ニュース解説
Pentium 4用チップセット「Intel 845」はメインストリームになれるのか? 元麻布春男 |
Intel 845チップセット |
下のMCH(メモリ・コントローラハブ)と上のICH(I/Oコントローラ・ハブ)という2チップからなる。 |
米国時間9月10日、IntelはついにSDRAMをサポートしたPentium 4対応のチップセット「Intel 845」(右写真)を発表した(インテルの「Intel 845に関するニュースリリース」)。Brookdale(ブルックディール)という開発コード名で知られてきたこのチップセットは、6月に台湾で開催された展示会「COMPUTEX TAIPEI 2001」で事実上のお披露目を済ませており、真新しさはそれほどでもない。実際、秋葉原などではこのチップセットを搭載したマザーボードが8月末あたりから出回っており、同時期に米国カリフォルニア州サンノゼ(San Jose)で開かれていたIDF Fall 2001(Intel主催の開発者向けカンファレンス)でもIntel 845搭載マザーボードが数多く展示されていた。「そうか、正式発表はまだだったか」と思った人もいるかもしれない。
正式発表される前からIntel 845が注目を集めてきたのは、「高価な」Rambusメモリ(RDRAM)をメイン・メモリに使わないで済む、SDRAM対応のチップセットだからだ。しかし、Intel 845の発売が近付くにつれ、RDRAMの価格も大幅に値下がりし、価格差はかなり縮まっている。本稿執筆時点における両者の価格差は、256Mbytes当りで5000円〜6000円(PC800 RIMMとPC133 CL2 DIMMを比較した場合)。マザーボード自体にも、Intel 845ベースのものと、RDRAM対応チップセットであるIntel 850ベースのもので価格差がありそうだが、発売して間もないためか、ベンダごと、あるいはショップごとのバラつきも大きく、一概にどちらが高いとは言えない状態だ。マザーボード・ベンダによっては、「Intel 850とIntel 840で製造上の価格差はほとんどない」というところもあるようだ。マザーボードとメモリを合わせても、Intel 845とIntel 850それぞれをベースとしたシステムの間に1万円の差はない、というのが現状ではないかと思う。
Intel 845の発表会で示された各社の省スペース・デスクトップPC |
Intel 850はRDRAMを2チャンネル実装するため、省スペース・デスクトップPCには採用しにくいものであった。Intel 845では、SDRAMの採用により、省スペース・デスクトップPCでもPentium 4を搭載できるようにした。 |
Intel 845の性能を検証する
となると気になるのは、数千円をケチって(?)Intel 845を選ぶのは正解か否か、ということだ。たとえ数千円安くても、性能がパッとしなければ意味がない。薄利に悩む大手PCベンダにとっては、「この数千円が無視できない」ということがあるかもしれないが、そもそもユーザーから望まれなければ元の木阿弥である。数千円をどう配分するか、自分でコントロールしやすい、パーツ買いしてPCを組み立てるような人にとっては、Intel 845とIntel 850の性能差は特に気になるところだろう。というわけで早速、Intel 845とIntel 850の比較を行うことにした。
Intel 845チップセットのマザーボードとしてテストに用いたのは、Intel純正の「D845WN」(D845WNの製品情報ページ)。ATXフォーム・ファクタのマザーボードだが、姉妹モデルとして、microATXフォーム・ファクタの「D845HV」も用意されている(D845HVの製品情報ページ)。左下の写真はD845WNとD845HVを並べたところだが、2つのマザーボードが、共通のデザインをベースにしていることがよく分かる。というよりもD845WNは、D845HVにPCIスロットを3つ、付け足したようなデザインになっている。この2枚のマザーボードは、BIOS、デバイス・ドライバ、マニュアルなどすべて共通だ。性能も同じだと考えられる。
D845WNとD845HV(拡大写真:60Kbytes) | Intel 845のMCH(メモリ・コントローラ・ハブ)(拡大写真:73Kbytes) |
