秋田編:ノマド制度を利用して地元に拠点を開設――人口減少の最先端で“余白”に挑め:ITエンジニア U&Iターンの理想と現実(19)(3/3 ページ)
小学校も中学校も1校ずつ、65歳以上人口45%超の過疎地で何ができるのか……。U&Iターンの理想と現実をつづる本連載。秋田編は五城目町の廃校を利活用したオフィスで創造的な仕事に取り組む男の奮闘記です。
Uターン社員が新拠点を作る「ノマド制度」
ウェブインパクトは1994年設立の、Webシステムの受託開発や法人向けクラウドサービス開発、販売などを行う会社です。本社機能は東京の神田にありますが、五城目(秋田)、郡山、宇都宮、豊橋、さらに中国の蘇州にも拠点があります。
拠点の多くは、それぞれの地域出身の社員が地元にUターンする際に設立したものです。「今の仕事を続けたい、でも地元に戻りたい」という矛盾した2つの願いをかなえられるのは、ウェブインパクトが「ノマド制度」を導入しているからです。
出社を前提としない働き方、いわゆるリモートワークを以前から実践していたため、社員が自ら「暮らし」「働く」場所を自由に選ぶことに抵抗がありませんでしたし、今のところ働く場所が別々でも大きな問題は起こっていません。
五城目町を拠点としつつ、秋田県全体に関わっていきたい筆者にとっても、「ノマド」的な働き方は非常に魅力的でした。
田舎には“余白”がたくさんある
筆者はエンジニアではありません。新卒時にソフトウェアベンダーで品質管理エンジニアとして1年半ほど勤務しましたが、プログラミングは趣味でかじった程度です。
現在の主なタスクは、五城目コアを担うエンジニアの採用、および事業所立ち上げに関わる業務、そして県から委託を受け運営している「おこめつ部」という起業家育成支援事業の事務局業務です。
非エンジニアの筆者がこうして記事を書くのもおこがましいのですが、それでも臆さず伝えたいのは、この五城目町をはじめとした田舎で働く面白さです。
これまでにも触れましたが、大半の田舎はその土地ならではの課題に直面(あるいはこれから直面しようと)しています。「子どもが減って祭りや地域行事が維持できない」「農林水産業従事者の高齢化が深刻だ」「高齢者の急増に対して医療や介護の担い手が不足している」「地元の商店が撤退したため車を持たない子どもや高齢者の行き場がなくなりつつある」などなど……。
一方で、地域社会の課題を解決することは、来たるべき人口減少社会を受け入れるためのインフラをつくる「機会」と見ることもできます。ピンチはチャンス。そう捉えると、田舎には、「居場所」と「役割」と「出番」が多数埋まっていることに気付けるはずです。
また、協働したりサービスを提供したりする相手の顔が見え、フィードバックも得やすいので、「自分がやっていることに意義はあるのか?」「自分は何のために働いているのか?」という疑問を持つことが必然的に少なくなります。
それがITエンジニアならばなおさらです。田舎は地理的環境から利便性が下がりやすいのですが、それはITによる課題解決でQOL(Quality of Life クオリティーオブライフ 生活の質)の向上が見込める“余白”が多数あることも示しています。
もちろん、地域の企業活動を後押しできる余地もまだまだあります。そもそも、田舎ではエンジニア人材が不足気味。13社が入居する「BABAME BASE」でも、IT企業はまだ弊社のみで、「ついに五城目にもIT企業が!」と歓迎されたくらいです(笑)。
五城目コアは設立したばかりで実績はこれからですが、愛知県の豊橋コアは行政や大学と協働してさまざまなプロジェクトを走らせています。地元の大学との関係ができたことで新卒採用にもつながり、地方の人材の流出を防ぐのにも一役買っています。
クライアントとなり得る層の厚さは田舎と都市部とでは比べるべくもありませんが、リモートワークで東京コアの案件も担当できるので、地方でゼロから収入を確立するような苦労をする必要が必ずしもありません。田舎の豊かな暮らしを享受しながら、安定的な仕事という土台の上で地域の期待や課題意識に寄り添い、手応えのある働き掛けができます。それが、現在筆者が関わっている五城目コアで働く上での魅力です。
本連載ではこれから、田舎の豊かさの中でやりがいを持って仕事に取り組める可能性について、筆者の経験を基に具体的に言及していきます。どうぞよろしくお願いいたします。
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筆者プロフィール
ウェブインパクト五城目コアリーダー 秋元悠史
秋田県大仙市出身。新卒でIT企業に入社するも、1年半後には縁もゆかりもない島根県海士町に移住。離島で約5年半教育の仕事に携わる。
2016年4月にこれまた地縁も血縁もない秋田県五城目町に移住。「地元を捨てたのか」といじられながら、ウェブインパクトにジョインしながら、個人としても教育事業に携わり、2足の草鞋を履く日々。
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