多くのITエンジニアにとって「転職」とは非日常のもので、そこには思いがけない事例の数々がある。転職活動におけるさまざまな危険を紹介し、回避方法を考える。
転職活動をいざ始めてみると、想像以上に体力的にも精神的にも負担がかかるものです。意気込んで活動をスタートしたものの、実際の選考が始まると思ったとおりの結果にはならず、途中で就職活動を断念してしまう人も多いのではないでしょうか。また面接後の結果などを思い込みで判断してしまい、あきらめてしまう人もいると思います。
今回は、選考中に思わぬアクシデントに苦労したものの、最終的に希望の企業から採用内定を勝ち取った事例についてお話しします。
小西さん(仮名・25歳)は大学在学中、所属ゼミの研究に力を注いでいたため、就職活動がうまく進まず希望の企業に入社できませんでした。大学卒業後は人材派遣会社に登録。派遣社員としてハードウェアベンダに常駐し、主にLinuxサーバの検証・評価テスト業務を担当していました。かねてオープンソースによるWebアプリケーションの開発に興味を持っており、正社員として開発ができるポジションでの転職先を探していました。業務での開発経験はありませんでしたが、「開発がしたい」という大きな熱意を持って私のところに相談に来たのです。
紹介したのは、社員100人前後と規模は大きくないものの、Linuxによるサーバ構築からアプリケーションの開発までを大手クライアントから元請けとして受注している、技術力の高いシステム開発(SI)企業です。小西さんの「プログラミングから仕事ができて、将来的にはユーザーの要件定義など上流工程に携われる会社」という希望にぴったりでしたし、品質向上に力を入れ、上司のソースレビューなどでプログラムの品質を維持しているという方針も小西さんの技術志向に合致していました。早速書類を企業に提出したところ、「ぜひ一度お会いしたい」という回答をもらうことができました。
面接を控え、志望動機、派遣社員としてのこれまでの経験、業務での開発は未経験であるもののJavaやC++などの言語をIT系スクールで勉強していることなど、アピール点について何度も打ち合わせ、十分に整理しておきました。しかし面接の日、事件は突然発生したのです。
当日、面接開始時刻の5分前になって、小西さんから電話がかかってきました。いきなりこういうのです。
「面接に遅刻してしまうので辞退しようと思います」
電話越しにも、小西さんが慌てふためき、冷静さを失っていることが分かりました。
話を聞いてみると、ターミナル駅で電車の乗り換えを間違え、このままでは面接に1時間遅れてしまうというのです。1時間も遅刻してしまうことの申し訳なさと、遅れて面接に向かう恥ずかしさから、面接自体が嫌になってしまったのかもしれません。「遅刻して面接を受けても、結果は決まっている」。本人はそういいます。
しかし、いまのいままで、どうしても入社したいと考えていた企業です。ここであきらめてしまったら、少しでも残っている可能性をゼロにしてしまうことになります。「小西さん、起きてしまったことは仕方ありません。まず初めに遅れてしまった事情を正直に説明したうえで面接に臨んでみてはどうでしょうか」と私は説得しました。小西さんも次第に冷静さを取り戻し、予定どおり面接を受けに会場に向かいました。
心は決まったものの、小西さんには遅れて面接会場に行く恥ずかしさがあったと思います。しかし、覚悟して面接に挑むことができたようです。
面接終了直後、本人から電話がありました。遅れてしまったことがマイナス点として見られたとは思うが、志望動機などは準備していたことを緊張せずに伝えることができ、後悔はないとのことでした。私も遅刻のことは非常に残念に思いましたが、本人の明るい声に少しホッとしたものです。
数日後、小西さんから連絡がありました。結果はまさかまさかの大逆転! 企業から採用内定通知が届いたというのです。本人はびっくりしてしまい、確認のため電話をくれたのだそうです。もちろん、小西さんはすぐに転職を決意しました。
入社後、小西さんは面接官だった直属の上司に、面接時の評価について聞いてみたそうです。「君は志望動機がハッキリしていたし、それまでの経験を見て、今後きっとうちの会社で成長して活躍してくれると判断したんだ。それから面接に遅刻したことはもちろん良くないが、誠実な謝罪があったことでかえって好印象を持ったんだよ」と上司は説明してくれました。小西さんは、自分が思っていた以上に高く評価されていたのでした。
本来であれば、面接に遅れるということはあってはならないことです。しかしこのケースで、もしも小西さんが大幅な遅刻に気付いた時点で面接会場に行くことをあきらめ、選考を辞退していたら、このような結果にはなりませんでした。
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