日々生み出されるネットサービスやテクノロジーに詳しい著者による、こんなふうにサービスに取り込んだら面白いのではないか、という提案。技術的な応用面にフォーカスしていく(編集部)
皆さんこんにちは。ナターシャの立薗理彦(たちぞの まさひこ)です。音楽ニュースサイト「ナタリー」のサービス開発を担当しています。
「インターネットの世界はドッグイヤー」といわれ、新しい技術が次々と現れては脚光を浴びています。一方で、技術的には目新しさがなくても、ちょっとした応用でまったく新しいサービス(=体験)が生まれるのも、またネットの世界でよく起こることです。
この連載では、日々生み出されるネットサービスやテクノロジを紹介しながら、こんなふうにサービスに取り込んだら面白いんじゃないか、という応用面にフォーカスして提案を行っていきたいと思っています。
この連載では、テクノロジを実際に試して紹介していきます。初回の今回は、ミニブログと呼ばれ、ブログの次のムーブメントとなりつつあるTwitterのような「ライフストリーム」について、皆さんとともに考えてみたいと思います。
「ライフフィード」「ライフストリーム」という言葉を聞いたことがありますか。 「フィード」「ストリーム」はさまざまな情報が絶え間なく流れてくる情報の経路を意味していて、そこにライフが付いているということで、誰かが起こした行動が絶え間なく送られてくる様子を表しています。
つぶやきを通じてあるユーザーが「いま何をしているのか」を送信し続ける「Twitter」や、プロフィールの更新の1つ1つまでもが「履歴」として公開される「Facebook ミニフィード」などがいい例です。
今回は、こうした「ライフストリーム」の例をいくつか取り上げて、その面白さについてまとめてみます。
ライフストリームサービスの共通の技術的な特徴は以下の点だと思います。いかがでしょうか。
さらに、ユーザーの参加活動への機動力となっているのが、以下のような魅力ではないでしょうか。
Twitterに書き込まれるつぶやきは、文字数の制限もあってとてもシンプルです。また頻繁に更新されることから、いま何をしているのか、という生々しい生活の様子が自然に書き込まれることになります。友達とはいえ、他人がどこで何をしているのかが分かるということで、のぞき見的な面白さがあります。
TwitterもFacebookのミニフィードも、複数の友達に「見られる」という前提があります。そして、何をしたのかを友人に伝えることは、それに対する友達からの反応を呼び起こします。つまり、行動すること(=行動したことを伝えること)がそのままコミュニケーションを指向していることになります。
メールやメッセンジャーなどのダイレクトなやりとりと違い、コミュニケーションの対象があいまいです。だからこそ普段、その相手に対して書けない(いえない)ようなことをあいまいにぼかして書けるという
側面もあるようです。バレーボールの練習に例えて表現するならば、1対1の打ち合いより、円陣練習の方がボールが宙に浮いている時間が長くて気軽で楽しいというような、メッセージングのユーザー心理効果もあるといったらいい過ぎでしょうか。
Facebookのミニフィードが面白いのは、変更された内容はもちろんですが、変更したという事実そのものもニュースになっているという点です。
例えば友達がプロフィールを更新して「独身」になった後、いろいろな人と友達になったり新しいグループに参加したりし始めたら「ははーん」と思うかもしれません :-)
それぞれジャンルの異なる情報の変化が、時系列に整理されることで個々のつながりが生まれ、その裏にあるちょっとしたストーリーを垣間見ることができます。
時間による状況の変化を中心としたデータ表示により、WebサービスのUIにも少なからず影響がありそうです。例えばプロフィールや日記、写真をまとめたアルバムなど多くの情報を扱うSNSサービスでは、画面いっぱいにそれぞれのジャンルのデータが少しずつ一覧表示される、いわば詰め込まれたUIが標準的でした。しかし、Facebookを見ても分かるように、さまざまに異なる情報が時間を軸にひとまとめになることで、UIはとてもシンプルなものになります。
ユーザーがサービスを利用するときの流れも、画面のあちこちをチェックしていた利用方法から、更新一覧を新しいモノから順番にチェックする簡単なものに変化します。
チェックが簡単になることで、サイトを訪れる頻度が上がったり、あるいはより多くのページを見て回るようになるかもしれません。
では、実際のサービスを以下に紹介します。もちろん、以下以外にもたくさんありますが、ここでは特に目立つ動きを取り上げたいと思います。
もはや説明の必要もないかもしれません。「いまなにしてる」の質問に答える形で、100文字程度のつぶやきを投稿していく、ミニブログサービスです。気に入ったユーザーを「フォロー」することで、特定のユーザーのつぶやきをまとめて見ることができます(参照記事:いまだからこそTwitterの楽しさを知るべきです!)。
実際には、何をしているかだけでなく、ほかのユーザーにダイレクトメッセージを送ったり、つぶやきを使って話し掛けたりというコミュニケーションツールとして使われていることが多いようです。
更新の手軽さと、ほかのユーザーとのつながりの「ゆるさ」が受けて、2007年末ごろから日本でも人気のサービスになっています。
作者が公開しているアイデアメモの写真には「LiveJournalをもっとリアルタイムにしたブログ、AIMのステータスを更新するように更新できる」という初期の構想が書かれています。