左がD845WN、右がD845HV。一部、CNRスロット(Communication and Networking Riser:モデムやネットワーク用の専用スロット規格)の有無など製造オプションによる違いがあるものの、基本的には同じデザインであることが分かる。 | 新しくリリースされたIntel 845チップセットの中核である82845 MCH。ICH(I/Oコントローラ・ハブ)は更新されず、これまで同様82801BA(ICH2)を組み合わせる。 |
D845WNの細部は、「元麻布春男の視点:Pentium 4の新ソケットにまつわるナゾ」で取り上げたIntel 850採用マザーボード「D850MD」のデザインをほぼ踏襲している(D850MDの製品情報ページ)。「D850GB」など423ピン・プロセッサ・ソケットのマザーボードより大型化したリテンション(CPUクーラーの留め具の一部)、82845 MCH(メモリ・コントローラ・ハブ)に取り付けられたヒートシンク固定クリップ、背面のI/Oパネルに用意された4ポートのUSB、USBポートと一体化したイーサネットの10/100BASE-TXコネクタなどは、完全に同じだ。
D845WNがD850MDと異なるのは、メモリ・ソケットがRIMMソケットではなくDIMMソケット(3本)になっていることだ。ここに1Gbytes DIMMを差すことで、最大3Gbytesのメモリをサポートする。一方、D850MDはRIMMソケットを4本持つものの、RIMM 1本あたりの上限が512Mbytesであるため、最大メモリ容量は2Gbytesにとどまる。もう1つの違いは、USB 2.0ホスト・コントローラを実装するための空き配線パターンが用意されておらず、USB 2.0インターフェイスをオンボード実装するオプションがないことだ(D850MDはオンボード実装可能な設計になっている)。このあたりがIntel 850とIntel 845のポジショニングの違いなのだろう。
D845HVの拡張スロット部(拡大写真:137Kbytes) | ||||||||||||
イーサネットやサウンドなどのインターフェイスをオンボード実装しているため、さまざまなチップやコネクタがPCIスロット周辺に集積されている。 | ||||||||||||
|
気になる性能だが、ここでは新しい478ピンのPentium 4プロセッサを用いて、D850MDとD845WNで性能を比較してみた。下表のように、メモリ以外の周辺機器は完全に同一に揃えてある(実際は同じシステムで、マザーボードだけ交換した)。テストに用いたのはSYSmark 2001、3DMark 2001といった定番のベンチマーク・テスト、そしてゲームのベンチマークとして、これまた定番のQuake III Arenaと、懲りもせず(?)DroneZmarKだ。基本的にベンチマーク・テストは1024×768ドット解像度、32bitカラーの環境で行ったが、DroneZmarKに限り、グラフィックス・カードの描画性能がボトルネックにならないように、解像度を640×480ドットに落としてみた。
SYSmark 2001については「元麻布春男の視点:最新ベンチマークはPentium 4が好き」を、またDroneZmarKについては「元麻布春男の視点:N-Bench 1.2に思うベンチマーク・テストの公平性」を参照していただきたい。
スペック項目 | RDRAMシステム | SDRAMシステム |
プロセッサ | Pentium 4-2GHz | |
マザーボード | Intel D850MD | Intel D845WN |
チップセット | Intel 850 | Intel 845 |
メモリ | 256Mbytes PC800 RDRAM | 256Mbytes PC133 CL2 SDRAM |
OS | Windows Me | |
DirectX | DirectX 8.0a | |
画面解像度 | 1024×768ドット/32bitカラー/85Hz *1 | |
グラフィックス・カード | Leadtek WinFast GeForce 3TD | |
ディスプレイ・ドライバ | NVIDIA Detonator 12.41 | |
サウンド・カード | ヤマハ YMF744B | |
サウンド・ドライバ | Windows Me標準 | |
ハードディスク | Maxtor DiamondMax Plus 60 | |
テストに用いたシステムの構成 | ||
このように、マザーボードとメモリ以外のパーツを共通にしてベンチマーク・テストを実行した。 | ||
