ライトニングトークをすると、これまで得られなかった気付きやノウハウを得られる。コミュニティとLTをこよなく愛するエンジニアによる「LT」解説
「闇アジャイラー」を題材としたライトニング・トーク(LT)連載も、私の担当分は今回が最後です。
そこで今回はこれまでお伝えできなかった小技――「LTの成功率を上げる7つの技術」をご紹介します。
多くの人が、発表の準備期間に、会場で話している自分の姿をシミュレーションすると思います。
タイトルでコンセプトを説明して、自己紹介で軽くボケて、アイス・ブレイキングができたところでアジェンダを読み上げ、トピックを順々に紹介し最後のまとめで主題をあらためて紹介――といった具合です。
準備中、トーカーはお客さんの反応も、ある程度は考えることでしょう。しかし、お客さんが想定外の反応をすることはしばしばあります。「ネタがスベる」「前提知識として当たり前のように話したトピックについて意外と知らない」などは、LT界の“あるある話”としてよく知られています。
これらの「想定外のフィードバック」がある場合、トーカーは話す内容をその場で切り替える必要があります。
今回はその切り替えに関する手法を「ルート」と「オプション」の順番で紹介をします(この分類は私が勝手にやっているものなので、書籍では違った言い方をしているかもしれません)。
ルートは、「お客さんに対する説明方法をその場で考えること」です。ゲームの分岐点と同じイメージでとらえると分かりやすいかもしれません。
ルートには通常、以下の4パターンがあります。
例えば、Amazon DynamoDBを利用した事例について説明をするとしましょう。どのルートが、どんな聞き手を相手にしているのか、想像しながら読んでみてください。
「Amazon DynamoDBはストレージにSSDを使ったNoSQLデータベースです。ユーザーが任意にスケールでき、スループットも自分で管理できる画期的なサービスです。今日はこのAmazon DynamoDBを使った事例を説明します。……」
「皆さん、Amazon はご存じでしょうか。書籍からCD、DVD、ファッションアイテム、家電品と膨大な商品を扱う世界最大のECサイトです。
この Amazon は数年前から Amazon Web Services というクラウド・コンピューティングのサービスを始めており、クレジットカードさえ持っていれば、誰でも安価にECサイトのAmazonが使っているのと同等のプラットフォームを使えます。そのAmazon Web Services、一般的には略してAWSと呼ばれていますが、AWS は 2012年1月に画期的な新サービス、Amazon DynamoDB を発表しました。
Amazon DynamoDB はストレージに SSDを使ったNoSQLデータベースです。ユーザーが任意にスケールでき、スループットも自分で管理できる画期的なサービスです。
SSDは一般的なハードディスクよりも遥かに高速で読み書きができる記録媒体です。ハードディスクと比べて高価なため、データベースのストレージとして利用することが難しかったのですが、Amazon DynamoDBは、SSDを採用することでこれまでのデータベースよりも圧倒的なパフォーマンスを実現しています。また、処理能力を増やしたり減らしたりもユーザーが任意に自由に行え、ユーザーの資金を無駄にすることがありません。今日はこのAmazon DynamoDBを使った事例を説明します。……」
「今日はAmazon DynamoDBを使った事例を説明します。……」
「Amazon DynamoDB は画期的で斬新な高速データベースのサービスです。ユーザーは、必要性と予算に合わせて処理能力を自由に選択できます。今日はこのAmazon DynamoDB を使った事例を説明します。……」
ルートAで想定しているお客さんは、ITの知識を持っていてクラウドやAWSについて名前くらいは聞いたことがある人です。
ルートBは、それらの知識があまりないと思われる場合です。事例の説明に入る前に前提知識を解説しておきます。
ルートCは、十分詳しい人が対象です。
持ち時間が50分あれば、ルートBを採用しても、どこかでリカバリが可能ですが、5分しかないLTでルートBを採用するのは命取りです。よく「LTはドラを鳴らされてなんぼ」といった意見を聞きますがそれではまだまだ。目指すべきは「LTのドラはトーカーの狙ったタイミングで鳴ってなんぼ」です。従って、時間配分に大きな影響を与えるルート選択はなるべく避ける方がよいでしょう。
そこで、ルートDを採用します。ルートDはざっくりと簡単に言い換えるパターンです。しかし、このルートDは思った以上に強力なパターンです。
LTにしてもプレゼンにしても、情報はなるべく絞って伝えた方が、聞き手の理解度は高まります。説得力を持たせるために、ある程度の情報量が必要ですが、前提知識や枝葉の部分で情報を盛り込みすぎるのは、聞き手の理解度を下げるというリスクがあります。
「いろいろ聞いたけど、結局なんだか分からなかった」という感想につながるプレゼンにならないようにしましょう。
さて、理想的には時間配分に影響がない表現で乗り切るのがベストですが、予想どおりにいくとは限りません。
そこで「リカバリ・プラン」です。
ルートBを選べば、後で時間短縮が必要になるし、ルートCを選べば逆にどこかで時間を使う必要が出てきます。下記のオプションをセットで使います。
オプションAとBは誰でもよくやると思います。本番では人前で緊張することもあるので狙ったペースでコントロールするのは難しいものです。事前のリハーサルが重要です。
オプションCは、ルートBとDの応用です。それなりの情報量があって説明に時間がかかるところを、一言二言に置き換えます。
これは内容をしっかり理解した上で抽象化して表現をする能力が必要になります(始めからそのようにするのであれば本連載第2回の「初心者のためのLT作成講座――5分で収まるスライドを作る3つのTips」の2ページ目を参考にしてみてください)。
オプションDは、お客さんの注意を集め直すときに使うと効果的です。よくやるのが「余談ですが……」と切りだして、発表のペースに変化を付ける、という手です。これは学校の先生とかがよくやるパターンで、生徒が授業に飽きていることを察知したらちょっとした小話などで、生徒の注目を集め直したりします。
話がうまい人は、その時のお客さんに合わせて、ルートとオプションを自在に組み合わせられる人なのだと思います。
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