第9回 自動認識総合展 レポート

本格的な導入が進むRFIDのさらなる可能性は


岡田 大助
@IT編集部
2007年9月21日
RFIDやバーコードなどの自動認識技術の最新トレンドが一堂に会した「第9回 自動認識総合展」。大規模システムからニッチなソリューションまでをレポートする(編集部)

 RFIDの導入は確実に進んでいる。2007年9月12日から14日にかけて開催された「第9回 自動認識総合展」では、実証実験ではなく実サービスとして運用されているRFIDシステムが数多く展示された。システムの規模は、全国レベルのものから極めてニッチな用途のものまでさまざま。興味深いものをいくつか紹介したい。

 ケータイに押されるPHSを上手に活用する位置情報システム

 大日本印刷が展開する物流トレーサビリティシステム「トレイルキャッチ」は、アクティブタグと温度センサーを組み合わせたもの。これだけならば、これまでにも同様のRFIDタグが存在していたが、通信手段としてPHSを採用しているのが特徴だ。

 トレイルキャッチは単三乾電池2本で動作する。電池の寿命は、発信間隔によって2.5カ月から2年と異なる。発信間隔は、10分、30分、1時間、2時間の4パターンから選択できるほか、発信タイミングで圏外だった場合は、通信圏内に入ると同時にデータを送信する仕組みが用意されている。なお、温度情報は常時、メモリ内に蓄積されている。

 電気通信事業者協会(TCA)が毎月公表している携帯電話やPHSの契約者数の統計によれば、携帯電話の利用者数が伸び、PHSのそれは減少している。しかし、PHSシステムは全国に16万基地局を持つ巨大インフラだ。全国規模(人口カバー率99%)で利用できるうえ、月額利用料が3000円という安価なシステムを構築するには、PHSは格好のシステムである。

 トレイルキャッチでは、3点測量の要領で最寄のPHS基地局を割り出し、それを電波発信時点の位置情報として記録する。そのため、GPSのような精度の高い位置特定はできない。しかし、配送遅延や温度異常の監視のためには十分な精度であり、運行管理を簡略化できる。

トレイルキャッチの端末。この中に、メモリ、温度センサー、PHSモジュールが入っている。今年度の自動認識システム大賞を受賞した

 宝石管理システムやワッペンタグといったニッチ製品が登場

 クリードシステムズは、指輪やネックレスといった高価な商品を持ち出しを管理するシステム「J-CAS」を出展した。宝石卸商への導入が決定しており、担当者は「宝石や革製品といった対象となる商品の単価が高いものはRFIDシステムを導入しやすい」とコメントしている。

 RFIDタグは13.56MHz帯を採用。宝石の値札は、商品の簡単な説明が書かれている面と値段が書かれている面の2面構造になっているが、同社では値札を入れる小袋を3層構造にし、RFIDタグを真ん中の層に入れる工夫をしている。それぞれの層の開口部は異なる方向を向いており、既存の値札と同様の見た目と運用方法を維持しつつも、RFIDタグを付けるという作業がスムーズに行えるようになっているのだ。

 また、専用のリーダ/ライタは、宝石卸商が宝石を店舗などに持ち出す場合の箱の形状を考慮にいれて、アンテナを水平方向と垂直方向に配置し、スイッチで切り替えて使えるようにしてある。

 例えば、ロット棒と呼ばれる棒状のクッションに指輪をはめて専用のケースに10本程度まとめて入れる場合は、RFIDタグが入った値札は箱の底面に平行になる。一方、クッションに溝を切った形のサンプルケースに入れる場合は、値札ごと溝に差し込むことになるので、RFIDタグは垂直に立った状態になる。2種類のアンテナを効率よく使うことで、RFIDタグの読み取り率の向上を図っている。

左)指輪を収納するロット棒ケース
右)サンプルケースの大きさに作られた専用リーダ/ライタ

 富士通ブースでは、富士通フロンテック、ミノダ、都築電気が共同で開発した「ワッペンタグ」を展示。富士通では、衣類に貼付するためのUHF帯ソフトリネンタグを展開しており、すでに帝国ホテルや大手宅配業者のユニフォームの管理に採用が決まっている。

 ソフトリネンタグは、耐熱性、耐水性、耐圧性に優れ、洗濯回数100回以上の耐久性を確保している。しかし、衣類への取り付けという点では、襟首や袖に縫い付ける必要があり課題が残されていた。

 ワッペンタグは、「ユニフォームにワッペンはつきものだ」という発想から、ロゴマークを刺繍したワッペンや、氏名を刺繍したネームプレートの裏にUHF帯ソフトリネンタグを張り付けたもの。リネンタグ単品に比べて、衣類への取り付けが容易になり、用途を拡大できる。

 ユニフォームにRFIDタグで付けることで、貸与や回収の管理だけでなく、クリーニング時の一括検品、社外への流出防止、着用周期の偏りや経年劣化の管理、特定の場所への出入りの検知などに役立てることが可能になる。

ワッペンにUHF帯リネンタグを埋め込んである(裏側にうっすらとRFIDタグが見える)


 既存のUHF帯リーダ/ライタをスペアナ化するファームウェア

 オムロンは、同社がすでに販売しているUHF帯RFIDリーダ/ライタ「V750」シリーズをそのまま簡易スペクトルアナライザにする改良版ファームウェアを発表した。現行のファームウェアでもノイズチェックツールとして「チャネルモニタ」が提供されているが、大幅な機能強化となる。

 提供が予定されている機能は、RFIDタグの周波数特性評価、周囲の電波環境測定(会場ででも周辺の電波を受信したリアルタイムデモに多くの参加者が興味を持っていた)、RFIDタグの受信強度測定、コリジョン・ログの4つ。

 RFIDタグの周波数特性評価は、周波数をスイープさせるといった技術的な制約や電波法の関係でリーダ/ライタ単体では実行できないものの、既存のリーダ/ライタをそのまま利用できるコストパフォーマンスの高さが評価できる。オムロンでは、「UHF RFIDアナライザの機能を無償アップデートとして提供するのか、一部を有償とするのかは検討中」とコメントしている。

左)会場を飛び交う電波をリアルタイムに受信中。見た目は高価なスペアナ同様だ
右)UHF帯RFIDリーダ/ライタ「V750」

 
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Index
本格的な導入が進むRFIDのさらなる可能性は
Page1
ケータイに押されるPHSを上手に活用する位置情報システム
宝石管理システムやワッペンタグといったニッチ製品が登場
既存のUHF帯リーダ/ライタをスペアナ化するファームウェア
  Page2
製造現場における工程管理や作業支援に浸透
新しい技術、新しい発想でRFID適用分野は拡大へ
医療廃棄物の追跡システムは2年前から稼働中
  Page3
ハンディ端末はマルチ端末化が進む
自動認識ソリューションモールでは、ちょっぴり近未来なデモ

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