ここ数年、新聞やビジネス雑誌で取り上げられ、注目を浴びている「コーチング」。書店にはコーチングに関する本が数多く並んでいます。コーチングは、身に付けておくと一生役立つ考え方とスキルです。しかし、いまだにコーチングという名前は聞いたことがあるが、中身はよく分からない、という人も多いのではないでしょうか。
今回ご紹介する5冊の書籍は、数あるコーチング本の中から、「読みやすい」「事例が多い」「ビジネスの現場や生活ですぐに実践できる」という3つの観点からピックアップしたものです。この5冊で、コーチングとは何かから、いかにコーチングを活用するのかといったことまでもが分かると思います。
コーチングマネジメント――人と組織のハイパフォーマンスをつくる
伊藤守著
ディスカヴァー・トゥエンティワン
ISBN:4887592051
2002年7月
2100円(税込み)
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著者は日本でのコーチングブームの火付け役となった方。本書では「素晴らしい戦略を立てても実践できない」「会議で決まったことがいつまでたっても実現しない」など、会社組織で起きている問題を挙げ、「頭で分かっていることと行動との間に横たわる深い溝」があると指摘しています。そして、この溝を双方向のコミュニケーションによって埋めていく試みがコーチングであると述べています。
少し話がそれますが、先日、ある音響機器メーカーでソフト開発に携わるマネージャの男性(Kさん・34歳)のお話を伺う機会がありました。Kさんの悩みは、部下との会話のキャッチボールが一方通行になってしまうことだそうです。ついつい話しやすい(=キャッチボールができる)部下ばかりに話し掛けてしまうとか。皆さんにも経験はありませんか。本書では、こうした一方通行のコミュニケーションを脱却し、双方向のコミュニケーションをつくり出すためのポイントを紹介しています。
本書の「Part4 コーチングの導入のために」には「コーチングを導入する」という章があります。その中で「マネージャーのためのチェックリスト」が紹介されています。そこでは、指示命令型マネージャとコーチ型マネージャのマネジメントスタイルが比較されています。部下はどちらのマネージャの下で働きたいと思うでしょうか。本書の比較を読めば、その答えはすぐに分かると思います。すでにコーチングを学んでいる方はもちろん、そうでない方にも自分のマネジメントスタイルを知るうえでお薦めします。コーチングの理論から実践までが体系的に整理されており、これさえあれば安心と思わせてくれる1冊です。
コーチングの技術――上司と部下の人間学
菅原裕子著
講談社現代新書
ISBN:4061496565
2003年3月
735円(税込み)
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本書ではコーチングの定義を「相手の可能性を信じ、相手が本来持っている才能を発揮させ、相手の成長を促すこと」としています。タイトルは「コーチングの技術」ですが、技術だけでなく、コーチングマインドを持つこと、上司の部下に対するコミットメントの大切さが書かれています。コーチングマインドや技術は、個々の社員の自立を促すだけでなく、会議や業務改善のための話し合い、プロジェクトマネジメントの手法として幅広く活用できるとしています。
本書は、コーチングのプロセスと基本的な技術をビジネスでの事例を交えながら、分かりやすい文章で紹介しており、入門書として最適です。コーチングは特別なものではなく、すでに自分が持っているコーチとしての資質を生かそう、そんな気持ちにさせてくれる本です。
本書で特筆すべき点は、「第4章 グループコーチングの技術『ファシリテーション』」にあります。会議形式で行われる問題解決のための議論の場“ワークアウト”と、グループから最大限の成果を引き出すサポート技法である“ファシリテーション”について、実例を挙げて解説しています。
会議などで参加者からいかに多くの意見を引き出せるかは、ファシリテーターの力量にかかってきます。本書ではファシリテーターに求められる役割とスキルを紹介しており、会議をより効率的に進めたい方にもお薦めできます。
ケーススタディで学ぶ「コーチング」に強くなる本――現代の上司に必須のコミュニケーションスキル
本間正人著
PHP文庫
ISBN:4569576443
2001年11月
540円(税込み)
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著者は日本におけるコーチングの第一人者で、コーチングの普及に尽力している方です。本書では、コーチングは「人間の個性を尊重し、伸ばしていく」という発想に基づいているとし、効果的にコーチングができる上司は、部下の能力を引き出して発揮させることで、自分の物理的業務を軽減しながら、業績を向上させることが可能になる、としています。
