福岡ソフトバンクホークスとシスコシステムズは3月3日、ヤフードームで今シーズンから提供開始の新客席エリア「ビクトリーウィング シスコゾーン」を報道関係者に公開した。
これは従来のロイヤルボックス(「スーパーボックス」と呼ばれている)の一部を改修して設置したゾーンで、計128席のシートそれぞれに、タッチスクリーン式の情報端末をつけた。シート後方のゾーン専用ロビーではビュッフェスタイルの食事を楽しめる。ロビーには高精細画面でのテレビ会議を実現するTelePresence端末も置かれている。
シートに備え付けられた情報端末では、マルチアングル映像、試合映像のリプレイ、選手情報、他球場の途中経過のリアルタイム情報などが見られる。試合で最も活躍した選手を投票する機能もある。一連のサービスは、あまり野球に詳しくない人でも試合が楽しめることを目的として設計されている。
マルチアングル映像は、バッターボックス、ピッチャーマウンドなどさまざまな角度から、進行中の試合を見ることができる。なお、IPベースのビデオストリーミングのため、映像には若干の遅れが発生する。球場にきていながらテレビを見ることに違和感を唱える人もいそうだが、これは例えば好きな選手をクローズアップで見たいといった個別のニーズに応え、試合観戦の臨場感を補完するためのものだという。
試合映像のリプレイでは、イニングごとに選択することで、試合をオンデマンドで振り返ってみることができる。試合の前半を見逃した観客や、ハイライトシーンを楽しみたい人にとって便利な機能だ。
選手情報や試合の途中経過は、日本野球機構公認の「NPB-BIS」というデータベースサービスを活用して構成している。
シスコゾーンには専用の無線LANサービスがある。これも球場に来て仕事をするというシーンを思い浮かべがちだが、iPhoneやゲーム端末を接続することもでき、仲間うちでのコミュニケーションの手段として利用可能だ。将来は双方向の新たなアプリケーションを考えていくという。
シスコゾーンはシスコの製品や技術のショウケースではない。れっきとしたビジネスだ。福岡ソフトバンクホークスは野球観戦の魅力を高めることを目的としてシスコゾーンを導入した。同球団は今シーズン、ほかにも子供の遊べる空間を設けたシートエリアや、福岡県産のい草を用いた畳を置いたエリアも提供開始している。これまで球場に足を運んでもらいにくかった人々を取り込む作戦だ。
一方シスコは、米国などで野球、アメリカンフットボールさまざまなスポーツとITを融合するシステムを「Connected Sports」事業として展開している。すでに多くの実績があり、ニューヨークの新ヤンキースタジアムにも採用が決まっている。シスコシステムズのマネージングディレクターである堤浩幸氏は次のシーズンオフに向けて国内で2桁の受注を目指すとしている。
東京・汐留のソフトバンク本社からTelePresenceで記者会見に参加したソフトバンク社長で福岡ソフトバンクホークスオーナーの孫正義氏は、シスコゾーン導入の背景に、ヤフードームで導入済みのマルチアングル映像システムがあると語った。
「ホークスを買収したときにIT会社として何ができるかを考えた。単にテレビの映像を提供するだけならテレビがある。複数のカメラを置いて、ユーザーが自分で選ぶということを世界で初めてやった」。孫氏はこれを米シスコシステムズ会長兼CEOのジョン・チェンバース氏に話したところ、米シスコがその後米国などで、マルチアングル映像を組み込んだソリューションを事業として展開するようになったという。
「今回はこのシステムの強化版」(孫氏)。従来のCCTV方式の画像配信をIPベースに変更して配信先を広げるとともに、今後の新たなアプリケーションやコンテンツ統合に備えている。孫氏は、将来家庭でも同じようなことができるようになるだろうと付け加えた。
今回導入されたシスコ製品はCatalyst 6504E/3500PoE/2960、コンテンツデリバリエンジン(CDE)の一連の製品、デジタルメディアシステム(DME)2000、サイエンティフィックアトランタD9032エンコーダ、TelePresence CTS-500など。
TelePresence端末は当初、簡単なデジタル掲示板としての用途にのみ使われる。しかし堤氏はさまざまなサービスの可能性があると話す。例えば監督や選手が観客席に出向かなくとも、限られた観客にだけ遠隔的に挨拶するなどのファンサービスが考えられる。また、ダッグアウトとブルペンのコミュニケーションにも利用できるかもしれないという。
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