女性のキャリアアップを阻害しているのは、マジョリティである男性の「オールド・ボーイズ・ネットワーク」と、「将来像が見えない」という不安――。日本IBM出身でジャパン・ウィメンズ・イノベイティブ・ネットワーク(J-Win)理事長の内永ゆか子氏は5月16日、「富士通フォーラム2008」で講演し、日本IBMでの成功例を基に女性の能力活用を進める方法について語り、働く女性たちにエールを送った。
内永氏は1971年の入社以来、日本IBMで女性技術者として活躍し、取締役専務執行役員を務めた。現在は、日本IBM社内の諮問機関「Women's Council」から発展したNPO法人、J-Winの理事長として、企業におけるダイバーシティの推進に尽力している。また2003年4月からは内閣府の男女共同参画会議議員も務めている。
IBMにダイバーシティ(多様性の受容)という戦略が本格的に導入されたのは、1993年の経営危機の際だったという。会長に就任したルイス・ガースナー氏は、当時約30万人の全世界のIBM社員を指揮しているのがほとんどWASP(White Anglo-Saxon Protestant)の男性であることを疑問視し、「IBMを活性化させるための戦略」としてダイバーシティの導入を決定。まずは各国共通のマイノリティである女性の能力活用を目的とし、進ちょくを測る指標の設定と評価システムを確立して施策を進めた。
日本IBMにおける女性初の取締役だった内永氏は、1998年発足のWomen's Councilのメンバーとなり、女性の能力活用の阻害要因とその解決策の検討、育成計画の提言などにおいて中心的な役割を果たした。当時、日本IBMの女性社員の割合は13%で全世界のIBMの中で最下位、入社5年後の女性の離職率は男性の2倍、40歳以上の女性社員における管理職の割合は男性の8分の1だったという。
内永氏らWomen's Councilの調査によると、日本IBM社内の女性のキャリアアップ阻害要因は3つに大別された。「将来像が見えない」「仕事と家事/育児のバランス」「オールド・ボーイズ・ネットワーク」である。
マイノリティである女性は、「会社中がロールモデル」(内永氏)である男性と異なりロールモデルが周囲にいないため、5年後、10年後の自分のキャリアに不安を抱くことが多い。結果、転職やMBA取得などのために辞めていってしまう。「オールド・ボーイズ・ネットワーク」とは、マジョリティである男性のグループが作り出した独特のカルチャーのこと。男性にはこのネットワークを通してさまざまな情報が伝わるが、女性には伝わらないという。
Women's Councilはe-ワーク(在宅勤務)制度の制定支援、「女性フォーラム」などイベント実施による女性社員のネットワークづくりとロールモデル提示、メンタリング実施などによってこの3要因の解消を進めた。活動開始の5年後である2003年までに、女性社員の割合を16%、女性の管理職比率を男性のものと同等レベルにすることを掲げていたが、この目標は見事に達成された。
内永氏がまとめた、日本IBMが女性活用を促進できた理由とは、「企業方針として女性活用を明確に宣言したこと」「促進のためのアクションを取ったこと」「フレキシブルな就業環境を用意したこと」「結果に対する公平な評価システムがあったこと」など。これらの活動によって会社組織の透明性が増し、さらにいい結果をもたらしたという。
最後に内永氏は、女性たちへのメッセージとして「キャリアの目標を明確に」「チャンスがあったら尻込みせずチャレンジ」「個人としての価値/強みを持つ」「社内外のネットワークを大切に」「メンター(先輩)を活用する」「馬に乗ったら降りない」(キャリアアップを志向したら、途中であきらめない)を挙げ、働く女性へのエールとした。
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