第3回 ヒューマンファクターを忘れてはならない


布施 圭介
ソーバル株式会社
ワイヤレス事業部
フィールドエンジニアリンググループ
ユビキタスプラットフォーム開発チーム
課長
2007年7月18日
RFIDシステムを導入したものの期待どおりのパフォーマンス向上につながらない。高度な無線通信技術のノウハウを持つエンジニアがチューニングポイントを伝授する(編集部)

 前回は、一般的な「チューニング」を例に引きながら、RFIDにおけるチューニングの考え方を説明しました。チューニングに、さまざまな方法論があることをご理解いただけましたでしょうか。

 RFIDは使いこなしが難しいと思われがちですが、その要因の1つとしてチューニングの対象となるパラメータが多数で複雑であることが考えられます。つまり、パラメータが不安定であったり、暗黙的であったり、あるいは双方のパラメータが相関的に存在する場合が多いのです。しかし、しっかりとした方法論に基づいて、目的と目標の設定およびパラメータの洗い出しを行えば、チューニングにより性能を引き出すことは可能なのです。

 今回は、RFIDの技術的な部分以外のパラメータに着目し、システム全体としてのチューニングについて考えてみます。

 技術的なチューニング以外の要素

 前回の説明で、RFIDの技術的な部分のチューニング方法は見えてきたのではないかと思います。しかし、システム全体を考えてみると、技術的な部分以外にも多くの要素があります。

 RFIDの技術的なチューニングができていても、それ以外の要素が不完全ではシステムとしては中途半端になります。また、RFIDを導入することで追加される作業もあるでしょう。

 前回の記事でも書きましたが、全体のパフォーマンスに占める各要素の重みに従って、チューニングに優先順位を付けるべきです。例題として、工場などの作業現場における工程情報収集システムで考えてみましょう。

 ここでは、工程情報収集システムを工程指示票、工程実績の情報を収集管理するシステムと定義します。システムの機能は以下のとおりです。

  • 工程指示票発行:対象となる部材にどのような加工をすべきかを指示する
  • 工程実績入力:誰が、いつ加工を実施したかを記録する
  • 工程管理:対象となる部材の作業進ちょく状況の確認や作業実績記録を管理する

 RFIDを導入した工程情報収集システムは図1のようになります。

図1 RFIDを導入した工程情報収集システム

●工程指示票発行

 工程指示票が発行されるタイミングでRFIDタグとの関連付け作業を行います。リライタブル型のRFIDカードに工程指示票を直接印字する場合もあります。

 バーコードを使ったシステムでは、工程指示票を発行する際にシステム側でユニークな番号を生成し、バーコードとして印刷します。そして、そのユニーク番号を検索キーとしてデータベースに登録します。RFIDの場合は、工程指示票にRFIDタグの固有IDを関連付けるところが違いとなります。

 この作業を順に追ってみましょう。

1.工程計画情報入力

 工程計画情報を入力します。手入力やデータベースからの取り込みなどが考えられます。この作業はバーコードを使うシステムでも必要になります。

2.工程指示票印刷

 1で入力された情報を基に工程指示票を印刷します。バーコードを使うシステムでは、ユニークな工程指示票番号を生成、印刷することで作業が完了します。

3.タグID入力

 RFIDタグの固有IDをデータベースに入力します。これは、RFID特有の作業になります。ここではリーダでRFIDタグを読み取って入力することにします。IDに特定の意味は持たされていませんが、ユニークなものになっているので重複することはありません。従って、ほかのRFIDタグと区別できます。

4.関連付け

 工程指示票とRFIDタグの固有IDを関連付けます。ここで、固有IDと対象物や付随する情報がデータベースに登録されます。また、固有IDはデータベースの検索キーとして設定されることが多いようです。この作業は、RFIDを利用するために必要不可欠なものになります。

5.RFIDタグ張り付け

 RFIDタグを対象物に張り付けます。この作業でRFIDタグに情報を書き込むこともあります。

●工程実績入力

 各作業工程の開始、終了のタイミングで作業実績を入力します。リーダ/ライタが工程ごとに設置してあれば、RFIDタグ付き工程指示票をかざすだけで時刻をデータベースに入力できます。工程指示票ごとに実績を入力する場合は、手入力作業が発生します。

●工程管理

 各工程の進ちょく情報をデータベースから抽出します。必要に応じて画面表示も行います。

 作業効率の変化を検討する

 RFIDを使うことで各作業の効率はどうなるか考えてみましょう。

 工程指示票発行作業では、工程指示票とRFIDタグの関連付けを1枚ずつ行いますので、RFIDタグのID入力、関連付けおよびRFIDタグ貼り付けの分だけ効率低下となります。

 工程実績入力作業では、RFIDタグを一括読み取りすることで作業効率の向上が期待できます。しかし、工程指示票ごとに情報を入力する場合は従来どおりの作業効率になります。

 工程進ちょく管理では、工程進ちょく状況を確認するのであれば、データの検索結果を画面に表示するだけなのでバーコードとRFIDで違いはありません。特定の工程を選択して確認する場合は、対応するバーコードやRFIDタグを準備しておくことで検索結果を表示することができます。

 このようにRFIDを使った場合はRFIDタグの関連付けに関する手間が増えます。しかし、工程実績入力作業ではバーコードに比べてRFID導入による効率向上が見込まれます。ただし、多少のエラーが発生することを考慮し、エラーリカバリーを念頭に置く必要があります(第1回参照)。

 RFIDを導入することで、同一のシステムにおいて手間が増える部分と効率が上がる部分の両方があることを理解いただけたと思います。では、これまで説明してきたチューニング方法で増える手間を最小に、効率向上を最大にすれば、システムとして“最適化”されたことになるのでしょうか。

 
1/2

Index
ヒューマンファクターを忘れてはならない
Page1
技術的なチューニング以外の要素
作業効率の変化を検討する
  Page2
“人間要素”に対するチューニング
RFIDの特徴を知り、それを生かす
置き換えよりも併用を考える


RFIDシステムのチューニングポイント 連載インデックス


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