第3回
人間の感覚を信じて情報を切り捨てるデザイン
株式会社内田洋行
次世代ソリューション開発センター
UCDチーム
2008年5月7日
「フィールド観察」の結果分析から立てた仮説
「プロダクトがユーザーに利用される文脈を知り、その文脈に当てはまるプロダクトを生み出すための仮説を立てる」
これはUCDの思想に基づいたプロダクトを作り出し、その空間を利用者にとって「快適な場」にするためにも欠かすことのできないプロセスです。今回の開発では、「フィールド観察」をすべてのプロジェクトメンバーで実施することで、その「場」やプロダクトに求められる「個人に応じたサービス」として最適な仮説を立てることを実現していました。
利用者の気持ちや行動からコンセプトメイキングする
どのようなプロダクト開発でも、初めに立てた仮説からコンセプトを構築するうえで、具体的にどのような技術やデザインを用いれば可能になるのかを検討します。そうする中で、実現手段を優先するあまり、“利用者視点”を見失うこともあります。
Cochiraの開発プロセスでは、コンセプトを構築するうえでも、初めに立てた仮説を常に念頭に置き、利用者視点を見失うことはありませんでした。利用者視点に立って構築されたCochiraのデザインとシステムのコンセプトを見ていきたいと思います。
Concept 1:「どこにいるのか分かるように」
駅員さんが制服を着ることで、そのヒトが駅員さんであることを人々が知り、皆が目的地を駅員さんに聞くようになる。ヒトの目を引き付け、それが目的地案内システムだと分かるようなデザインを提供することで、駅員さんを見つけるのと同じくらい、利用者が利用するきっかけを容易に作ることができるのではないか。愛着がわき、近寄りたくなる、そして使いたくなるデザインを意識する。
Concept 2:案内は「直感的に」
駅員さんは、初めは指で目的地までの方向を示しながら最低限の言葉で案内する。目的地に行くまでの情報がさらに必要だと判断すれば、そこから情報を増やして教える。
プロダクトに“指”のようなものを付け、それが単純な方向指示をすることだけに表現を絞ることで、あたかも駅員さんが指を差しながら「その目的地はこっちです」と案内するような感覚を提供する。また、利用者がさらに詳細な情報が必要な場合に備えて、目的地までの詳細な情報を表示するモニタを用意する。
Concept 3:利用するきっかけは「簡単に」
システムはまず利用されるきっかけを作ることが重要である。それには駅員さんに聞くのと同じくらいなじみやすい入力インターフェイスが必要である。
多くの駅利用者が利用しているSuicaに一度だけ目的地を登録すれば(目的地の登録は、駅員さんがしてもよい)、あとは、その「場」その「場」にあるプロダクトにSuicaをタッチしていくだけで目的地までたどり着けるようにする。
Concept 4:「個人に応じた案内」
駅員さんは、個人に合わせて英語で案内したり、遠回りでもバリアフリールートで案内したりする。最適な案内方法というのは、個人に応じて違うものである。利用者が持っているSuicaに個人の「属性」情報を持たせることで、「個人に応じた案内」を実現する。
以上のコンセプトを見て分かるように、Cochiraの開発プロセスでは、初めに立てた仮説からコンセプトを構築するうえでも開発者視点ではなく利用者視点で開発を進めることが徹底されています。そのため、開発プロセスの始まりから終わりまで、ユーザー像を見失うことなく開発を進めることができたのだと思います。
また、プロダクト開発は、そのプロジェクトで決めたコンセプトをベースに進められていきます。Cochiraの開発プロジェクトでは、デザイナー、ソフトウェアエンジニア、ハードウェアエンジニア、コンテンツデザイナー、JR東日本関係者など、プロジェクトにかかわるすべてのメンバーが、このコンセプト構築にかかわりました。そのため、プロジェクトの関係者全員でコンセプトに共感することができ、その後のプロセスをスムーズに運用することが可能になったのだと思います。
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Index | |
人間の感覚を信じて情報を切り捨てるデザイン | |
Page1 駅空間での目的地案内システム「Cochira」 複雑化する駅空間 「個人に応じた案内サービス」をシステムで実現するには |
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Page2 「フィールド観察」の結果分析から立てた仮説 利用者の気持ちや行動からコンセプトメイキングする |
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Page3 利用者の満足を満たすための実現技術「RFID」 段階的に情報を提供するためのモニタでの案内 分かりやすい目的地登録 |
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Page4 多くの人の共感を呼ぶことになった「Cochira」 |
モノ/ヒトをつなぐこれからの「場」のデザイン |
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