これまでの連載で、CORBAで何ができるのか(第1回)、CORBAとEJBとの違いと使い分け(第2回)、CORBAが実際にどんなところで使われているのか(第3回)を解説してきました。最終回の今回は、CORBAが今後どのように展開していくかについて解説します。
今後、CORBAの利用が特に広がることが予想される分野には、次の2つがあります。
もちろん、CORBAは汎用的なミドルウェア・プラットフォームですから、連載3回目で説明したように今後もさまざまな分野で使われ続けます。その中でもこの2つの分野が今後特に注目されていくことでしょう。
今回は、これら2つの分野に関して、市場動向、標準化動向、および製品化動向を見ていきたいと思います。
携帯電話やPDAといった携帯端末の爆発的な普及、さらに次世代家電ネットワークに対する期待から、組み込みシステム市場がホットになっています。これらの組み込みシステムでも、高度に洗練された分散オブジェクト技術を使用して機器の制御やアプリケーション間の通信ができたら、開発生産性の面でもアプリケーションの機能の面でも、大きな向上が期待できます。
しかし、組み込みシステムに分散オブジェクト技術を適用するためには、次のような幾つかのハードルを越える必要があります。
OMGでは、これらの制限に対応するためのCORBAの機能拡張を急ピッチで進めています。
●ミニマルCORBA
組み込みシステムでは、メモリ消費量を少しでも低く抑えることが要求されます。このため、ミニマルCORBA仕様では、幾つかの機能を削除して、ORBのメモリ・サイズを減らそうと減少しようとしています。例えば、大規模なサーバを開発する際に必要になるPOA(Portable Object Adapter)*1のさまざまなポリシー、動的なアプリケーションを開発するために必要な動的起動インターフェイス、動的スケルトン・インターフェイス、動的Anyなどの仕様が削られています。通常のクライアント・アプリケーションや簡単なサーバ・アプリケーションを開発する場合、これらの機能がなくてもほとんど困ることはありません。また、使用している機能の範囲内で、フル実装のCORBAシステムとのインタオペラビリティが保証されています。このミニマルCORBA仕様は、すでに最新のCORBA 2.4.2に含まれています。
●リアルタイムCORBA
制御系の組み込みシステムでは、リクエストの優先順位の制御、処理のスケジューリング、アプリケーション間の同期メカニズムが要求されることがあります。リアルタイムCORBA仕様では、これらの機能が標準で提供されています。この仕様も、すでにCORBA 2.4.2に含まれています。
●CORBAワイヤレス・プロトコル
携帯端末などが使用する無線ネットワークは、トランスポートの信頼性の点で、固定ネットワークに比べて劣っています。特に移動通信サービスでは、端末の位置が移動することによって、その端末を担当する基地局が次々と変わっていきます(ハンドオーバー)。このため、プロトコルの実装では、通信中に端末のIPアドレスが変更されるケースにも対応する必要があります。この点で、信頼性のあるTCP/IPを前提にしたIIOP(Internet Inter-ORB Protocol)では不十分です。このため、CORBAワイヤレス・プロトコルでは、GIOP(General Inter-ORB Protocol:CORBAの上位プロトコル)をIIOPとは異なる方法で下位トランスポート・プロトコルにマッピングする方法が検討されています。この仕様は、3月のOMGの技術委員会で最終投票が開始されています。
●組み込みCORBAの製品化
現在、すでに多くの組み込み用CORBA製品が販売(あるいはフリー・ソフトとして配布)されています。代表的な製品には、ワシントン大学を中心としたDistributed Object Computing(DOC) GroupのTAO(http://www.cs.wustl.edu/~schmidt/TAO.html)、HighlanderのHighComm VisiBroker(http://www.highcomm.com)、IONAのORBacus/E(http://iona.com/)などがあります。
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