アプリケーションを通じて個々のデバイスにコンテンツが自動的に同期される「こちら側」を中心とした世界観。ソフトウェアとハードウェアを同時に扱ってきたアップルならではの「クラウド」の姿を見ていこう
アップルが、デベロッパを集めて行うApple World Wide Developer Conference。中でも、新OSの発表などで毎年、注目を集めるKeynote Speechの模様を紹介します。3つのキーワード、「OS X Lion」「iOS 5」そして「iCloud」とは何か?
ディー・エヌ・エーの立薗理彦(たちぞのまさひこ)です。去年の年末から米国のサンフランシスコに移り、関連子会社ngmocoのスタッフとともにスマートフォン向けモバイルゲームプラットフォーム「mobage」のゲームエンジンの開発などに関わっています。
オフィスが会場から近いこともあり、WWDCの開催が発表されると同時にチケットを購入し、キーノートにも当日の朝早くから並んで参加しました。すでにいろいろな媒体でレポートを目にした方も多いかと思いますが、このレポートは、会場でのデベロッパの反応と、情報の網羅性に重点を置いて書いています。これを読めば、15分でWWDCのキーノートを体験したような気分になれる。そんなレポートを目指しています。
2011年6月6日朝(現地時間)、サンフランシスコのMoscone West 3Fの大ホールは、前夜から行列に並んで席を確保した数千人のデベロッパとメディア関係者でいっぱいになっていました。大きなスクリーンには、いつものシンプルなアップルロゴが表示されていて、参加者たちは皆、カメラを構えて会場の様子を撮影しています。
定刻より少し前、それまで流れていた音楽がフェードアウトすると、興奮した様子で開始を待っていた参加者がしゃべるのをやめ、会場は一瞬の静寂に包まれました。しかしこの時はまだイベントは始まらず、代わりにスピーカーからジェームズ・ブラウンの強烈なシャウトが響き渡ると、キーノート前の定番曲「I Got You (I Feel Good)」が流れ始めました。いわば「引っ掛け」のような展開に会場から爆笑が起こったのですが、参加者たちがどれだけこの瞬間を待ち望んでいたかが垣間見れました。
午前10時、ほぼ定刻通りに音楽が終了すると、今度は本当にキーノートスピーチの開始。スティーブ・ジョブズ(Steve Jobs)CEOが登場します。会場にいた参加者は次々に立ち上がり、大きな拍手でジョブズ氏を迎えます。何度も「サンキュー」を繰り返して拍手に応えたジョブズ氏は、5200人分のチケットが2時間程度で売り切れたのをわびつつも、「これ以上大きな会場がないのでどうしたらよいのか」とおどけて、MacOS X/iOSの好調ぶりをアピールしました。
スティーブ・ジョブズ氏の紹介を受けて、まず登場したのはフィル・シラー(Phil Schiller)氏。「OS X Lionでは、250の新機能が追加された」として、その中から「Top 10」の機能が紹介されました。
最初に紹介されたのは、タッチパッドで2本指・3本指を使ってスクロール操作などを行う、Multi Touch Gestureでした。Safariなど標準アプリからはスクロールバーがなくなり、代わりにウィンドウ上にポインタを置いて、2本指でタッチパッドを操作して、スクロールします。その他、左右へのスワイプでブラウザの「戻る」「進む」操作などを行えます。
OS X Lionでは、フルスクリーンに対応したアプリケーションのウィンドウの右上に「フルスクリーンボタン」が表示され、クリックすると、1つのアプリケーションを全画面表示するようになります。
デモによると現在のSpacesに統合されるようで、アプリケーションごとに独自のスペースが作成されるようなイメージでした。3本指スワイプで、従来のマルチウィンドウのデスクトップや、他のフルスクリーンアプリの画面などとの間を行き来できます。
以前より複雑になったバーチャルデスクトップ環境を管理するべく追加されたのがMission Controlです。Dashboard、Expose、Spaces、Full Screen Appsなどを1つの画面に表示し、利用するアプリケーションのスイッチやデスクトップ間のウィンドウの移動が行えます。
