心配症は優秀な人? SEのための認知療法・実践編心の健康を保つために(16)(2/2 ページ)

» 2009年12月08日 00時00分 公開
[石川賀奈美ピースマインド]
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ほどほどに心配するようになるために

 ミスへの心配を止めることは難しいでしょう。しかし、ほどほどに心配する、または心配を長引かせないことが必要です。

 そのためにKさんに以下のようなことを実践していただきました。

(1)認知……ミスは決してあってはいけないもの → ミスがないよう精一杯努力して、それでもあったらしかたがないと考えられるようにしました。

(2)気分・感情……どんなときに気になったり不安になったりするか、その不安の程度を記録してもらいました。そのときどんなことを考えたか、違う考えにしたら気分はどうなったかについて記録してもらいました。

<記録のしかた>

 課題を選び、過剰な確認をしないようにする(例:社内提出書類の確認は2回まで)。

 提出前の心配度合:例えば10段階でどれくらいか→提出後、どれくらいになったか。

 慣れてきたら、課題を段階的に影響度の高いものへと変えていきました。


(3)行動……しょっちゅう確認するのではなく、気になったことをメモしておき、集中して確認する時間を決めたり、ほかの人に確認してもらう方法がないか考えました。

(4)身体的反応……常にミスをしないように緊張していると、自律神経が交感神経優位になってしまい、動悸や消化器系の障害も生じる可能性があることを説明。定期的にリラックス法を実践してもらうことにしました。

 こうしたことを続けながら、段階的な確認行動の削減を目標としました。

 確認する行動をすればするほど、その行動をしたあとの効果としての安心感が薄れてしまうので、徐々に減らしていったわけです。これにも記録を活用してもらいました。

 この取り組みにより、Kさんは少しずつですが必要以上に確認することが減っていき、遅くまで残業が続くことは少なくなっていきました。

「自分の中の自分」に気づく

 このやりかたでは、自分の状態(感情や考え)の記録をつけながら自分の中で何が起きているのかを把握し、少しずつ行動レベルで変えていくことが大切です。

 Kさんの場合は、「ミスがないように確認するのはよいこと」という考えから必要以上に行っていたこと、さらにその根源には「いつも完璧な自分でなければならない」という考えがあったことにも気付いてもらいました。

 そのうえで行動を変えていきながら、感情や身体面に変化を起こしていきました。もし、行動だけを変えたとしても、もとにある考え方が変わらないとうまくいかないのは、想像に難くないでしょう。

 人の傾向は、成長する過程で培われるものです。ですから、それが悪いものだ、ということではありません。「無理やり変えるなんて、自分の個性を変えてしまうことみたいだ」と感じられる方がいるかもしれませんね。「個性」は、知らずに築いてきた「生きるための戦略」といい換えることができると思います。

 それが、過剰になったときに生活や身体に合わなくなってしまうことがある、ということだと思います。ですから、過剰になった状態を緩やかにして、生活や自分自身の生き方全体のバランスをとって調整するわけです。

 以前ご紹介したチェックテストで認知のゆがみの傾向に気づかれたら、それが行動面や感情にどんな影響を及ぼしているか、考えてみてください。気付かなかった自分を見つけられるかもしれません。

※注:認知行動療法のおおまかな流れをご紹介しましたが、実際はさらに丁寧にカウンセラーと話し合いながら計画をたてて実施します。


※事例は普段の相談活動をアレンジしたものです。個人のプライバシーに配慮し、設定や状況は実際とは変えてあります。


参考文献

▼福井至『図解による学習理論と認知行動療法』培風館、2008年。

▼伊藤絵美『事例で学ぶ 認知行動療法』誠信書房、2008年。


著者紹介

ピースマインド 石川賀奈美

臨床心理士、産業カウンセラー。米国フォーカシング・インスティチュート認定フォーカシング・トレーナー。現在、ピースマインドで成人を対象に幅広い相談に応じるとともに、定期的に企業に赴き、社員のカウンセリングを行う。高齢者虐待防止に関連し、在宅介護者のカウンセリングにもかかわっている。著書に『SEのためのうつ回避マニュアル 壊れていくSE』(翔泳社刊、分担執筆)がある。

「出口のないトンネルはない。しばし、一緒に光を目指して歩いていきましょう」



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