●営業サイドの動き
リサーチ段階では、営業担当は顧客からヒアリングをし、それに合わせて情報提供することが中心です。
顧客側は、ある程度の情報を集めた段階で、提案依頼の準備を始めます。数百ページに渡る仕様書と提案依頼書を作成する会社もあれば、簡単なポンチ絵と口頭で提案を依頼する会社もありますが、大きな流れとしては一緒です。
●開発サイドの動き
開発メンバーには、営業同行が求められます。どの段階で同行を求めるかは営業担当の性格や、開発との関係によっても違ってきますが、一般的な傾向としてトップ営業は早い段階でエンジニアに同行を求めることが多いようです。
ここで、営業プロセスの中で「初回訪問」を特別に切り出しているのには、理由があります。初回訪問の目的は、大きくいえば1つだけです。それは「2回目の訪問」のアポを取ることです。初回訪問だけで終わってしまうケースが、非常に多いからです。
2回目以降のアポを取るには、「顧客側の話をしっかり聞く」姿勢が求められます。聞いた上で、「まだいろいろな情報を持っている」ことをにおわせる必要もあります。初回アポの時は、かなり高度なノウハウやテクニックが求められるのです。
●初回訪問でエンジニアを連れていくと失敗することが多い?
ところが、初回訪問にエンジニアを連れていくと、台無しにしてしまうことが多い。普段は無口なのに、話を振られると饒舌になってしまうエンジニアが多いからです。聞かれてもいないことまで言及してしまえば、顧客は興醒めしてしまい、次のアポが取れないという結末になりがちなのです。
そのため、営業はエンジニアを初回訪問に連れて行かないことが多いです。まずは信頼関係を作ってからエンジニアを連れていき、何かあっても自分がフォローできるような態勢を整えようとします。
●初回訪問からの同行を求められるエンジニアは信頼が高い
つまり、初回訪問から同行を求められるエンジニアは、極めて営業からの信頼度が高いということです。
第1回で「営業とは、信用を勝ち取ることとある意味で同義」「営業力があるエンジニアは市場価値が高い」と書きました。つまり、初回訪問に同行できるエンジニアはそれだけですでに、高い市場価値を持っている可能性があるということになります。
営業同行に関する心構えについては、いずれ詳しく書くつもりですが、現時点では「初回訪問が大切」ということを頭に入れておいてください。
●営業サイドの動き
前述したとおり、「プレゼンテーション=商品説明」です。ということは、これは本来、営業の仕事なのです。
提案依頼に対して提案書を出すことが、プレゼンテーション段階における最大の仕事でしょうが、提案書作成時、開発に丸投げする営業が多い。これはいただけません。提案コンペの勝率の高い会社は、営業が提案書作成のイニシアチブを取っていることが多いのです。
提案書作成のために社内で打ち合せする時も、全体の構成や役割分担などは営業が主体となって決めていくのが良いでしょう。特に「はじめに」などは営業が書く方が良いものになります。
その上で中身は開発に任せればいいのですが、開発の作る提案書はどうしても技術志向・製品志向、そして計画などの面で自己都合になりがちです。営業サイドは顧客の視点で、改善点を提示します。
顧客の前でのプレゼンやデモを要求される場合もあります。プレゼン会場の見取り図の入手や事前確認の申し入れなどは、顧客窓口である営業の仕事です。プレゼンやデモには有利な順番や時間帯などがあります。昼食後の眠くなる時間は避けるなど、少しでも有利になるための交渉も営業の仕事です。また、開発はリハーサルをやりたがらない傾向がありますが、実施するようにうながす必要があるかもしれません。
●開発サイドの動き
プレゼンテーションは、契約までの営業プロセスにおいて、開発部が最も活躍できる、そしてすべきステップです。
営業サイドの動きと矛盾するかもしれませんが、できる限り顧客の視点や立場に立った提案書を作りましょう。営業からのダメ出しがほとんどないように考え尽くしましょう(そのためには、営業との普段からのコミュニケーションや顧客への十分なヒアリングが必要なのは言うまでもありません)。
技術的な裏付けは添付資料でいいのです。提案書は、顧客、特に予算の執行権限のある人が分かるように作成しましょう。開発計画(スケジュール・体制・役割分担など)もこれらの人たちが安心できるように作ると良いでしょう。このような提案書が自然に作れる人こそが、市場価値の高いエンジニアなのです。
●営業サイドの動き
営業担当にとっては、ここが最大の腕の見せ所になります。
営業プロセスとしては、クロージング、つまり契約書をもらうのがこのステップの最大の目的です。
契約書を取り交わすまでは、油断できません。提案コンペに勝っても、そのあと条件が折り合わずに契約に至らないケースはいくらでもあります。競合会社も、最後の逆転を狙って、いろいろな動きをしてきます。
●開発サイドの動き
ここで開発にできることは、追加の情報提供と契約書のチェックぐらいです。基本的には営業に任せましょう。
システム開発は契約後に着手するのが建前(建前に反することはいくらでもありますが……)なので、営業ステップでいえば「アフターフォロー」になります。運用・保守も同様です。
ここが開発の主な仕事なので、「アフターフォロー」というとエンジニアにとっては意外かもしれません。実際、ここらへんの認識で営業担当とトラブルになることもあります。彼らからすると顧客からのクレームの窓口にはなるけれど、解決は開発でしてほしい、となるからです。
これを防ぐには、結局は人間関係しかありません。普段から営業に協力してくれるエンジニアに対しては、彼らも協力を惜しまないでしょう。「トラブル解決は開発で」と言われる場合は、お互いに協力関係が築けていないことが多いのです。
なお、システム開発で顧客と関係を作り、次の運用・保守や2次開発などにつなげていく「既存顧客営業」は、開発の仕事です(本当は営業と開発の共同作業ですが、主な責任は開発にあると私は考えています)。ここで「既存顧客営業はエンジニアである自分の仕事」と考えられるかどうかで、あなたの市場価値は大きく変わってきます。
システム導入における営業プロセスを図2にまとめました。
今回は、大枠を説明しました。次回以降、具体的なエピソードなども踏まえて説明していく予定です。
ITブレークスルー代表
森川滋之
1963年生まれ。1987年、東洋情報システム(現TIS)に入社。同社に17年半勤務した後、システム営業を経験。2005年独立し、ユーザー企業側のITコンサルタントを歴任。現在はIT企業を中心にプロモーションのための文章を執筆するかたわら、自分の価値を高める「自分軸」の発見支援にも従事している。
著書は『SEのための価値ある「仕事の設計」学』、『奇跡の営業所』など。日経SYSTEMSなどIT系雑誌への寄稿多数。
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