リクルート主催による技術者の祭典「Mashup Awards 6」の表彰式が開催された。544もの応募作品から、最優秀賞をはじめとする数々の賞が決定した
12月4日、マッシュアップによるアプリケーション開発コンテスト「Mashup Awards 6」(MA6)の表彰式が開催された。今年で6回目となる同コンテストは、Web開発に携わる開発者やデザイナにとっての祭典とも呼べる恒例行事。今回の応募作品数は544となり、前回の346から大幅に増えた。
表彰式では、優秀賞にノミネートされた5作品の制作者が作品についてのプレゼンを披露し、その内容を踏まえて最終審査を実施。そして栄えある最優秀賞には、育児専用日記サービス「育児日記EmiriSystem」が選ばれた。その最優秀作品を含むノミネート5作品を紹介する。
サービス名:育児日記EmiriSystem
作者:上田哲郎
URL:http://www.emiripapas.com/
最優秀賞に輝いた「育児日記EmiriSystem」は、名前のとおり育児日記のためのシステムで、写真入りの日記が簡単に作成できる。「エミリ」とは上田さんの長女の名前で、その成長を記録し、それを祖父母にも共有したいという思いから開発した。
子どもの成長過程を楽しめるようにと、画像のカレンダーやアルバム機能が用意されている。また、「1年前の今日」というリンクによって、1年間の成長がすぐに分かるようになっている。
一見すると一般のブログと同じだが、子どもの成長とともに日々蓄積されていくコンテンツを楽しむための機能が充実している。Webサービス上と同じように、ローカル環境でも利用できるCDへの書き出し機能は、親戚など人に渡して見てもらうときに便利で、バックアップにもなる。また、PDFやePub形式での出力もできる。
育児日記という性質上、一般に公開するというよりは、家族で楽しむという使い方がメイン。そのため、アクセスコントロールも家族、友人、友人の友人、サービスのユーザーといった具合にきめ細かく設定できる。
幅広いデバイスに対応している点も特長で、パソコンはもちろん、ケータイ、スマートフォン、テレビなどからも利用できる。
さらに、データのアップロードが簡単にできるアップローダ「EmiriAIR」(Adobe AIRで実装)、パソコンのデスクトップガジェットで画像をスライドショーとして楽しめる「EmiriGadget」など、支援ツールも用意しているという力の入れようだ。
仕事でクライアントから要望されたわけではなく、自分自身が欲しいから開発を始めたシステムであるからこそ、ユーザー視点の機能が次々と加わっていく。まさに、わが子への愛が凝縮された作品だといえるだろう。
上田さんは、長女が誕生した2001年から毎日欠かさず写真や動画を撮り続けており、その数は12万枚860Gbytesとのこと。また、近所の知人から広がったユーザーは増えていき、現在では23カ国3300人が利用。133万日分の日記、370万枚の画像、6万本の動画が蓄積されているという。
上田さんは受賞について「エミリが生まれてきてくれたおかげ。その母親、そして私の母親、家族に感謝したい。育児は人類永遠のテーマであり、その支援サイトを自分が運営できていることに幸せを感じる」と語った。
サービス名:テリトリ
作者:テリトリチーム
URL:http://teritori.at/
テリトリは、GPS位置情報を利用した陣取りゲーム型コミュニケーションサービス。iPhoneやAndroidなどのスマートフォンで取得した位置情報に基づいて陣地を広げていく。HTML5とCSS3を活用することで、ネイティブアプリケーションに迫る表現を実現している。
まず好きなエリア(現在いる場所)で「立国」を行い自分の領土を設定。近隣国へ入ったり、散策したりしながら、領土拡大や保守を行う。領土拡大は国力というパラメータの大小によって行われ、これはスパイ活動やパトロール活動によって増減する。
