元麻布春男の焦点ATIの攻勢でグラフィックス市場の勢力図が変わる?元麻布春男 |
RADEON 9700チップ |
DirectX 9に本格対応し、実装されるトランジスタ数は1億1000万個と、Pentium4(Northwood)の5500万個の2倍となっている。 |
カナダのATI Technologiesは、現存する一般的なPC向けグラフィックス・チップ/カードのベンダの中では、実質的に最も長い歴史を誇る会社だろう。そのATI Technologiesが2002年8月1日、日本国内向けに新製品の発表会を開催した。今回発表となったのは、ハイエンド向けのグラフィックス・チップ「RADEON 9700」とメインストリーム向けの「RADEON 9000」の2シリーズである。いずれもグラフィックス・カード製品として、PC用に加えて、Macintosh用もラインアップされることになっている。今回は、NVIDIAのGeForceシリーズとともに市場で人気の高いATI TechnologiesのRADEONシリーズが、新製品でどのように変わったのかを見ていこう。
ここ数年、新しいハイエンド・グラフィックス・チップが登場すると、それまでのハイエンド・チップがミッドレンジに下りてきて、企業向けのPCにも採用される傾向にある。ハイエンド・グラフィックス・チップの動向を知ることは、次世代クライアントPCのグラフィックス機能を予見することにもつながるだろう。
次世代のDirectX 9に対応するハイエンド向けの「RADEON 9700」
ハイエンド向けのRADEON 9700は、「シリーズ」といっても現時点で1モデルしか明らかになっていない。シリーズという以上は、2つ以上のチップがラインアップされるようになるハズだ。最近のグラフィックス・チップは、プロセッサと同様、最大クロック周波数の異なる複数のバージョンでラインアップ化されることが多い。しかし、いまのところRADEON 9700の動作クロック自体が確定していないため、その低クロック版(従来のパターンなら、製品名は「RADEON 9700 LE」か?)など発表のしようがない、というところなのだろう。現時点ではRADEON 9700のコア・クロック*1は300MHz以上、メモリ・クロックは600MHz以上(DDRによる300MHz以上×2倍)としか発表されていない。
*1 ここでいう「コア・クロック」とは、グラフィックス・チップの中核部分、すなわち描画やジオメトリ演算などを実行する論理回路を駆動するクロック信号の周波数のことを意味する。また「メモリ・クロック」は、グラフィックス・メモリを駆動するクロック信号の周波数を指す。もちろん、周波数が高いほどチップは高速に動作できる。 |
RADEON 9700の最大の特徴は、Windowsの次世代マルチメディアAPIである「DirectX 9」に本格対応した初のグラフィックス・チップであることだ。現行のDirectX 8.1に対し、新バージョンのDirectX 9は、2002年内にも正式リリースされるといわれている。一部で英語版のグラフィックス・カード製品の流通が始まったMatroxの新しいグラフィックス・チップ「Parhelia-512」も、DirectX 9の機能の一部である「Displacement Mapping*2」「Vertex Shader 2.0」を取り込んでいたが、RADEON 9700ではDirectX 9の機能のほとんどをカバーできているようだ(Parheliaについては「元麻布春男の焦点:新グラフィックス・チップ「Parhelia」でMatroxは復活するのか?」を参照)。Vertex Shader 2.0とPixel Shader 2.0の両方をサポートするほか、浮動小数点精度でのピクセル処理にも対応する。Displacement Mappingも、すべてハードウェアではなく、ソフトウェア・レベルでの実装部分が残っている可能性があるものの、サポートされているようだ。
*2 頂点マッピングとも呼ばれる。3Dオブジェクトの表面に頂点情報を貼り付けることで、簡単に複雑な形状を表現する技法。例えば、球体にDisplacement Mappingを施すことで、人の顔やクルマなどに変形させることができる。頂点情報を少しずつ変化させることで、人の顔から動物の顔に変わるといった表現も可能になる。 |
