特集
Windows 2000とは何か ?

2.マイクロソフトのWindows 2000戦略

デジタルアドバンテージ
1999/10/26


 16bitのキャラクタベースのOSであるMS-DOSに対し、グラフィカルユーザーインターフェイスを搭載することを目的として開発が開始されたWindowsは、それを開発したMicrosoft自身も予想だにしなかった運命をたどり、今もなおその不思議な運命が続いている。

 1980年代後半、Windows Ver.2.0の開発と並行してMicrosoftは、OSとしてはあまりに非力だったMS-DOSの次世代を担うOSを開発するために、IBMと共同でOS/2の開発を進めていた。しかしこのOS/2上には、PM(Presentation Manager)と呼ばれるウィンドウシステムがあり、これはWindowsとは非互換のAPI(Application Program Interface)を備えていた。つまり、Windows用アプリケーションは、OS/2上では実行できなかったわけだ。巨人IBMと、MS-DOSの普及に成功したMicrosoftのコンビによって開発されるOS/2は、次世代のPC用OSの標準となることを誰も疑わなかった。しかし官僚的な体質を持つIBMとしっくりいかなかったMicrosoftの一部の物好きなプログラマが、静かに死を待っていたWindowsプロジェクトに加わり、勝手に保護モードへの対応を行ってしまった。それを見たビル・ゲイツは、「(OS/2よりも)われわれはこれをやるべきだ」と180度の方針転換を図り、輝かしいWindowsの歴史を切り開いた(その後OS/2は、IBM単独で開発が進められることになった)。

 しかしOS/2の共同開発を中止するという発表後、今度は次世代の32bit OSをMicrosoftが独自に開発することが決定された。こうして開発された32bit OSが現在のWindows NTであり、これはWindows 2000のベースとなったOSである(コラム:Windows NTの歴史)。するとWindowsは、今度は「Windows NTを普及させるまでのつなぎ」と位置づけられるようになった。

 ところがWindowsは、NTの陰に甘んじるどころか、Microsoftの予想を大きく超えて、多くのユーザーに支持された。マルチメディア機能を追加し、コモンコントロールなど、現在のWindowsインターフェイスの第一歩となる機能を追加したWindows 3.1は爆発的に普及し、さらに次バージョンのWindows 95では、ユーザーインターフェイスを一新し、ネットワーク機能を強化して、さらにユーザーの裾野を広げた。今やWindows 9xは、パーソナルコンピュータ向けのOSとして、圧倒的なシェアを確保していることはご承知のとおりである。MicrosoftのWindows開発の内幕については、『ビル・ゲイツの罪と罰』(マーリン・エラー、ジェニファー・エズトロム著/三浦明美 訳、アスキー発行)が詳しいので、興味のある方は参照されたい。

 OSカーネルの機能やエレガントさはさておき、少なくとも直接ユーザーの目に触れるユーザーインターフェイスの部分では、これまでは常にWindows 3.xとその後継であるWindows 9xラインアップが先行し、Windows NTラインアップは後塵を拝してきた。現バージョンのWindows NT 4.0で、ユーザーインターフェイスがやっとのことWindows 9xに追いついたところだ。昨年(1998年)10月に、Windows NT 4.0とWindows 98の双方のOSが、NTアーキテクチャで一本化され、Windows 2000となることが発表された。「16bitコードが残るWindows 9xを捨てるときがやっときたのか」。Windowsの歴史を知るユーザーの中には、このように感じた人も多かっただろう。

 しかし年が明け1999年になると、コンシューマ向けに、Windows 9xアーキテクチャをベースにしたMillenniumが開発されることが明らかになった。OSの一本化は、Millenniumの次バージョンとして開発が進められている、NTコアを持つNeptuneまでお預けとなるのだという(コラム:コンシューマ向けWindowsの今後のロードマップ)。

