ITエンジニアの周りにはストレスがいっぱい。そんな環境から心身を守るためのヒントを、IT業界出身のカウンセラーが分かりやすく伝えます。
プログラマやSEの方にしばしば見られる傾向として、「ミスは決して許されない」という完璧志向があります。プログラムのバグは許されませんし、スケジュールの約束をたがえることはできないのだと思います。それでも、過剰にミスを恐れるようになると歯止めがきかなくなり、精神的に疲弊しきってしまうことになりかねません。
第14回でご紹介した「認知行動療法」の実践例として、Kさんのケースをみていきましょう。
Kさんは25歳のプログラマです。中学生のころからプログラミングに興味を持つようになり、そのままプログラマの仕事に就きました。
几帳面な性格であるため、細かい作業をする適性があると自分でも感じています。しかし、ミスに気が付かなかったために先輩に厳しく指摘されたことをきっかけに、すっかり自信をなくしてしまいました。それからはミスがないか何度も確認するようになり、その分だけ仕事の仕上がりに時間がかかるようになりました。そのため、締め切りに間に合わせるために、遅くまで残業することが多くなりました。
疲れがたまって集中力も失われ、一層不安は募るばかりです。家に帰っても気になって眠れず、とうとう疲労で体調をくずしてしまい、相談にいらっしゃいました。
Kさんは「仕事をしていると、不安で不安でたまらなくなってくるんです。そうなると終ったところを何度も見直すことになって……」と、とても疲れきった表情です。
もちろん、仕事の仕上がりについての確認は必要ですし、慎重さも大切です。でも、Kさんの場合は過剰といえる状態です。
まず、自分の状態を客観的に整理してもらうことにしました。
Kさんの状況は、環境とKさん個人の内的な体験の相互作用であること、さらにKさんの中で認知、気分、行動、身体的反応が相互に作用していることを説明しました。
(1)認知……Kさんは、ミスは決してあってはいけないものと考えています。確認したり慎重になるのはミスを防ぐということ、よい行動であるという考えがあります。
(2)気分・感情……不安や時間が足りないという焦燥感を覚えます。
(3)行動……確認することで、なんとかミスを防ごうと時間をかけます。
(4)身体的反応……疲労と不安から不眠が生じます。
これらが循環しているのです。
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