シスコシステムズがx86サーバ市場に参入するという噂が拡大している。2008年末から徐々に出始め、2009年1月のニューヨークタイムズによる報道で一気に火がついた。
日本時間の3月16日朝現在では、シスコからこのサーバに関する正式な発表はなく、具体的な姿は明らかになっていない。こうしたなか、多くの記事は、シスコがサーバをネットワークビジネスと独立した事業として展開することで、HPやIBMと真っ向から対立する構図を前提とし、その成否や背景を推測している。ニューヨークタイムズによる報道も同様だ。
しかし、シスコがサーバ機を単体で販売する可能性は非常に低い。一番考えられるのは、「Nexus 1000V」(仮想マシンにネットワークポリシーをひも付けるソフトウェア)あるいはこの機能をハードウェア的に実装した大型ブレードサーバに、同社のデータセンタースイッチ「Nexus 5000」(あるいはこれより下位のスイッチ新製品と物理的に統合される可能性もある)、そして負荷分散装置やファイアウォールといった同社のほかのハードウェアを連携させ、統合したソリューションだ。データセンター/クラウドサービス事業者と、一部の大企業を対象とした事業になるだろう。
ここでかぎとなるのは、シスコがヴイエムウェアとともに標準化団体に提案しているVNタグだ。このタグにシスコのネットワーク/セキュリティ・ハードウェアが対応することで、さまざまなセキュリティやサービスレベルの要件を持った仮想マシンが複数の物理サーバ上でいつ移動するか分からないような形で混在していても、個別の要件を満たし続けることができる。
シスコのデータセンター ソリューションズ グループ シニア ディレクターであるダグ・ゴーレイ(Doug Gourlay)氏は2008年10月に@ITの取材に答え、「VNタグは1つ1つの仮想マシンについて、そのアイデンティティをネットワーク経由でネットワーク機器に伝達できる。これを使ってポリシーを仮想マシンに適用できる。『この仮想マシンは負荷分散の対象だ』とか『この仮想マシンはファイアウォールで保護されなければならない』『別個のファイアウォールのインスタンスを適用しなければならない』といったポリシーを伝えられる」と話している。
仮想マシン単位での多様なネットワーク/セキュリティ要件を統合的に管理できる機能は、特にx86サーバ仮想化技術を使ったユーティリティ・コンピューティング・サービスを企業に対して提供しようとする事業者に、重要なメリットをもたらす。
シスコがサーバビジネスのマージンの低さを無視して、なぜサーバ市場に参入するのかと疑う人々はこれを見落としている。シスコが提供するのはサーバ単体ではなく、サーバ仮想化をベースとした包括的なデータセンターインフラ・ソリューションであり、全体としての付加価値を逆に高めようとしていると考えられる。
次のステップとして想定できるのは、社内クラウドとクラウドサービス事業者、あるいは複数のデータセンター間の橋渡し機能だ。
例えばヴイエムウェアは、企業が社内で運用しているアプリケーションの負荷が高まった際に、自動的にその負荷の一部を外部のクラウドサービス事業者が肩代わりするようなサービス形態を将来像として描いている。
しかし、これを本当に実現しようと考えれば、ネットワークが絡む多くの問題を解決しなければならない。まずはどうやって企業のデータセンターとクラウドサービス事業者間でのセキュアな接続を確立し、仮想マシンの複製を行うか。この仮想マシンのセキュリティ要件とサービス要件をクラウドサービス事業者がどう認識し、確保できるか。ユーザーからのアクセスのリダイレクトをどう設定するか。
こうしたネットワーク関連の仕組みはヴイエムウェアがもし製品化したとしても、ユーザーに受け入れられる可能性は低い。少なからず既存のネットワーク運用環境に影響を与える複雑な技術であるため、すでにネットワーク分野で包括的に企業に食い込んでいる企業が提供するのが最も現実的だ。シスコはここに新たな市場を見出しているのではないか。
シスコCTOのパドマスリ・ワリアー(Padmasree Warrior)氏は、同氏が1月に書いたブログポストで、「Unified Computing」という新たなコンセプトを持ち出し、次のように問いかけている。
Do you feel that there is a role for the integration of networks, servers, and storage more tightly, based on open standards, with virtualization as the common abstraction?
(仮想化を共通の抽象化レイヤとして、ネットワーク、サーバ、ストレージをオープンな標準に基づいてもっと緊密に統合する意義があると思いませんか?)
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