 気になるのは、コラムで述べているように、Millenniumでは、またもやユーザーインターフェイスが革新されるということだ。Millenniumの詳細はまだ明らかではないが、OSの一本化によるサポートコスト、メンテナンスコストの低減は、またも遠のいてしまうのかもしれない。これまでの発表を見るかぎり、Millenniumはパーソナルユーザーを強く意識したものだと考えられるが、これがビジネスクライアントとしてオフィスで使われないという保証はない。企業のネットワーク管理者としても、Millenniumは気になる存在だろう。

ビジネスクライアントとしてもWindows 9xが利用される理由

 現行のWindows NT 4.0が発表されたとき、マイクロソフトは「個人が自宅で使うならWindows 9x、企業のビジネスクライアントにはNT」と言っていた。しかし現実には、企業のクライアントとしてもWindows 9xがかなり浸透している。この理由は、大きく3つあるだろう。1つは、NT 4.0をインストールするには、Windows 9xよりも多くのメモリやハードディスクが必要なことだ。たとえば、Windows 95搭載モデルのPCが爆発的に売れた1996年の標準的なマシン構成は、CPUがPentium-75MHz〜133MHz程度、標準搭載メモリは8〜16Mbytes、ディスク容量は600Mbytes〜1.5Gbytes程度だった。正直なところ、このマシンにNT 4.0をインストールするのは困難である。それではといって、PCシステムごと新しいものに買い替えようとしても、NTをプレインストールしたモデルは選択肢が限定的であることが多い。トップダウン的に、大量に一括導入するような場合はともかく、「お試し」感覚でNTプレインストールモデルは購入しずらい。

 第2の理由は、PCカードやドッキングステーションのホットプラグなど、NT 4.0はノートPCサポートが弱く、限定的な状況でなければ、実質的には使えない状態にあることである。ご承知のとおり、米国と違って日本はオフィススペースが狭く、省スペースなデスクトップ用途としてノートPCを利用するケースが非常に多い。現行のNT 4.0は、このような日本のビジネスユーザーの要求に応えられなかった。

 第3の理由は、日本国内ではまだ、PCネットワークやインターネットが普及の第一段階にあり、NTのメリットを実感できるような、ミッションクリティカルな作業を行うレベルにないのではないかということだ。第1の理由でも簡単に触れたが、日本では、かなりの大企業でも、部門決裁で「お試し」的にPCを購入するケースが少なくない。このような目的で、PCの可能性に触れたいと考えるなら、デバイスサポートやアプリケーションサポートが豊富なWindows 9xのほうが適している。

もっぱらビジネスアプリケーションを使うなら、ホームユースでもWindows 2000

 これに対し、今回発表されるWindows 2000では、Windows 9xと比較して、既存のNT 4.0が見劣りしていた部分が大幅に改善された。必要となるシステム資源が減ったわけではないが、デバイスサポートやノートPCサポート、これらに関連するコントロールパネルなどの使い勝手や、デフラグメントツールなどの標準ツールの拡充などがなされた。実際のところ、筆者は現在、所有するノートPC(IBM ThinkPad 600。CPU:Mobile PentiumII-300MHz、メモリ64Mbytes、ディスク2Gbytes)にWindows 2000 RC2をインストールして試用しているが、ネットワーク用PCカードのホットプラグや、サスペンド/ハイバネーションといった電力管理など、すべて安定的に動作しており、またアプリケーション環境としても非常に安定していて、電子メールやWebからの情報収集、原稿執筆まで、すべてこのマシンでこなして不都合を感じていない。

Windows 2000 RC2をノートPCにインストールした筆者の編集環境
この原稿は、筆者のノートPC(ThinkPad 600)にインストールされたWindows 2000 RC2環境の上で、HTMLエディタのFrontPage 2000を使って執筆されている。電子メールからWebサイトからの情報収集まで、実用環境として快適に稼働している。

 マイクロソフトの関係者によれば、Windows 2000のマーケティング戦略は、「会社にしろ、家庭にしろ、主にビジネスアプリケーションを使うならWindows 2000、家庭でもっぱらゲームを楽しむというならWindows 9x」だという。言い換えれば、「ゲームを楽しむ目的以外なら、すべてWindows 2000」ということだ。従来の、「家庭を中心とする個人利用ではWindows 9x、会社で仕事に使うならNT 4.0」という姿勢から、大幅にWindows 2000に傾倒しつつあることがわかる。

