活用したサイバーリスク評価の結果をどう見極めるか、SCS評価制度にどう対応するか、取引先のリスクを継続的に把握し、改善につなげるにはどうすればよいかを解説します。
「取引先のリスクが高い」――。AIを活用した評価によってこのような結果が示されたとき、担当者は何を確認し、取引先にどのような改善を求めればよいのでしょうか。
リスクが高いという結果が示されても、その根拠となるデータや判定理由が分からなければ、対応を決めるのは困難です。サイバーリスク評価には、結果を素早く出すことに加え、その根拠を確かめ、具体的な行動につなげられることが求められます。
SaaSなどクラウドサービスの利用が広がり、自社と取引先のシステムが複雑につながる中、限られた人員でリスクを把握するには、情報収集や分析の効率化が欠かせません。AIはその支援に役立ちますが、入力データに誤りがあれば、それを前提とした評価が多数の取引先に適用される可能性もあります。
そこで重要になるのが、「データ品質」「透明性」「説明可能性」です。本稿では、この3つを軸に、サイバーリスク評価を実務に反映するための条件を整理します。
「Garbage In, Garbage Out」は、低品質なデータを入力すれば、誤った結果やバイアスが生じるという原則です。例えば、取引先が既に利用を終えたサーバの脆弱(ぜいじゃく)性が、今もその企業の問題として評価されていたらどうでしょうか。分析を高度化しても、この誤りが残れば、不要な改善要請や確認作業につながります。生成AIによる説明が自然で説得力のある文章でも、前提となるデータの正確性は別途確認しなければなりません。
評価に使うデータは、IPアドレスやドメイン、公開サービスの設定、脆弱性の検出結果、質問票の回答、監査資料などさまざまです。取得方法や更新頻度だけでなく、そこから何を判断できるかも異なります。外部から観測した事実、企業の自己申告、データから導いた推定を区別し、データソースと取得時点を記録することが、信頼できる評価の出発点になります。
データ品質は、「鮮度」「正確性」「網羅性」「資産帰属」の4つの観点から確認できます。鮮度では、いつ取得した情報か、対策後の状態が反映されているかを見ます。正確性では、検出内容が妥当か、同じ問題を複数のデータソースから取り込んで二重計上していないかどうかを確かめます。大量のデータがあっても、古いデータや重複が混在していれば、評価を誤る原因になります。
網羅性では確認できている範囲と、できていない範囲を明確にします。インターネットに公開されたシステムに問題が見つからなくても、社内の権限管理やバックアップからの復旧能力まで確認できたわけではありません。「問題が見つからなかった」のか、「判断に必要なデータが足りない」のかを区別する必要があります。
資産帰属とは、検出したIPアドレスやドメインなどを、どの企業の評価対象としてひも付けるかということです。クラウドの共有基盤やIPアドレスの再割り当てがあるため、過去のデータや単一の関連データだけでは、ひも付けを誤る恐れがあります。さらに、企業との関連が確認できても、その企業が設定変更や修正に責任を負うとは限りません。資産との関係と管理責任を確かめてこそ、適切な改善要請ができます。
透明性と説明可能性は似ていますが、確認する対象が異なります。透明性は、どのデータを集め、何を対象に、どの基準で評価しているかが分かることです。説明可能性は、個別の結果について、なぜその判定に至ったのかを説明できることです。評価方法の概要が公開されていても、取引先のスコアが下がった理由を説明できなければ、次の対応は決められません。
例えば「ネットワークの安全性に懸念がある」という説明では、調査の手掛かりが不足しています。どの資産で、いつ、何を検出し、それがスコアにどう影響したのかまで分かれば、担当者は対象を絞って確認できます。未確認の事項や観測上の制約も示されていれば、追加調査の必要性を判断しやすくなります。
説明は、読み手が必要とする事柄に合わせることも大切です。技術担当者には対象資産や検出の証拠を示し、経営層には、それが業務停止や情報漏えいなどにどう関係するかを解説します。ただし、技術的な問題の検出だけで事業への影響を断定することはできません。委託業務や扱う情報、代替手段の有無などと併せて判断する必要があります。
生成AIで評価結果を要約する場合も、元の記録を参照できるようにし、観測事実と推論を区別して提示することが重要です。特に取引条件に影響する判断では、説明文の読みやすさに加え、その内容を証拠と照合できるかを確認すべきです。理由が文章で表示されるだけでは、説明可能性が確保されたとはいえません。
企業間で評価を比較するには、共通の基準が必要です。ただし、同じ計算式を使うだけで公平になるとは限りません。例えば、公開資産が多い企業では、問題の検出件数も多くなる可能性があります。件数だけを見るのか、資産規模を考慮するのかによって結果の意味は変わります。評価項目や重み付け、補正の考え方を確認できることが、比較の前提になります。
過去の評価と比較するときも注意が必要です。スコアの変化は、企業の対策状況だけでなく、評価方法の変更によっても起こります。両者を切り分けられなければ、対策の効果を読み違えてしまいます。当時の入力データ、評価日時、基準やモデルのバージョンを保存し、後から検証できるようにすることが重要です。AIの出力を担当者が修正した場合も、その内容と理由を残しておくことが説明可能性を確保する上で重要になります。
評価される側の企業が根拠を確認し、異議を申し立てることが可能な仕組みも欠かせません。自社の資産ではない、既に修正済みであるといった場合に、どの証拠を提出し、誰が確認し、いつ評価に反映するのか。こうした手順が明確であれば、事実確認と評価の訂正を円滑に進められます。訂正履歴は、同じ誤りを防ぐための材料にもなります。
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