保護者巻き込み情報授業、IT業界も支援小学生の情報モラル教育のネックは保護者

» 2009年06月22日 00時00分 公開
[西村賢@IT]
白鴎大学教育学部教授で東京工業大学名誉教授で「『家庭と学校を授業でつなぐ』情報モラル教育研究会」のメンバーの赤堀侃司教授

 NTTレゾナントとジャストシステムは6月22日、都内で会見を開き、情報モラル授業研究会を支援していくと発表した。情報モラル授業とは、主に小学生を対象とする新しい授業スタイルの試みで、白鴎大学教育学部教授で東京工業大学名誉教授の赤堀侃司教授らが中心となって発足した研究会で、プロジェクトとして推進するもの。

 会見でプロジェクトの背景と取り組みを説明した赤堀教授は、これまでの子ども向け情報教育の不十分さを指摘する。「情報教育のDVD製作に携わった経験から、確かにこれは啓蒙が必要と感じた。いろいろな取り組みが始まっているが、事態は好転していない」。

 ケータイの利用率が小中高で、それぞれ3割、5割、9割と高まる一方、そこで発生するさまざまな問題に対処するための教育やルール作りは不十分だという。赤堀教授が特に強調するのが、子どもよりも、むしろ保護者(主に親)に対する啓蒙だ。

学校に来てくれる保護者は問題ないが……

 「冊子やパンフレットを家庭に配布しても、実際にはほとんど読まれていない。目を通す人ももちろんいるが、そういう保護者は学校にも出てきてくれる人で、もともと問題がない。むしろ学校に出て来ない、出て来れない保護者をどう巻き込むかが課題だ」(赤堀教授)。

 「(情報教育は)家庭との連携は不可欠で、学校だけでは限界がある。だから子どもだけではなく、親にも来てもらって親子で授業を受けてもらう」(赤堀教授)。

 例えばケータイの使い方について約束事を決める場合でも、先生と親、子どもが授業で話し合うほうが効果が見込まれる、というのが仮説だ。「子どもには子どもの言い分があるし、親には親の、先生には先生の言い分がある。これまで授業参観では親はいないものとして授業を進めたが、今回のプロジェクトでは親にも授業に参加してもらうのが特徴。親と子どもの約束事をどう作っていくかといのが研究会の趣旨の1つ」(赤堀教授)という。学校と家庭を“授業”を媒介として結ぶ。

赤堀教授が示した授業内容の例

 プロジェクトでは、こうした授業を2学期に分けて2回、全国の東西の小学校計4校で行う。実践校は非公開だが、情報環境の異なる学校を選択したという。これまでの情報教育の取り組みが“指導案レベル”にとどまり、効果測定や有効性の検証がなかったことへの反省から、赤堀教授らは、積極的に参加者の意識調査や効果検証などを行うという。プロジェクトで得られた成果は、学会やWebサイトで随時公開していく。現在のところ実際に授業を行ったのは1回だけだが、早ければ来春にも書籍としてまとめるという。

gooは先生向けページを開設

 NTTレゾナントは6月22日から小学生向けポータルサイト「キッズgoo」で、先生向けの「キッズgoo 先生のページ」を開始。今回のプロジェクトで作成した授業案や教材、分析結果を掲載していく。これまでキッズgooで小学生向けコンテンツに取り組んできた同社メディア事業部サービス部門担当課長の中野誠氏は「子どもたちのネット利用は当たり前になってきた一方で、課題も多くなってきたことから、保護者、先生方と取り組む必要があるのではないかと感じていた」と研究会への支援を決めたと話す。

ジャストシステム 法人ビジネス企画部 部長 村岡明氏

 ジャストシステムは、プロジェクト実施校に対する学習支援ソフト「ジャストスマイル4@フレンド」の無償提供や、書籍や教育関係者向け定期刊行物「Just.School」を通した情報発信を中心に研究会を支援する。これまで同社は「チャット荒らし」や「チェーンメール」の体験型情報モラル教材の提供など、新しい取り組みを続けてきた。チェーンメールのテンプレート提供では社内外からの反発もあったというが、同社法人ビジネス企画部 部長 村岡明氏は定型的なケースを場合分けして知識を教える従来型の教育ではなく、子どもたちが自分で判断できる力を育てたいと話す。村岡氏は、「その情報に対して自分がどう判断し、どう行動するのかを考えるような授業にチャレンジしたい。行動の根拠を考えるような授業を小学校の低学年からでも進めたい」と今回の研究会支援の動機と今後の展望を語った。

ジャストシステムの情報モラル教材の例。疑似体験を通じて学べる教材を提供しているという

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