 この関係者によれば、こうしたマーケット戦略に合わせて、Windows 2000のプレインストールにも力を入れ、現在はWindows 98一色のこの市場で、とりあえずは全体の数十パーセントがWindows 2000になるようにしていきたいという。これが本当だとすれば、PCショップの店頭には、見かけはそっくりだが、OSがまったく異なるコンピュータが並べられることになる。経験者ならそんな心配はないだろうが、初心者の中には、「間違えてWindows 2000モデルを購入してしまった」という人が現れるかもしれない。

サーバ導入の鍵を握るのはActive Directory

 今度はサーバ側に目を移してみよう。Windows 2000では、システムファイルの保護機能やデバイスドライバの署名、より高度なKerberos認証のサポート、ディスククォータや動的ボリューム管理など、サーバを安全かつ機能的に運用するための数々の機能が追加されている。しかし既存のNT 4.0からWindows 2000 Server(Advanced Server)へのアップグレードや、新規導入が進むかどうかの鍵を握るのはActive Directoryだろう。

 Active Directoryは、Windows 2000 Serverから新たに組み込まれたディレクトリサービスで、これを利用することで、ネットワーク上に分散するさまざまな資源(コンピュータ名やプリンタ名、ユーザー情報など)の場所(位置)や情報をツリー状に管理して、ネットワーク全体で組織的な資源管理を行えるようになる。従来のNT 4.0でも、ドメインと呼ばれる管理単位を構築することで、ユーザー管理や資源管理を集中的に行うことが可能だったが、複数のドメインを階層的に管理するのはかなり大変であった。異なるドメイン間で資源を共有できるようにする場合には、それらのドメイン相互でそれぞれ信頼関係を結ぶ必要があり、多数のドメインが存在するネットワークでは、管理が非常に煩雑になるのである。これに対しActive Directoryを利用すれば、ネットワーク上のさまざまな資源を階層的に管理できるようになる。

 中規模〜大規模なネットワークをNTで構築し、運用しようとする管理者にとっては、待ちに待った機能である。Windows 2000 Serverでの新機能は、カタログスペック的にはさまざまに取りあげられているが、突き詰めてみると、このActive Directoryの機能に行きつくものが少なくない。Active Directoryは、ドメインよりもはるかにエレガントにネットワークを管理できるようにする魅力的な機能である。しかしそれがどんなにエレガントだったとしても、既存のネットワークを全面的にActive Directoryに移行させるには、多くの労力が必要である。また企業で利用されるコンピュータシステムでは、万一のトラブルによって被るリスクも十分に検討しておかなければならない。こうしマイナス要因を、Active Directoryに移行することで得られるプラス要因が上回れるかどうかが、少なくとも短期的に見たWindows 2000 Server普及の鍵になるだろう。

 
     
 INDEX
  [特集]Windows 2000とは何か?
  1. イントロダクション
    コラム:Windows 2000ベータ3パッケージの内容
2. マイクロソフトのWindows2000戦略
    コラム:Windows NTの歴史
    コラム:コンシューマ向けWindowsの今後のロードマップ(1)
    コラム:コンシューマ向けWindowsの今後のロードマップ(2)
  3. Windows 2000 Professionalの概要(1) インストール/セットアップ
  4. Windows 2000 Professionalの概要(2) ユーザーインターフェイスの改良
  5. Windows 2000 Professionalの概要(3) デバイスサポート/電源管理機能
  6. Windows 2000 Professionalの概要(4) システムの強化
  7. Windows 2000 Professionalの概要(5) ネットワーク機能の強化
  8. Windows 2000 Serverの概要(1) 管理ツールとActive Directoryサービス
  9. Windows 2000 Serverの概要(2) ファイル/プリンタ共有サービス
  10. Windows 2000 Serverの概要(3) ネットワークとリモートアクセスサービス
  11. Windows 2000 Serverの概要(4) アプリケーションサービスとAdvanced Server
 
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