米国のSNS、Facebookの中心的な機能になっているのが「ミニフィード」です。ミニフィードは、あるユーザーがFacebook上で行った行動を時間の経過に従って細かく表示する機能です。「友達」関係になっているユーザーは、お互いのフィードをチェックできます。
Facebookにログインした後のいわゆる「ホーム」画面では、自分の友達のミニフィードが一覧できるようになっています。Facebookのユーザーは、このホーム画面で友達の動向をチェックして、場合によっては友人のページのフォトギャラリーや友人がコメントしたコミュニティーをのぞきに行くことが活動の中心になります。
参考に、ぼくのある日のミニフィードの画面を見てください。旅行先での写真をフォトギャラリーにアップロードしたこと、プロフィールを編集したことや、ニュースアプリケーションでニュース記事を読んだこと、「Apple iPhone」グループに参加したこと、そして友人のウォール(メッセージボード)に書き込みをしたことなどが分かります。
Last.fmは英国の音楽SNS。iTunesなどの音楽プレイヤーで再生した音楽の情報をサーバにアップすることで、自分が聴いた音楽の履歴を作成して、ほかのユーザーに公開できます。
手前味噌になりますが、ぼく自身もよく似たコンセプトの「音ログ」というサービスを開発・運営していました。現在はサービス停止中です。
ライフストリーム系のサービスは、実は従来と同じデータを扱っているのに、見せ方を変えるだけでまったく別のものになってしまうところが面白いと思います。
新しい技術を使わなくても、データの種類は同じでも、発想の転換でまったく新しい体験を作り出すことができるというヒントになると思います。
また、コンテンツとしての面白さとは別に、さまざまな種類の情報を時間軸を中心に1つにまとめてしまうという、情報処理的な面白さがあることも見逃せません。実際、Facebook ミニフィードは、ソーシャルブックマークやLast.fmのような再生履歴データ、写真共有サイトにアップロードされた画像の履歴を取り込む機能を追加し、ネット上に散らばったさまざまなサービス上のデータを1つにまとめるアグリゲータとしての進化を続けています。
ライフフィードには、プライバシーをうまくコントロールしながら共有する、コミュニケーションとしての新しさと、友達に関するさまざまな情報を一元管理して効率よくチェックできる、良くできた情報ツールとしての2つの側面があります。
SNSでの日記を介したやりとりなど、コミュニケーションツールについての需要はすでに間違いないものになっていますが、効率よい情報ツールという考え方は果たして受け入れられるでしょうか。例えばmixiのホーム画面が、現在のジャンルごとの表示をやめてすべてを時系列に表示したとしたら、ユーザーはどんな反応をするでしょうか。
実はFacebookを触った僕の周りの人の感想は「面白いけど斬新過ぎないか」という懐疑的な見方が結構多かったのです。
さて、友人とのコミュニケーションツールとして活発に利用されているライフフィードサービスですが、もう少し実用性のある応用はできないでしょうか。実は、Facebookは「Facebook Ads」という仕組みを導入してライフフィードを広告ネットワークにしようと試みています。
例えばAmazonの様なオンラインショップで買い物をしたとき、その購入情報がミニフィードを通じて友達に通知されます。こうして、友人に商品をすすめることができる一方で、オンラインショップは口コミを使って商品を効果的に宣伝できます。プライバシーに対する懸念から、いまのところ積極的に活用されてはいないようですが、今後注目の仕組みといえます。
僕の関わっている音楽ニュースサイト「ナタリー」では、ずばりニュースの配信にライフフィードの仕組みを使ってみようと思っています。従来のニュースは、大量に送られてくる見出しの一覧か、ニュースサイトが提供するランキングの中から自分の興味のあるニュースを選択する形式がほとんどでした。
ここにライフフィードの概念を導入すると、例えば「友人が読んだニュース」「友人がコメントしたニュース」「友人がお気に入り登録したアーティスト」といった情報が送られてくるようになります。Twitterで友人の「いまなにしてる?」を知るように、「いま何読んでる?」が分かるようになるわけです。あなたの友達がどんなニュースを読んでいるのか、気になりませんか?
また、あなたの友人があなたの興味を持ちそうなニュースを見付けたら「オススメです」といって教えてくれる仕組みも良さそうです。ニュースを正しい人に届けるには、その人を知っている人を頼るのが一番ですから。
TwitterやFacebookと同じように面白い半面、なんだかストーカーみたいでちょっと怖い感じもしますね。その辺のさじ加減がソーシャルツールの難しいところです。いろいろ試行錯誤してみようと思います。
立薗理彦(たちぞの まさひこ)
1972年東京生まれ。1996年、慶應大学 環境情報学部卒。シャープで組み込み系のソフトウェアエンジニアとして働いた後、携帯電話メーカーのノキアで日本向け端末のリリースに携わる。
この頃、週末プロジェクトとしてiTunesでの再生履歴をネットで公開するサービス「音ログ」を開発。これをきっかけに、ウェブ業界への転身を決意してフリーに。
その後、音楽ニュースサイト「ナタリー」の立ち上げに関わり、2007年10月から技術担当取締役としてナターシャに参加。現在に至る。
最近の興味は、iPhoneでのアプリケーション開発。
趣味は、TVドラマ「Lost」を繰り返し見ること。全シーズンをすでに3回以上見ていて、ハワイでのロケ地ツアーにも2回参加。
著者つぶやき
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