エンジニアが市場価値を上げるには、営業力が必要だ。元SEで営業経験もある著者が、「エンジニアが身に付けておきたい営業力」を語る。
あなたの会社では、営業担当と開発担当は仲がいいですか?
個人の付き合いレベルの話ではなく「部門対部門」、もっといえば「立場対立場」の話です。
私が現役エンジニアだったころは、営業と開発はあまり仲がいいとは言えませんでした。開発側は「営業はいつも、条件の悪い仕事ばかり取ってくる」と思っていて、営業は営業で「なんでお客さんの言うとおりにできないんだ」と文句を言っていました。
これは私がいた会社だけではなく、同業他社のエンジニアに聞いても同じような状況でした。
営業と開発が仲良くやっている会社は、本当に幸せだと思います。営業と開発の仲が良かろうが悪かろうが、会社のミッションや社員に求められる目標は変わらないわけですから、力を合わせて仕事をする方がいいに決まっています。
本連載のテーマである「ITエンジニアの市場価値」という観点から見ても、営業が引き立ててくれる方が市場価値は高まります。営業から嫌われていると、それだけ市場と接触する機会が減るからです。そうなると市場から見て、あなたの価値は低くなることになります。
これはすべてのコミュニケーションに共通することですが、仲良くなるための第一歩は、「相手の仕事や立場を知る」ことからです。
というわけでまずは、「営業担当はどんな仕事をしているのか」を知ることから始めましょう。
エンジニアであれば、規模や期間の大小にかかわらず、毎日プロジェクトの中で活動していると思います。
プロジェクトには、必ずプロセスが存在します。
ウォーターフォール開発であれば「要件定義→外部設計→内部設計→プログラミング→単体テスト→結合テスト→システムテスト→フィールドテスト」(もちろん呼び方はさまざまあるでしょうが)といったプロセスがあります。アジャイル型の開発でも、作法は異なれどプロセスは必ず存在します。
同様に、営業においてもプロセスがあります。いわゆる一般的な「営業」のプロセスから見ていきましょう。
●般的な営業のプロセス
これも人によって呼び方は違うでしょうが、営業の仕事には
「マーケティング→リサーチ→プレゼンテーション→セールス→アフターフォロー」
という流れがあります。
セールス、すなわち販売がごく一部なのに驚かれたかもしれません。営業は販売だけではないのです。
セールス部分に割く努力は、扱っている商品によって変わってきます。日用品であれば、売場での販売努力がプロセス全体のかなり大きな割合を占めるでしょう。
システム導入のように、高価で効果の予測が難しい商品であれば、セールスに関わるプロセスはごく一部になり、それよりもマーケティングやプレゼンテーションの部分に大きく労力が割かれます。また、リサーチで数カ月?数年かかるケースもあります。なぜなら顧客側で、企画から実行までに時間を要することがあるからです。
プレゼンテーションというと、提案コンペにおけるプレゼンを思い浮かべる方が多いと思いますが、この図でいうプレゼンテーションは商品説明のことです(詳細は後述します)。
まずは、以下のことを頭に入れておいてください。
ではいよいよ、エンジニアに関係する「システム導入における営業プロセス」を見ていきます。
●営業サイドの動き
すべてのスタートは、顧客企業における「IT化企画」です。これは個々のプロジェクトに関する話であり、それ以前に経営戦略とIT戦略を策定していることが前提です。
IT化企画は社内で行われるものであり、通常は何を企画しているか、システム導入の営業担当は知ることができません。何年もお付き合いのある会社で、顧客からも信頼されているエンジニアや営業がいれば、企画会議に参加することもあるでしょうが、新規開拓であればそのような機会はありません。
そこでIT企業の営業は、展示会に出展したり、無料セミナーを開催したりなどして、システム開発に関心のある企業を集めようとします。Webサイトからの問い合わせについても同様です。
IT企業における一般的なマーケティングは、大まかにいってこのような感じでしょう。こうした仕掛けをして、実際にアポが取れるまでが、IT営業におけるマーケティングです。
●開発サイドの動き
マーケティング段階で開発担当に求められるものは、「商品」と「情報」の提供です。
営業は「商品」とそれに対する情報がなければ売ることができません。パッケージ化企画のような具体的な商品があれば一番うれしいわけですが、そうでなくても開発事例などがあれば、売り方を考えることができます。つまり、事例も商品」になるということです。
事例があれば、顧客相手にセミナーを企画できます。エンジニアに導入における苦労話や技術的なポイントを語ってもらうこともできます。展示会のネタにもなるでしょう。逆にこういったものがない開発部は、営業としては売りようがないので、たまたまきた仕事で合いそうなものを回すことになります。そして、それらは条件の悪い仕事であることが多いのです。
最初のアポが取れた段階では、顧客側はまだIT化企画の段階にいることがほとんどです。IT企業とファーストコンタクトを取る時は、情報収集が目的であることが多いからです(同時に信頼できる会社かを探っているのは言うまでもありません)。
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