あなたの書いた要求仕様書に「妥当性」はあるか上を目指すエンジニアのための要求エンジニアリング入門(5)(3/3 ページ)

» 2009年11月11日 00時00分 公開
[前田卓雄@IT]
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要求実現の擦り合わせ

 要求開発工程の説明を終える前に、ソフトウェアビジネスにとって極めて重大なテーマである「擦り合わせ」と「ソフトウェアプロダクトライン」について触れておきたい。最初に「擦り合わせ」を取り上げる。

 日本のものづくりが強い理由として、「擦り合わせて作り込む」、いわゆるインテグラルな(擦り合わせ)アーキテクチャを採用していることがよく挙げられる。ソフトウェア開発の世界では、モジュール化した開発が一般的であり、擦り合わせをなるべくしない努力が払われている。ソフトウェアでも擦り合わせを適用すれば、ソフトウェア開発能力が向上し、高い品質のソフトウェアが供給できるのかは、識者による検討が進められている。

 ソフトウェア開発における擦り合わせの是非はひとまず置いておく。今回は、「要求開発工程では大いに擦り合わせが必要なこと」を強調しておきたい。

 要求開発工程を狭くとらえると、単純に要求の品質を確保した要求仕様書を作成し、後工程に送り出すことだけに集中しがちである。しかし、それ以外にも重要なことがある。ソフトウェア製品自体の競争力、要求開発段階からソフトウェア品質を作り込む方法、品質の高いソフトウェア製品を生み出すソフトウェアプロセスの能力や競争力、競争力のある製品を生み出すソフトウェア技術者のスキルや育成、ソフトウェア組織の能力向上、システム要求(ハードウェア要求を含む)との接点や擦り合わせのタイミングなど、SWEBOKのような従来型の要求開発工程では形式知として明らかにされていない要素は数多い。これらの要素においては、日本人の品質へのこだわりから(擦り合わせて)生まれる特徴が、強い競争力を示す可能性がある。擦り合わせに強くこだわり、競争力を高めることが肝要である。

ソフトウェアプロダクトライン

 2つ目の重要なテーマとして「ソフトウェアプロダクトライン」を取り上げる。複数のソフトウェア製品やパッケージソフトウェアを継続して開発する場合、同様の開発が何度も繰り返し実行されることが予想される。このような開発では多くの場合、過去に開発したソフトウェアをベースに「派生開発」が行われる(図5参照)。

図5 関連製品を個別に開発する従来型アプローチ 図5 関連製品を個別に開発する従来型アプローチ

 しかし、この開発手法では、ソフトウェアの品質・コスト・開発期間の達成に十分競争力のあるソフトウェア開発を実行することが困難である。このため、日本を代表するあるシステム機器(ソフトウェア組み込み製品)メーカーでは、図5の開発方法から図6で示すソフトウェアプロダクトラインへシフトする取り組みが行われている。

図6 ソフトウェアプロダクトライン 図6 ソフトウェアプロダクトライン(クリックで拡大)

※ソフトウェアプロダクトラインでは、個々のソフトウェア製品の開発に先立って、戦略的に再利用する共通ソフトウェアを先行開発する。この共通部分のソフトウェアエンジニアリング(要求開発を含む)を「ドメインエンジニアリング」、個別部分のソフトウェアエンジニアリング(要求開発を含む)を「アプリケーションエンジニアリング」と呼んでいる


 ソフトウェアプロダクトラインのエンジニアリングでは、例えば、ソフトウェアの構造を決定するアーキテクチャやユーザーインターフェイス部分を共通化する。これらは複数の製品での再利用が多いからというだけではなく、ソフトウェアの開発生産性や付加価値の向上を決定づけるコアとなるからである。

 欧米の多くのグローバル企業では、ソフトウェアプロダクトラインは当たり前のエンジニアリングのプロセスであり、ツールを使用したモデルドリブンのアプローチで定義した要求仕様が世界に点在するネット上のソフトウェア工場に展開されている。海外企業に負けない日本企業の「強いソフトウェアものづくり」が望まれる。

要求仕様書を開発工程にバトンタッチする

 妥当性が確認され、開発に値するとされた要求仕様書は、開発工程にバトンタッチされる。バトンタッチされた時点の要求仕様書は、開発工程の基礎となる「ベースライン」の要求である。次回は、バトンタッチされたベースラインの要求と、その変更管理を中心に取り上げる。

著者紹介

前田卓雄

匠システムアーキテクツ株式会社 代表取締役

外資系コンピュータベンダのシステムエンジニア、デロイトトーマツコンサルティングを経て独立。主に、ユーザー企業、行政機関、大手システムインテグレータ、ハイテク企業、大手組み込みソフトウェア開発ベンダにおいて、情報戦略の立案、ユーザーが自ら作成するRFP(提案依頼書)作成を支援、ソフトウェアビジネスのプロジェクトポートフォリオ、プログラムマネジメント、プロジェクト管理とプロセス改善、開発プロジェクト管理システムの開発、バグ削減・欠陥予防・ソフトウェア生産性や競争力向上コンサルティングに従事。



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