2011年の1月から始まったMac App Storeですが、すでに「No.1 PCソフトウェアになった」と発表されました。デモでは、イメージエディターの「Pixelmator」が、Mac App Storeでの展開を機に売り上げを4倍に伸ばし、最初の20日間で100万ドルを達成した例などが紹介されて、小規模なソフトメーカーにとって大きなチャンスとなっていることがアピールされました。
OS X Lionでは、In-app Purchase(アプリ内課金)への対応、ユーザーへの通知を行うPush Notification(プッシュ型通知サービス)、アプリケーションデータをよりセキュアに扱うSandboxing、そしてアップデートを高速化するDelta Updateなどが追加されます。
Launchpadは、iOSのホームスクリーンによく似たアプリケーションローンチャーです。デスクトップ画面を表示した状態で、タッチパッドで「ピンチ」操作をすることで呼び出せます。
アプリケーション一覧画面は複数ページにし、iOSと同様にフォルダで階層化を行うこともできます。
せっかくウィンドウ位置などを好みの状態にしたのに、システムを再起動する必要があると、面倒に感じます。OS X Lionでは、アプリケーションの終了時にウィンドウ位置を自動で保存するようになり、ログイン後にウィンドウの状態を自動で復旧できます。
これまでのコンピュータOSでは、作成・編集したデータはユーザーが能動的に「保存」する必要がありました。OS X Lionでは、データ保存が自動で行われます。保存されたデータは、ドキュメントのタイトル横のメニューから「以前のバージョンに戻す」「現在の状態でロックする」などの操作を行えます。
Auto Saveによるデータの保存は、一方で意図しない状態での保存という問題も引き起こします。OS X Lionで追加されるVersionsでは、Time Maschineに似たユーザーインターフェイス(User Interface、以下、UI)でドキュメントの過去のバージョンを参照し、過去の特定のバージョンにドキュメントを戻したり、バージョン間でデータをコピー&ペーストしたりできます。
複数のデバイス間での、データの送受信はいまだに多くあります。メールに添付したり、あるいはUSBメモリを使ったりしている人もいるかもしれません。
AirDropは、同一ネットワーク上にいる他のユーザーに対して、簡単にデータを送信できる機能です。セットアップは必要なく、OS X Lionをインストールしたデバイスを自動的に検出、データのやりとりは暗号化されます。
MailアプリケーションはUIが大きく変化し、iPadのメールアプリケーションと同様の、左にSubjectの一覧が並び、右側に本文が大きく表示される形式になりました。
メールの議論を追いやすいように、何段にもインデントされて引用されたメッセージを分割して、個別のメッセージのように表示する機能が追加される他、差出人やタイトルを対象とした検索の追加など、フォルダベースのメッセージ管理から、検索ベースのUIへの移行が行われていました。
OS X Lionは、これまでのDVDなどを使った配信をやめ、Mac App Storeからダウンロード販売されることが発表されました。4G程度のサイズで「ムービーなどと同じ」程度の時間でダウンロードが可能とのことです。
気になる価格は、29.99ドル。これまでの「129ドル」から1が転がり落ちるアニメーションとともに発表され、会場からは大きな拍手が起こりました。
今回デモされた機能の多くは、iOSからヒントを得ていると思われるものです。Full Screen AppsやMulti Touch Gestures、そしてLaunchpadなど、「そのまま」iOSからやって来たものもありますし、ResumeやAuto SaveもiOSの操作感に近いものがあります。
一方で、文書の更新履歴を行き来して、自在に参照・編集を行えるVersionsは、より高度な作業を望むMacユーザーに向けられているようにみえます。
プロフェッショナルが使うツールであり、同時に使いやすさや親しみやすさを持ったMac OS Xならではの進化で、同時に今後「使いやすさ・親しみやすさ」の部分をiOSが担っていくという方向性も見えてきたように思います。
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