本来SEに求められる「クリエイティブ性」という魅力に気付き、そこにコミットしていけば、3Kに対する意識も希薄になるのではないか、と済木氏は語る。いわれたものだけを作るのではなく、自分で問題意識を持って課題を発見し、解決策を模索していく作業は、確かに「キツイ」かもしれないが、やりがいのある仕事だろう。3Kとは違う文脈で語られてもいいのではないだろうか。
もちろん、良いことばかりではない。
「交渉事が多いし、いうべきことはしっかりいわないといけない。だから嫌われることが多い。それに、お客さんの業務って、基本的に知らない分野の話でしょう。だからそこも勉強しなきゃいけない。苦労は多い」
確かに金融・製造・流通などの業務知識について、SEは「門外漢」だ。SEは学ばなければならないことが多い。しかし逆にいえば、学んだ分だけ自分の仕事に幅を持てるようになる、ということだろう。「人とコンピュータをつなぐのがSE」とも済木氏は教えてくれた。その過程で得られるものはたくさんあるようだ。
さて、「クリエイティブ性」というキーワードが出たが、これまで見てきたスキルは、どうやって身に付けていけばよいのだろうか。
「もちろん研修などを通して基礎を身に付けていることが大前提だけど、一番は経験とOJTですね。先輩の背中を見て学ぶ。あとは、同じSEでも違う企業の人と話したりして、お互いの経験を語り合うこと。そうやって、お互いが“気付く”とか“刺激を受ける”ということが大事」
同社ではこの考え方を元に、参加者が経験を相互に“語り合い”、その中で“気付き”“刺激を受け”、それらを実践する「場」を提供する研修を行っているという。
済木氏は「SEは経験を積んで成長するごとに、ファジーなこと(境界が不明確であること)を決める業務が増えていく」とも語る。だからこそ、研修を通じて常に形式知・暗黙知を更新していくとともに、仲間と語り合うことで感性を磨くことが大事になってくるのだろう。
これらは、あくまで社会人になってからの話だ。これからIT業界を目指す学生としては、少しでもほかの学生より有利な立場に立てるよう、学生のうちに身に付けられるスキルも知っておきたいところ。
「学生のうちにできるのはやっぱり(成長の階段の)1と2の部分。まずは技術を身に付けてください。そのときに2の部分、つまり『技術の特性』ということをちょっと意識して勉強すると、アドバンテージになるんじゃないかな。あとは“YKK”です」
“YKK”とは「夢」「好奇心」「気概」のことを表す済木氏の造語だという。特に「好奇心」が大事だと済木氏は語る。
「知って損するということはないですから、自分から避けずに、いろんなことに興味を持つ。自分で人生を決めて得意分野に絞っていくのはもったいない。どれだけ広くものごとを見て、自分が社会に役立てるかを考ることが大事です」
先のクリエイティブ性や転用の話ではないが、SEはいわば人間の総合力を試される仕事でもありそうだ。ゆえに「好奇心」を重視し、いろいろなことを見聞きしようという姿勢が大切なのだ。そこで得た知識が後の人生でどう役立つのかは分からなくとも、どこかで点と点はつながると信じて、多くのことに興味を持つ。これなら、学生のうちからでもすぐにできそうだ。
さて、ここまでいろいろな話を聞く中で、「上流工程」「下流工程」という区分が出てきた。記者はこんなうわさを聞いたことがある。「あんまり小さな会社に入社すると、下流工程ばかり携わって、上流工程にいけないらしい」。仕事に優劣はないが、キャリアを考えるうえで気になる部分である。思い切って済木氏に質問をぶつけてみた。
「中小でも大丈夫。特色ある分野での技術やソリューションを持っている、あるいは、そういうものを持とうという方向性で経営をしている企業なら、大企業でなくとも、面白い仕事ができます」
SEの世界では、仕事も企業も「階層構造」になっているケースが多い。済木氏は「あくまで私見だが」と前置きしたうえで、「それがこの業界を悪くしているのかもしれない」と語った。
この構造があるがために、いわゆる下請け企業が上流工程に携われない、という一面は、確かにあるようだ。しかし、特定の分野でなら上流から下流までを担っている、という企業も少なくないという。そういう企業なら、大企業でなくとも面白いポジションに付けると済木氏は語る。
これからIT業界を目指す学生は、そういったところに注目して企業選びをするのもよさそうだ。
さまざまな角度からSEという仕事や業界を見てきたが、済木氏本人はどうしてSEになろうと思ったのだろうか。
「世界に日本のコンピュータを広めたかったんですよ」
そう語る済木氏は、やや照れくさそうでもあった。
「アフリカに行った靴のセールスマンの話は知ってるでしょう? みんな靴を履いてないから売れない、と考えるか、みんな履いてないならいくらでも売れるじゃん、と考えるか、という話。もちろんいまはアフリカの人も靴は履いているけど。僕はどちらかというと後者のタイプ。昔、中国にコンピュータを広めようと思ったんです」
そう話す一方で、いまの日本は「タイムマシン経営」で、欧米の後追いなのが惜しいという話も出た。
「そろそろ日本発のモノが欲しい。日本発のすごいフレームワークを作ってよ。マイクロソフトとかIBMを駆逐するような。世の中に正解は腐るほどありますから」
日本の業務アプリケーションは精緻(せいち)すぎて汎用性がない、という指摘もあったが、そこを改善していけば、日本発の新しい何かを生み出せるかもしれない。済木氏から、思いを託された気がした。
SEはわたしたちが思っている以上に「クリエイティブ」な仕事であること、プログラミングだけではなく、さまざまなスキルが重要視されること、そして日本発のすごいモノを作るべく、これからもやるべきことがたくさんあること……。想像していた以上に、SEという仕事は幅が広いと感じた。
この連載では今後、より深く、システム開発の全体フローから、SEにはどんな仕事があり、どんなスキルが必要なのかを調査していく予定だ。自分も取材をしたいという学生の方は、jibun@atmarkit.co.jpまで連絡してほしい。
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【参考:SEにとってプログラミングとは? タイプ別「プログラム愛情度」】
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