性能という点でもRADEON 9700は、4本のジオメトリ・パイプライン、8本のピクセル・パイプラインを内蔵し、300MHz以上の動作クロック、256bit幅のメモリ・バス、AGP8xモードのサポートなど、現存する中では最も性能の高いグラフィックス・チップと見て間違いない。ATI Technologiesの発表によると、最も近い競争相手の2倍の性能という。この「競争相手」とは、恐らくNVIDIAのGeForce4 Ti 4600のことだろう。
1億トランジスタを超えるRADEON 9700チップ
こうした機能や性能を実現するために、RADEON 9700のトランジスタ数は1億1000万個を突破した。ちなみにライバルのNVIDIA GeForce4 Tiは6300万トランジスタで、最近発表されたParhelia-512でも8000万トランジスタだ。いかにRADEON 9700のトランジスタ数が多いか、ということが分かる。これだけのトランジスタ数を集積したチップだけに、当初、RADEON 9700の製造は0.13μmプロセスの実用化を待ってから行われる*3、と伝えられていたが、実際には台湾のファウンドリ企業TSMCの0.15μm半導体製造プロセスで量産されることとなった。これは、このタイミングを逃してしまうと、リテール市場では米国の新学期セール、PC OEM向けでは年末商戦モデルへの採用に間に合わなくなる、という判断が行われたと思われる。
*3 製造プロセスが共通な半導体の場合、基本的にトランジスタ数が多いほどチップの面積は大きくなる。すると歩留まりが悪くなり、1チップ当たりの製造コストが高まってしまうほか、消費電力や発熱量も増大してしまう。これらは、商品化において大きなデメリットとなる。そのため、メーカーは微細化レベルを下げるなどして、なるべくチップ面積を小さくするよう努力する。 |
となると、気になるのは発熱量と価格だ。このうち発熱量については、展示されていたプリプロダクション段階のチップを用いたグラフィックス・カードを見ると、ごく標準的な大きさの冷却ファン付きヒートシンクが装着されていた。また搭載グラフィックス・カードの価格の方も、128Mbytesのグラフィックス・メモリ搭載モデルが米国で399ドル(推定小売価格)とされており、最近のハイエンド向けグラフィックス・カードとしては、比較的リーズナブルとなっている。日本国内ではオープン価格だが、実売価格は出荷当初から5万円を切ってくることが予想される。このRADEON 9700の出荷予定は8月下旬とのことだ。つまり、日本国内でも年末商戦向けのハイエンド・モデルに、このRADEON 9700が搭載されてくることになる。
発表会場に展示されていたRADEON 9700のカード |
このグラフィックス・カードには、グラフィックス・メモリとして4Mbit×32構成のDDR SDRAMが基板の表と裏に、合わせて8個搭載されていた。カード右上端に電源コネクタが用意されていることに注目したい。消費電力の増大に合わせて、電源ユニットから直接、安定した電力供給を受けるためだろう。テレビ・エンコーダとTMDSトランスミッタ、2個のRAMDAC(400MHz)などすべてグラフィックス・チップが内蔵しているので、カード上の部品実装は比較的すっきりとした印象を受ける。 |
従来のハイエンド・クラスと同等機能のメインストリーム向け「RADEON 9000」
メインストリーム向けのRADEON 9000シリーズは、コア・クロック275MHz/メモリ・クロック550MHz(DDRによる275MHz×2倍)のRADEON 9000 PROと、コア・クロック250MHz/メモリ・クロック400MHz(DDRによる200MHz×2倍)のRADEON 9000の2モデルからなる。クロック以外の機能は、両者とも同じだ。前者を搭載したグラフィックス・カードの米国での推定小売価格が129ドル、後者が109ドルとなっているが、すでに国内でRADEON 9000 PROを搭載したサードパーティ製カードが1万5000円前後で販売開始されている。チップの量産を請け負うのは、RADEON 9700シリーズと同じTSMCで、製造プロセスも同じ0.15μmプロセスだ。