*1 DroneZmarKでは、640×480ドット/32bitカラーに設定している |
もう1つ、ベンチマーク・テストとして今回加えてみたのが、Aplix Encoderだ。松下電器産業製のソフトウェアMPEG-2エンコード・エンジンを用いたMPEG-2エンコーダ/トランスコーダであるAplix Encoderは、DVフォーマットのAVIファイルからMPEG-2ファイルを作成する、あるいはDVDビデオ非互換のMPEG-2をDVDビデオ互換のMPEG-2に変換するユーティリティである。DVDビデオ・オーサリングの前段階に使うものだ。今回用いたのは現在DVD-R/RWドライブにバンドルされているWinCDR 6.5 DVD Extensionに含まれるモジュールで、単体で入手することはできないが、どうやら近い将来改良されたものを含んだものが、新バージョンのパッケージとして販売されるようだ。
Aplix Encoderは、手軽にMPEG-2のエンコード/トランスコードを行うことを目的としており、調整項目はシンプルに出来ている。ここでは、筆者がDVカメラで撮影した3分間のビデオ(DVフォーマットで620Mbytes)を、画質優先でビットレート8Mbits/sの設定と、処理速度優先で5Mbits/sの設定の2つでMPEG-2へのエンコードを行い、所要時間を計測した。エンコードにより生成されたMPEG-2ファイルは前者が178Mbytes、後者が113Mbytesだ。ほかのテストは数字が大きい方が高速だが、このテストだけは数字が小さい方がよいことは言うまでもない。
Aplix Encoderの画質設定画面 |
Aplix Encoderは、MPEG-2のエンコード/トランスコードを行うソフトウェア。5Mbits/s、6Mbits/s、7Mbits/s、8Mbits/sという4種類のビットレートが選択可能だ。 |
テスト結果は、下表のとおりである。予想通りメモリの帯域が広いIntel 850を採用したD850MDの方が良好な結果となった。D850MDがサポートする2チャンネルのRDRAMが提供する帯域が3.2Gbytes/sであるのに対し、D845MDのそれは1Gbytes/sに過ぎない。性能差はテストによってまちまちだが、おおむね7%〜13%というところ。乱暴な言い方をすれば、Intel 850ベースのシステムが10%程度性能がよい、ということになりそうだ。全般に、3Dグラフィックスや、ストリーミング・メディアを扱うベンチマーク・テストで、性能差が大きくなる傾向が見られるが、Officeアプリケーションのテストの差が比較的大きいのがちょっと意外だった。逆に、画質最優先でのMPEG-2エンコードで、メモリの違いによる処理時間の差がでなかったのも意外だ。
テスト項目や条件など | RDRAMシステム (D850MD) |
SDRAMシステム (D845WN) |
対RDRAM比 |
SYSmark 2001 | |||
SYSmark Rating | 162 | 146 | 90.1% |
Internet Content Creation | 182 | 160 | 87.9% |
Office Productivity | 145 | 133 | 91.7% |
3DMark 2001 | |||
解像度1024×768ドット/32bitカラー | 5958 3DMarks | 5536 3DMarks | 92.9% |
QuakeIII Arena | |||
Demo2 | 164.6frames/s | 143.8frames/s | 87.4% |
DroneZmarK | |||
解像度640×480ドット/32bitカラー、GeForce3 High Q | 132.0frames/s(平均) | 122.7frames/s(平均) | 93.0% |
Aplix Encoder (3分間/620Mbytes DVビデオ) | |||
画質最優先 8Mbit/s(178Mbytes) | 15分44秒(944秒) | 16分09秒(969秒) | 97.4% |
速度最優先 5Mbit/s(113Mbytes) | 3分04秒(184秒) | 3分24秒(204秒) | 90.2% |
ベンチマーク・テストの結果 | |||
大雑把に言えば、Pentium 4のSDRAMシステムはRDRAMシステムに比べて90%前後の性能にとどまっていることが分かる。 |
Intel 850システムとの1万円の差は正当化できない?
