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業務要件のモレを無くすためにマークすべき人とは?美人弁護士 有栖川塔子のIT事件簿(11)(2/2 ページ)

ユーザーから要件をヒアリングするときには、単に業務プロセスを確認するだけでなく、オペレーターの振る舞いや属性に着目すると、思わぬ発見があるものです。

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TOKO

そう、あえて業務の範囲を限定しないで、オペレーターが業務中どんな振る舞いをしているのかをヒアリングするの。


ICHIRO

どんなことを?


TOKO

例えば、「いつ出社して」「どんな会議に出て」「訪ねてくるのはどんな人で」「どんな頼まれ事をするのか」とかね。


ICHIRO

出社時間まで聞くの? 根堀り葉堀りって感じだね。


TOKO

出退社の時刻は、バッチ処理※3を行う時間帯を検討するネタになるのよ。バッチは普通オペレーターの退社後に行うじゃない? その退社時間がどのぐらい遅くなるかは本人が1番よく知っているはずよ。

 たとえシステム担当者が「夜11時くらいから処理を始められます」って言っても、オペレーターは「期末には退社が0時を回るときだってある」なんて言い出すことが出てくるわ。


ICHIRO

そういうこと、確かにあったかも。


TOKO

会議で在庫管理に関する分析レポートを求められてるかもしれないでしょ? そうしたら、システム上の在庫データを自由にExcelに引き出せるようにデータベースを作ってほしいって話になるかもしれないじゃない。

 「訪ねてくるのはどんな人で」「どんな頼まれ事をするのか」は、イレギュラーな仕事がどのぐらいあるかの参考になるわね。同じ要件で1回だけ頼まれごとがあった程度なら放っておいてもいいかもしれないけれど、頻繁ならシステム化すべきね。


ICHIRO

それは業務プロセスだけを追っていたら出てこない内容だね。


TOKO

操作する人の属性を考えても、いろいろ出てくるわよ。オペレーターに中高年が多ければ、文字の大きさが生産性を変えるし、たくさんの事務処理を同時に処理することがある人なら、PCのメモリ容量にも気を付けておかないといけない。


ICHIRO

そういう要望は、こちらから聞かないと出てこないかもしれないなあ。


TOKO

でしょ? でも、ちゃんと対応しないと、新システムへの不満が確実に高まっちゃう。逆にちゃんとやれば、顧客満足度アップにもつながるわ。


ICHIRO

うーん、そうか。やらなければマイナス、やればプラス。ならやらない手はないってわけだね。分かった、もう少し頑張ってみる。と、ところで塔子。ち、ちなみに今夜って空いてる?


TOKO

え? 今夜?(ドキッ)


ICHIRO

えっ、えっと……。嫌ならいいんだけど……。


TOKO

だ、だから何よ?(ドキドキ)


ICHIRO

あ、あ、あの。お客さん向けのヒアリングシートを一緒に作ってくれないかな? もちろん、費用は出すから。


TOKO

……(怒)!


ICHIRO

と、塔子、僕の足、踏んでる! イタタ……! ちょっとドケ……え? 何で力を入れてるの? イタ、イタ、イターーーーーーーイ!


今回のPOINT

  • 要件定義の対象業務は、オペレーターから学べ

  • 業務要件は、正規のプロセスだけでなく、オペレーターの振る舞いや季節性も含めて確認する

 「何で塔子はあんなに怒ったんだろう……そうか! 夜間だから割増料金を払わないといけなかったんだな! (イチロ)」。次回は4月18日、最終回です。イチロと塔子の関係は(少しは)進展するのでしょうか? お楽しみに!

※3 大量データの処理などを一括で行う処理。通常業務に支障を来す場合があるので、夜間などシステムがオペレーターに使用されない時間帯を利用して行われることが多い。

書籍紹介

なぜ、システム開発は必ずモメるのか?

なぜ、システム開発は必ずモメるのか?

細川義洋著
日本実業出版社 2100円(税込み)

約7割が失敗するといわれるコンピューターシステムの開発プロジェクト。その最悪の結末であるIT訴訟の事例を参考に、ベンダーvsユーザーのトラブル解決策を、IT案件専門の美人弁護士「塔子」が伝授する。


細川義洋

東京地方裁判所 民事調停委員(IT事件担当) 兼 IT専門委員 東京高等裁判所 IT専門委員

NECソフトにて金融業向け情報システム及びネットワークシステムの開発・運用に従事した後、日本アイ・ビー・エムにてシステム開発・運用の品質向上を中心に、多くのITベンダー及びITユーザー企業に対するプロセス改善コンサルティング業務を行う。

2007年、世界的にも稀有な存在であり、日本国内にも数十名しかいない、IT事件担当の民事調停委員に推薦され着任。現在に至るまで数多くのIT紛争事件の解決に寄与する。

ITmedia オルタナティブブログ「IT紛争のあれこれ」



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