■トランザクション機能が追加されたファイル・システム
Windows Server 2008では、ファイル・システムにトランザクション機能が追加された。これはTransactional NTFS(以下TxF)と呼ばれるもので、長年Windowsシステムで利用されているNTFSをベースに、トランザクションの制御機能を追加したものだ。このTxFと、レジストリ書き込み時のトランザクション制御機能であるTransactional Registry(以下TxR)によって、ファイル・システムやレジストリにアクセスするプログラムに対して、ファイル・システム自身がトランザクション機能を提供し、不具合時のロールバックや、一連の処理が完了した後のコミット処理をサポートする。
ベータ2までは、TxFやTxRをコマンドラインから制御可能にしたTransactionコマンドが提供されていたのだが、ベータ3では提供されなくなった。このためTxFとTxRは、管理者向け機能というよりは、開発者向けの機能といえなくはない。しかしシステム管理者においても、FsUtil(ファイル・システム関連のツール。Windows XPのfsutilツールにTransactionスイッチが追加されている)やKTMUtil(ファイル・システム・レベルでTransactionをサポートするための、KTM:Kernel Transaction Managerを管理するツール)といったコマンドライン・ツールでトランザクションを制御しなければならない場面も考えられる。従って開発者だけでなくシステム管理者も、TxF/TxRが存在することを知っておいた方がよいだろう。
■パーティション・サイズの縮小機能サポート
またWindows Server 2008では、ハードディスクのパーティション容量を動的に変更することが可能になった。従来、特にシステム・パーティション容量の変更は容易でなく、新しく購入した物理サーバにOSをインストールする際に、C:ドライブの容量について悩んだり、パーティション容量を変更するために、プレインストールされているOSをわざわざ再インストールしたりする必要に迫られる場合もあった。これに対しWindows Server 2008では、付属のツールを使ってパーティション容量を柔軟に変更できる。次の例は、あるコンピュータのC:ドライブの容量を圧縮しようとしている画面である。
ただしここでいう圧縮とは、ファイルやフォルダに含まれるデータを圧縮してサイズを小さくすることではなく、例えば60GbytesだったC:ドライブのパーティション・サイズを、40Gbytesまで縮める(未使用の後半部分20Gbytesを解放して、40Gbytesまで小さくする)という意味である。
ここで、この機能を利用する具体例を紹介しておこう。先ほど説明したフルボリューム暗号化機能のBitLockerは、セキュア・スタートアップを実現するために2つのパーティションを必要とする。このため、すでにWindows Server 2008がインストールされているサーバに対し、新たにBitLockerによる暗号化を実施しようとすると、いままでであればOSの再インストールやサード・パーティ製のツール(パーティション管理ツール)の導入を検討する必要があった。サード・パーティ製ツールは高くはないのだが、サーバの安定稼働に対するリスクを少しでも低減するために、サード・パーティ製品の追加をできるだけ避けたいと考える管理者もいるだろう。しかし、Windows Server 2008では、もう頭を悩ませることはない。ハードディスクのパーティション管理画面にてパーティション容量を縮小し、空いた部分に新しくパーティションを作ればよいのである。それほど大それた機能拡張ではないが、使い道はありそうだ。
なお、パーティション・サイズの拡大は従来でも利用できたため(TIPS「ディスクのボリューム・サイズを拡張する」参照)、一部機能に制限はあるが、これで拡大/縮小が自由にできるようになったといえる。
Windows Server 2008では、ネットワーク環境の変化や、高まるパフォーマンスへの要求を満たすために、TCP/IPプロトコル・スタックの構造が完全に見直されている。
注目すべきポイントは、IPv4とIPv6の両方が同じレベルで実行できるようになっていることだ。プロトコル・スタックの基本的な構成は、Windows Vistaに搭載されたものと共通だが、IPv6にネイティブ対応したサーバOSとしては、Windows Server 2008が初の製品ということになる(以下、Windows VistaおよびWindows Server 2008で搭載された新世代TCP/IPプロトコル・スタックを、まとめて「新世代TCP/IPスタック」と呼ぶ)。IPv6ネットワークの普及がどれほど進むかについては、今後の市場動向に寄るところも大きい。しかし今後IPv6が標準的に利用される時期が来たときでも、安心して利用できるサーバOSだといえる。このIPv6のネイティブ対応に関連して、Windows Server 2008では、各種サーバ・サービスにおいてもIPv6対応の拡張が行われている。
Windows Server 2008に搭載された新世代TCP/IPスタックでは、ネットワーク性能を向上させるための、いくつかの新機能の追加、機能改善もなされている。
■オート・チューニング機能
ネットワーク・エンジニアは、通信スピードを最適化するために、TCP受信ウィンドウ・サイズの変更を検討することがある。TCP受信ウィンドウ・サイズとは、確認を待たずにTCP送信側からTCP受信側に送信できるデータ量である(詳細は関連記事参照)。特に遅延の大きなネットワーク回線(インターネットWAN回線など)や、非常に高速なネットワーク・メディアにおいて(ギガビット・イーサネットなど)、TCPによるデータ送信のパフォーマンスが向上する。例えばウィンドウ・サイズが8Kbytesだと、8Kbytesのデータを送信するたびに、受信確認のパケットを受け取る(送り返す)必要があるが、ウィンドウ・サイズが256Kbytesだと、256Kbytesに1回受信確認を送信すればよい。受信確認をやりとりするためには、送信を一時中断する必要があるが、このためにわずかながら待ち時間が発生し、ネットワークの帯域を最大限に利用することができない。ただしウィンドウ・サイズを大きくすると、アプリケーションのパフォーマンスが向上するが、その分メモリを消費するなどのデメリットもある。
そこで新世代TCP/IPスタックでは、ウィンドウ自動チューニング・レベルの受信という機能がサポートされるようになった。この機能により、管理者が手動で設定を変更しなくても、TCP/IPスタックが最適な受信ウィンドウ・サイズとアプリケーションでのデータの取得速度を判断し、受信ウィンドウ・サイズの最大値を自動的に調整することができるようになった。
■遅延時間の変化/パケット損失数の監視
新世代TCP/IPスタックでは、通信時の遅延時間の変化や、パケットの損失数を監視することで、同時に送信されるデータ量を積極的に増加させることが可能になった。マイクロソフトの社内で行ったテストでは、1Gbit/s(ギガビット・イーサネット)の接続において、大規模なファイルのバックアップにかかる時間が、約半分に短縮されるという結果が得られている。
■損失の多いネットワークへの対応強化、TCP Chimneyオフロード機能
新世代TCP/IPスタックでは、損失の多いネットワークへの対応機能の強化やTCP Chimneyオフロード機能(TCP/IPプロトコルの処理の一部をNIC側へ委譲し、CPUの負担を下げ、ネットワークのパフォーマンスを向上させる機能)などが実装されており、トラフィック処理におけるサーバのCPU負荷の低減が図られている。環境にもよるが、これらの機能により、時には大幅なパフォーマンス向上が可能になる。
■グループ・ポリシーのQoS対応
ネットワークの効率的な利用による帯域幅の向上が果たせると、次のステップとしてQuality of Service(QoS。すべてのトラフィックを同等に扱うのではなく、トラフィックの重要度などから、扱い方を区別する技術)の利用が重要になってくる。これに対しWindows Server 2008とWindows Vistaの組み合わせでは、Active Directoryのグループ・ポリシー機能を利用して、QoSによる帯域制御を効率的に実施可能である。従来のネットワークは、「通信できればよい」という発想だったが、今後は、通信できるだけでなく、必要に応じて通信を制御するものだという認識を持つ必要があるだろう。
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