デルコンピュータのOptiPlex |
Intel 845の発表会で参考出品された省スペース・デスクトップ型のOptiPlex。近々、発表の予定ということだ。 |
また、今回のベンチマーク・テスト結果を、以前に行った結果と比べると、D845WNにPentium 4-2GHzを組み合わせた結果は、D850GB上のPentium 4-1.8GHzより性能が悪い、ということになってしまった。現在、Pentium 4-2GHzはハイエンドということもあり、価格にプレミアがついている。そのため、Pentium 4-2.0GHzとPentium 4-1.8GHzの間の価格差は3万円以上ある。冒頭に触れたように、Intel 845ベースとIntel 850ベースの価格差が1万円だとしたら、少なくとも2GHzのPentium 4にIntel 845ベースのマザーボードを組み合わせるのはナンセンス、ということになる。1万円を惜しんで、3万円分の性能差をフイにすることは、どう考えても合理的ではない。Intel 845ベースのシステムを構築する場合、あるいはIntel 845ベースのシステムを購入する場合は、動作クロックの低いPentium 4に限定されることになるだろう。
以前のようにRDRAMが高価であれば、PC133 SDRAMを使うことにもメリットはあったと思うが、昨年からのメモリ価格暴落は、RDRAMの価格をも押し下げた。PC133 SDRAMと比べれば高価だといっても、現在のRDRAMの価格は昨年の9月時点でのPC133 SDRAMの価格より安い。256Mbytesで5000円〜6000円というメモリ価格の差では、10%の性能ペナルティ(動作クロックで2グレード以上の差)を正当化することが難しくなってきたといえるだろう。
以前筆者は、RDRAMが次世代メモリとして主流になるには、DDR SDRAMに勝つ前に、まずSDRAMに対して、明確な差をつけて勝つことが必要だと述べた(「元麻布春男の視点:DDRとRDRAMは次世代メモリ争いの決勝戦に勝ち上がれるのか?」)。今回のテスト結果を見る限り、どうやらRDRAMは「準決勝」を勝ち抜くことに成功したようだ。いよいよ次は「決勝戦」だが、DDR SDRAMをサポートするIntel 845ベースのチップセットが登場するのは2002年のこと。それまでRIMMとDDR SDRAM DIMMの価格差がどう動くのかが注目される。
関連記事(PC Insider内) | |
元麻布春男の視点 | Pentium 4の新ソケットにまつわるナゾ |
元麻布春男の視点 | 最新ベンチマークはPentium 4が好き |
関連リンク | |
Intel 845に関するニュースリリース | |
Intel 845チップセットの製品情報ページ | |
マザーボード「D845WN」の製品情報ページ | |
マザーボード「D845HV」の製品情報ページ | |
マザーボード「D850MD」の製品情報ページ |
「PC Insiderのニュース解説」 |
- Intelと互換プロセッサとの戦いの歴史を振り返る (2017/6/28)
Intelのx86が誕生して約40年たつという。x86プロセッサは、互換プロセッサとの戦いでもあった。その歴史を簡単に振り返ってみよう - 第204回 人工知能がFPGAに恋する理由 (2017/5/25)
最近、人工知能(AI)のアクセラレータとしてFPGAを活用する動きがある。なぜCPUやGPUに加えて、FPGAが人工知能に活用されるのだろうか。その理由は? - IoT実用化への号砲は鳴った (2017/4/27)
スタートの号砲が鳴ったようだ。多くのベンダーからIoTを使った実証実験の発表が相次いでいる。あと半年もすれば、実用化へのゴールも見えてくるのだろうか? - スパコンの新しい潮流は人工知能にあり? (2017/3/29)
スパコン関連の発表が続いている。多くが「人工知能」をターゲットにしているようだ。人工知能向けのスパコンとはどのようなものなのか、最近の発表から見ていこう
|
|