第1回、第2回を執筆した手嶋氏から引き継ぎまして、第3回と第4回はNEC小林が執筆します。技術・開発者寄りの視点からというより、利用者・運用者寄りの視点から見たSNSの企業内利用について、実際にSNSを取り入れた経験を基に書かせていただきます。
なお、筆者はプログラムの専門家でも、SEのプロフェッショナルでもありません。あくまでSNSの利用者の1人であり、運用者の1人という視点からとらえた企業内SNSの姿です。どうかご了承ください。
第1回の記事で手嶋氏が紹介されていたとおり、SNSはあらゆる組織で使われる可能性があります。
多くの企業ではすでに、業務に必要な公式の情報を共有したり活用したりするために、グループウェアやEIP(Enterprise Information Portal、企業情報ポータル)、メーリングリストといったツールを活用しています。
社内SNSは、こういった公式の情報を取り扱うインフラとしてだけではなく、業務に関係するかもしれないが公式に扱うほどではない意見や疑問提起、「休憩スペースや食堂などで交わされるような」個人的な興味や趣味の話題まで幅広く許容します。従来であれば埋もれてしまっていたような情報を共有することで、「社内コミュニケーションの活性化を図り、ビジネスへの好影響を期待できる」システムといえるでしょう。
SNSは「あらゆる問題を解決できる、既存の業務ツールすべてを置き換えられる魔法のツール」ではありません。あくまで「既存の業務ツールのすき間を補完し、コミュニケーションやノウハウの共有を促進するためのツール」と認識したうえで、目的に合わせて活用してこそ、そのユニークな真価を発揮します。
OpenPNEは、運用者側の視点から見ると「導入の障壁が非常に低い」というメリットがあり、利用者側の視点から見ると「mixiやモバゲータウンなどの有名SNSを利用したことがあれば、直感的に使い方が分かる」というメリットがあります。導入の障壁が低いため、“複数”のSNSを設置して運用することも容易です。
大きな企業になると中には複数の組織があるため、大小さまざまな複数のSNSが効果的に機能するケースも出てきます。
企業内SNSとして最も大きな枠組みのものはおそらく「全社規模SNS」です。このSNSは、日常の中での“ちょっとした気付き”や“ふと感じた疑問”、自分が直接はかかわっていないかもしれない製品やサービスに関する雑感や提案、新聞や雑誌などで気になった記事やニュースの共有や意見交換の場として機能するのではないでしょうか。
従来であれば同じ企業にいながらまったく接点がない人は大勢います。まったく違った視点を持った人たちの考えに触れたりコミュニケーションを取っていく中で、新たなアイデアが生まれてきたり、コラボレーションが実現するきっかけになることもあるでしょう。
細かい枠組みでは、「部署」や「グループ」、「プロジェクト」単位のSNSがあります。これは、全社SNSのように同じ企業の中とはいえ不特定多数の目に触れたくはないような、プロジェクトの進ちょく報告やグループ内でのスケジュール調整などの場として活用できるでしょう。
また、企業内SNSの枠からは少し外れるかもしれませんが、外部から参照可能なSNSをパートナー企業との連絡や意見交換の場として活用したり、出先からのちょっとしたメモの共有といった用途にも活用したりもできそうです。この場合は、しっかりとアクセス制限やセキュリティ対策をする必要があります。
実際に企業内でSNSを有効活用するためには、ただSNSを設置すればよいというものではありません。「荒れない」ためのルールを明確にしつつ、盛り上げていく必要があります。
とはいっても、SNSは自由な意見が飛び交ってこそ真価を発揮することが多いです。そのため、利用者に徹底してもらうルールはできるだけ単純明快に、できるだけ制約は少なくした方がよいでしょう。企業や組織によっても変わってくると思いますが、下記のようなところが妥当でしょうか……。
そもそもSNSの趣旨や目的によって、運用も使われ方も違ってきます。プロジェクト単位のSNSのように業務上必須なツールとして使っているのでもない限り、特に全社規模のSNSなどでは、組織の全員を強制的に参加させればよいというものではないでしょうし、参加している全員が活発に利用しなければいけないというものでもないでしょう。
基本的に「クチコミで広めて、使いたい人は使ってください」というくらいのスタンスがちょうどよいと思います。