「部下のやる気をいかに引き出すか」という点に腐心しているマネージャは多いと思います。先ほど紹介した音響機器メーカーのKさんは、「これをやらないと後で困るよ」と部下に話し、危機感をあおる方法を取っているそうです。もちろんその方法も効果はあると思いますが、もしそれをコーチングのアプローチに変えるとしたら? 本書を読むと、そのアプローチを試す価値ありと感じられると思います。
本書は「やる気の見られないベテラン部下のケース」「自分のスタイルを崩そうとしない若い部下のケース」など、職場で遭遇しそうなことをテーマとして取り上げ、上司と部下が会話をする形を取って話を進めていきます。
著者も述べていますが、自分がこの場面にいたらどうするか、という視点で読むと、一層理解が深まると思います。
コーチングの考え方やスキルは分かったが、実際の活用方法が知りたいという方には最適な本です。なお、理科系・技術系の職場を題材にした「応用編」も2003年1月に発行されています。
コーチングのプロが教える決断の法則「これをやる!」
鈴木義幸著
講談社
ISBN:406264231X
2004年4月
1365円(税込み)
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著者の鈴木義幸氏の本はどれもお薦めできるのですが、本書と次に紹介する『コーチングのプロが教える 心を動かすリーダーシップ』の2冊は、特にリーダークラスの方に読んでほしい本です。
本書で著者は“決める”ことの大切さを強調しています。決めるとは、1つの言葉に対して1つの意味を選択することであり、コーチングは“決める”ことを支援する対話のプロセスであると定義しています。
本書では、著者がコーチという職業を通じて立ち会ってきた“人が決める瞬間”と、“すでに何かを決めている人”がどのように行動しているか、という2つのストーリーが掲載されています。
特に一読をお勧めしたいのが、「第1章:『思い』をストレートに伝えると決める」です。ある通信会社での研修初日、50代の部長たちは、真剣に取り組まず、30代後半の著者を試す態度を取っています。そんな重苦しい雰囲気の中、著者は相手から「逃げない」と決め、対話のスイッチを「ON」にします。強いいい回しで真剣に語り掛ける著者に、最初は虚を突かれた部長もだんだんと自分の思いを語り始めます。著者の思いは部長たちを動かし、結果的に大きな前進を生み出します。
そしてもう1つを挙げるとすれば、「第7章:自分の言葉で、リーダーとしてのスタンスを決める」でしょうか。電気会社の新任課長Fさんが、著者との対話を通して、リーダーの軸を見つけていく、というストーリーです。Fさんがどういうリーダーになりたいかを考えていくプロセスを読むと、Fさんの声がだんだん力強くなっていく様子が伝わってきます。
読後、何か行動を起こしたくなる、そんな1冊です。
コーチングのプロが教える 心を動かすリーダーシップ
鈴木義幸著
日本実業出版社
2003年9月
ISBN:4534036442
1365円(税込み)
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本書は実話がベースになっており、主人公の荒巻丈一氏とそのコーチである鈴木氏とのやりとりが臨場感たっぷりに描かれています。
物語は、銀行マンだった荒巻氏がある日突然、父親の後継者として負債500億円を抱える会社の経営者となるところから始まります。その後、主人公が数々の試練を乗り越え、会社を再建、リーダーとして成長していくという物語。
本書を読んだ後は、いい映画を見た後のような、爽やかな気分を味わえることと思います。主人公に起こる出来事を取り上げた後、コーチである著者の視点で解説が紹介されています。
本書を読み進めていくと、1つ1つの積み重ねが大きな力になっていくことがあらためて分かります。主人公の荒巻氏は、会社の先行きに不安を感じている社員に「声を掛ける」ことを決め、実践しました。休日も返上して支店を回り、応援して歩くという行動を続けたのです。「社員に声を掛け続ける」というこのシンプルな方法が、結果的に会社の破たんという危機を救ったアクションだったと著者は振り返ります。
著者はあるべきリーダー像として、変えるべきことを変えられる柔軟性と、変えるべきでないことを変えない一徹さの両方を備えることが大事と強調しています。本書は、このようなリーダーとしての在り方を学べるとともにコーチング・スキルも身に付き、読み物としても面白いという一石三鳥の本です。
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