日本のRFID業界をけん引する人々(6)

UHF帯タグを付けてパレット利用を効率化、
日本パレットレンタル


柏木 恵子
2007年7月4日


 パレット在庫状況を把握することでCO2削減も可能

――実証実験の目的と成果は?

市村 RFIDの実証として「グリーン物流パートナーシップ会議推進モデル事業」への取り組みがあります。食品メーカーのハウス食品さまや空パレット回収卸さまに協力をいただいてRFIDタグリーダを設置しました。

 この事業は、リアルタイムで出荷拠点やパレット回収卸さまにパレットが何枚あるのかというデータを弊社サーバで集約し、パレットの回収を行っている運送会社のドライバーに携帯電話を使って情報を提供するというものです。

 つまり、空のパレットがどこのパレット回収卸さまに何枚あるかが分かるので、近くにいる車が取りに行く、あるいは、トラックに満載になる枚数が溜まったところへ取りに行くといったことができます。

 これまでは、実際に取りに行ってみないと、そこに何枚のパレットが集まっているのかが正確には分かりませんでした。その結果、無駄な車の移動が発生することがありましたが、情報を共有することで効率的な配車が可能になり、結果としてCO2が削減できるのです。実験前は、34.1%の削減を目標としていました。しかし、結果は40.6%の削減という数字になりました。

 この事業では、RFIDタグの読み取り精度の確認と、確実な発着の照合の確認もテーマとなっていました。読み取りについては、やはりうまくいかないことがあり、ゲートを通し直すといったことが発生しました。しかし、読み取りはチューニング次第で解決でき、空パレットのリアルタイムの追跡がCO2削減に効果があるという見通しが立ちました。

――事業の中で明らかになった問題点は?

市村 技術的な面としては、RFIDタグの指向性と通信距離のバランスですね。どちらも欲しいが、これはどうしてもトレードオフの関係になってしまいます。

 2000年の実験開始時点では、「読み取り範囲の広さこそよいことだ」という感じで、通信距離が長いことをよしとしていたのですが、弊社のデポの環境では、距離や方向について絞り込みが必要なことを確認しました。例えば、倉庫のような見通しの良い場所では、意図しないRFIDタグまで読んでしまう。電波の反射や干渉といった問題です。

 一番難しいのは、フォークリフトで運ぶために15枚のパレットを積み上げた状態で読むことです。RFIDタグはパレット中央の同じような位置にあり、金属でできたフォークリフトの爪があり、しかも揺れている。このような状態で15枚を同時に読むのは大変です。実験の結果を受けて、アンテナのチューニングやRFIDタグを張る位置などを、もう一度検討し直しています。「一番難しいところから始めよう」と始めたのですが、実運用としてはやはりこの部分がポイントです。

 一方で、メンテナンスのラインでは、パレットを1枚ずつ流していきながら読み取るので比較的容易です。

ベルトコンベアでの読み取りのイメージ。流れているのはプラスチック製コンテナ

――解決の方向性は?

市村 広がる電波を抑制して、ダイレクトに一番読みやすい方向に当ててやること、つまり指向性です。アンテナの置き方を工夫してみたり、電波の反射板や吸収板を使ったりして、その場所に合ったチューニングを行っていきます。

 技術的な問題としてもう1つ、RFIDタグの張り付けが大変です。既存のプラスチック製パレットが200万枚ほどあるので、RFIDタグは後付けになります。粘着材を使ってRFIDタグをシール状に加工し張り付けるのですが、パレットの素材が問題になります。

 パレットの素材であるポリプロピレンやポリエチレンは、実はモノが付きにくい素材です。分子構造的にいろんなモノを寄せ付けないのでパレットなどの成型素材としては最適なのですが、RFIDタグを張るには最大の敵になってしまいます。

 今後は新しいパレットを作る時にRFIDタグを埋め込むことも考えています。いままでのさまざまな実験では、防水や耐熱、紫外線による劣化や耐衝撃といったことの確認もやりましたので、そのあたりのノウハウは活かせそうです。

――運用面での課題は?

市村 RFIDタグが一度で全部読めるようにチューニングを行いますが、RFIDタグやリーダ/ライタ、電波の状態や障害物によって、読めないものが出る可能性があります。読み残し発生時は、「5秒でリカバリできないとだめ」だと考えています。荷降ろしであれ、パレットの受け取りであれ、パレットデポにはお客さまが来ています。RFIDタグを使ってパレットの効率的な利用を行うというのは、あくまでも弊社の都合です。余計な時間を発生させて、お客さまをお待たせできません。それは、お客さま先でRFIDを適用される場合においても同様でしょう。

 早期に着手することで物流現場のデファクトを目指す

――今後の取り組み予定は?

市村 先ほど触れましたように、パレット自体を木製のものからプラスチック製のものに変えていきます。そして、プラスチック製のものにはすべてにRFIDタグを付ける予定です。

 これらを集中管理できる拠点として、湾岸市川に新しいデポを作っています。現在、実証実験の検証を行っていますが、その結果を踏まえて、2007年秋ごろからRFIDモデル・デポという位置付けで稼働します。

 また、2006年4月から青海に「JPRイノベーションセンター」が稼働しています。ショールームやラボがあり、デモンストレーションやテストができます。こちらは、予約していただければ誰でも見学できますので、ぜひ多くの方に来ていただきたいと思います。

 物流業界において、弊社が先導してRFIDの運用例を作って、それが周知されていけば、この業界でのデファクトスタンダードとなり、RFID全体の普及に貢献できると思います。また、早くそうなりたいと思っています。

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Index
UHF帯タグを付けてパレット利用を効率化、日本パレットレンタル
  Page1
パレットをレンタルするビジネスとは
入出庫のチェックを人の勘からシステムへ
Page2
パレット在庫状況を把握することでCO2削減も可能
早期に着手することで物流現場のデファクトを目指す

RFID+ICフォーラム トップページ

 RFID+ICフォーラム 日本のRFID業界をけん引する人々
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  RFID+ICフォーラムフィード  2.01.00.91



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