参考までに、NTTデータ社の実績でも「全社SNSのアクティブ率は1/3程度」とのことです(参考:2006年7月31日のNTTデータニュースリリース「社内行動改革の取り組みについて〜社員の自主的な提案により、ボトムアップで行動改革の実現を目指す〜」)。
自由に利用してもらえる環境を整えるためにも、しっかりと要所を押さえた運用体制を作る必要があります。一般的なWebツールにも共通する内容になりますが、最低限次に挙げる3つのポイントは押さえておくとよいでしょう。
SNSの運用に限りませんが、サービスを提供するためにはサーバやアプリケーションを安定して稼働させる必要があります。既存のサービスやシステムに悪影響を与えないよう、OSやミドルウェアを含めたシステムのメンテナンスやアップデート、セキュリティ対策が必要になるでしょう。
SNSの運用形態にもよりますが、完全招待制ではなく任意参加が可能なサービスとして運用した場合、誰が参加しているのか分からない状態になってしまう可能性があります。
そういった意味でも、先に挙げたように「所属と実名を明記する」ように徹底する、場合によっては完全招待制として運用する、IPアドレスでフィルタリングしてアクセス制限したりするなどの対策が必要となるかもしれません。
また、企業内のみで運用しているとはいえ、自分の公開した日記やコミュニティへの書き込みなどを誰が目にするか分かりません。それこそタテマエごとに、全社公開のSNSと部署やプロジェクトごとのSNSを別々に構築するなどした方がよい場合もあるでしょう。
SNSは、企業内やグループ内のコミュニケーションを活性化させ、新しいアイデアを創発する場です。ですが、使い方によっては時間とリソースの浪費で業務の妨げになると考えられてしまうこともあります。各自がしっかりモラルを持つか、利用上の指針を打ち出すなどが必要になってくるかもしれません。
ところで、【2】で挙げた機密保護にもかかわってきますが、「企業内SNSは情報漏えいリスクを増大させる」という意見を耳にすることがあります。
確かに、機密情報とは思っていなかったような内容を日記に書いてしまったり、企業から見てあまり好ましくないトピックが作られてしまったり、という可能性はあります。
一方で、もし企業内SNSがなかったとしたら、それらの情報は企業の管理の届かない、社外のSNSやブログ、掲示板などで展開されてしまっていたかもしれません。また、利用者が業務の中で感じたちょっとした疑問などが、大きなトラブルを未然に防ぐきっかけになるかもしれません。結果的に、企業内SNSは情報漏えいのリスクを減少させることにつながるかもしれません。もちろん、しっかりした運用体制を作っていることが大前提ですが
それでは実際、筆者の周りでどのようにSNSを活用しているか、事例をご紹介します。ここで紹介するSNSは、筆者が参加していて、かつ運用も担当しているものです。
筆者の職場にはもともと、情報活用のためのツールは充実していました。Webブラウザベースのグループウェア、EIP、ナレッジ共有ツール、IPフォン、全社ブログ、複数のメーリングリスト……。そんな中で、SNSは「それらのツールのすき間を埋める、コミュニケーションと情報共有のためのツール」として、まずは自分たちで実際に運用してみることで、どのように活用され何が起こっていくのかを試し、ノウハウを蓄積するために試験導入しました。
筆者の企業内には現在、大小さまざまな複数のSNSが設置されています。小規模なものまで含めると少なくとも2けた、把握していないものまで含めるといくつあるのか分かりませんが、筆者は主に2つの企業内SNSを活用しています。
1つは全社から利用可能なもの、1つは部署内からのみアクセス可能なものです。さらに、企業内SNSではないですが、プロジェクト遂行用に協力会社と共用しているSNSなどもあります。
全社から利用可能なSNSは完全招待制で運用しています。全社から利用可能になっていますが、社内向けのSNS活用セミナーでの告知や、個人的な人脈を通した告知のみで展開しています。
全社ブログと用途が重なるという不安もありましたが、実際には「不特定多数に対してのブロードキャスト」はブログで、それ以外の「ちょっとした情報交換やコミュニケーション」はSNSでと、うまくすみ分けができているようです。
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引き続き、次ページでは「部署」内からのみアクセス可能なSNSの使い方の例を紹介します。
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