いわゆる陣取りゲームではあるが、同じくらいテリトリで重要なのがコミュニケーション。付近に別のユーザーがいると、あらかじめ用意しておいたメッセージが表示される(すれ違いメッセージ)。積極的にやりとりをするというよりは、「お、この辺にある国のユーザーからだな」といった「ゆるい」もので、気軽に楽しめる。
テリトリチームでは、「1日に1回プレーするだけでも楽しめるようになっている。自国に多くの人を呼び込むことで楽しむゲーム。ただし、ユーザーが少ない地域でも楽しめる工夫としてNPC(ノンプレーヤーキャラクター)を用意している」という。
技術的には、HTML5で利用できるAPIのほとんどを利用しており、今後のWebアプリケーションの可能性を垣間見せてくれる作品となっている。
サービス名:Twiccha(ツイッチャ)
作者:株式会社クロスフェーダー
URL:http://twiccha.com/
テーマごとにチャットルームが用意されていたり、発言メッセージが時系列に表示されていたりする点は、一般的なチャットサービスと同じだ。特徴的なのは、YouTubeやUstreamなどの動画を表示できる点で、チャットルームにいるユーザー同士で動画を見ながら語り合うことができる。
ここでポイントとなるのが動画の同期性。表示されている動画の再生個所が他のユーザーと同じでなければ話が合わない。チャットルームに先にいるユーザーと後から入ったユーザーでも同じ場面を見せるために考えたのが、RTMPというプロトコルの利用だ。
RTMPはHTTPと違ってWbブラウザとサーバの接続情報を保持でき、ユーザー間での動画同期が可能になる。従って、Webページ自体はHTMLだが、RTMPを使うためにサーバとの通信部分はFlashで開発されているという。
「本当はテレビそのものを埋め込みたかったのだが、それは難しいので“テレビのようなもの”としてYouTubeやUstreamで代替した」とのこと。
2ちゃんねるの実況版にはじまり、現在ではTwitter上で頻繁に見られる「テレビを見ながらの書き込み」。ネット時代ならではのテレビ視聴のスタイルともいわれているが、それを前提に作り込んだチャットシステムがTwicchaである。
動画以外にも、チャットネタとしてYahoo!ニュースをテロップのように表示したり、Twitterへの投稿を同時に行えたりするなど、マッシュアップがなされている。
サービス名:安心レーダー
作者:面白法人カヤック
URL:http://itunes.apple.com/jp/app/id380907554?mt=8(iTuens App Store)
「安心レーダー」は、ユーザー同士でお互いの位置を確認し合えるiPhoneアプリ。GPS位置情報を交換することで、事前に登録し合っていたユーザーは、常にお互いの位置を把握できる。親が子どもの居場所を把握したり、年配の人に持たせて迷子を防いだり、恋人同士がお互いの存在を意識したりと、使い道はさまざまだ。
端末の位置情報を利用するという類のサービスは、これまでも数多く存在する。しかし、「安心レーダー」は、簡単に利用できるという点で優れている。iPhoneアプリをインストールしたら、位置を確認する者同士で登録し合う。この登録(ペアリング)はBluetoothで行われるため、同じ場所にいる必要がある。あとは、登録相手が一覧に表示されるので、それを選択するだけで現在位置が住所と地図上で把握できる。
恋人同士はいいとして、夫婦間で使い出すと、場合によっては便利を通り過ぎて危険なサービスと思えなくもない。とにかく、シンプルだけれど使い道のある機能が簡単に使えるアプリとしてうまく設計されている。
アプリの設計には、iPhone(iOS)の仕様も大きく影響したという。「iOSでは、特殊な場合を除いてバックグラウドで処理し続けることはできない。ただし、位置情報の場合は、位置が変わった時にバックグラウンドアプリを起動できる。位置情報の精度はまぁまぁだが、そのくらいのあいまいさがいいともいえる。夫婦で使う人の中には、恐怖の安心レーダーと呼ぶ人もいる(笑)」と説明した。
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