RADEON 9000シリーズの特徴をひと言で表せば、リデザインすることで従来のRADEON 8500に相当する機能をメインストリーム向けに低価格で提供するチップ、ということになる。従ってメインストリーム向けといっても、プログラマブル・シェーダを含むDirectX 8.1の機能をほぼサポートしており、このクラスでは機能的に突出した存在となっている。実際、ほかにはSiSがXabreでPixel Shader 1.3のサポートを行っているが、Pixel Shaderの性能は必ずしも高くない。ATI Technologiesは1世代前のハイエンド・チップのテクノロジを、次の世代のメインストリームに下ろしてきたわけだが、最大のライバルであるNVIDIAがGeForce4 MXで必ずしもGeForce3の機能を継承しなかったのと比べ、際立った違いを見せている。
現在、GeForce4 MX 460を搭載したカードが1万5000円前後で市販されているが、RADEON 9000 PROを搭載したカードの供給が増えるにつれ、価格が下がっていくことが予想される。これはちょうど、Xabre 400の登場でGeForce4 MX 440/MX 420を搭載したカードの価格が下がったのと同じことだ。仮にGeForce4 MX 460搭載カードとRADEON 9000 PRO搭載カードで、ベンチマーク・テスト上の性能が大きく変わらなかったとしても、プログラマブル・シェーダをサポートしたRADEON 9000シリーズの方が、基本的にDirectX 7世代のハードウェアであるGeForce4 MXシリーズに比べ、将来的なソフトウェア・サポートの点で有利であるからだ。
強化された動画再生機能 |
新製品発表はまだ続く?
今回の発表で、ATI Technologiesのグラフィックス・チップのラインアップは、下表のように更新された。
セグメント | 製品シリーズ |
ハイエンド | RADEON 9700シリーズ |
メインストリーム | RADEON 9000シリーズ |
バリュー | RADEON 7500 |
ローエンド | RADEON 7000 |
更新されたATI Technologiesのグラフィックス・チップのラインアップ |
強いて問題を挙げれば、RADEON 9700とRADEON 9000の価格差だろう。前述のようにRADEON 9700が399ドルなのに対して、RADEON 9000 PROは129ドルと、現時点では250ドル以上という大きな価格差が存在する。今後、この間を埋めるものとして、RADEON 9700 LE(RADEON 9700の廉価版)が登場すれば若干詰まるだろうが、それでもその幅は広い。
実は、この間を埋めるものとして、2002年第4四半期に「RADEON 9500」がリリースされる予定であることが明らかになった。RADEON 9500については、RADEON 9700と同様、DirectX 9とAGP 8xモードに対応したアクセラレータという以上の詳細は明らかになっていない。しかし、RADEON 9700 の動作クロックを下げたRADEON 9700 LEが存在する以上、RADEON 9500が単なるRADEON 9700の低クロック版でないことは明らかだ。パイプラインの数を減らすなど、何らかの調整が行われるものと思われる。価格と性能の両面で、意外とRADEON 9500がメインストリームの本命になるかもしれない。価格的にも、ハイエンドの企業向けクライアントPCでも採用される可能性がある。
こうしたATI Technologiesの攻勢によって、一時NVIDIAの1強といわれていたグラフィックス市場の勢力図が大きく変わる可能性が出てきた。前述のようにハイエンドのグラフィックス・チップは、家庭向けのハイエンド・デスクトップPCから採用されていく。しかし、部品を共通化した方が安価で済むことから、順次、それらのチップが企業向けクライアントPCにも採用されていくことになる。きっと2年もしないうちに、RADEON 9700相当のグラフィックス・チップが企業向けクライアントPCでも使われることになるだろう。
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関連リンク | |
RADEON 9700の製品情報ページ | |
GeForce 4の製品情報ページ | |
Parhelia-512の製品情報ページ |
更新履歴 | |
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