社会における3つのデザイン本当のグローバルはローカルから

11月21日、「Global Innovation Design Symposium 2012」が開催された。その中から、イノベーション実践者であり、未来思想家・研究者でもあるデイル・ラッセル氏の基調講演をレポートする。

» 2012年11月27日 19時37分 公開
[太田智美,@IT]
デイル・ラッセル氏(イノベーション実践者・未来思想家・研究者) デイル・ラッセル氏(イノベーション実践者・未来思想家・研究者)

 11月21日、慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科は「Global Innovation Design Symposium 2012」を開催した。基調講演では、イノベーション実践者であり、未来思想家・研究者でもあるデイル・ラッセル(Dale Russell)氏が「国際的なデザインコネクションがイノベーションの鍵となる」というテーマで、社会におけるデザインの在り方を語った。ここでは、3つのデザインを紹介する。

  1. 未来に作られるデザイン
  2. 個人にとってのデザイン
  3. グローバルな世界におけるアイデンティティ

 まず、未来に作られるデザインについて、ラッセル氏は「人は具体的な形ができる前に、未来に作られるであろうデザインを知っている」という。例えば、近年流行している「ホームオフィス」という考え方もその1つ。ホームオフィスとは、会社という場所に捉われることなく、いつでもどこでも働ける環境のことをいう。ITが進化した今だからそのようなスタイルが生まれたと思われがちだが、実はそうではない。「ホームオフィス」という言葉すら持たない時代から、「家で仕事ができたらいいのに」と考えていた人はたくさんいたとラッセル氏は指摘する。

 次に、個人にとってのデザインを考えてみたい。老女の写真を見てほしい。この写真を見て、どのように感じるだろうか。

老女の写真 老女の写真

 この「イス」に腰かけた老女は、「私にとって、この椅子が最も居心地がいいのです」と答えたという。周りの人からしてみれば、固く座り心地の悪い、ただの運搬車だ。しかし、この女性にとっては、どんなに高級なイスよりも居心地のいい、馴染んだイスなのである。これが「個人にとってのデザイン」だと、ラッセル氏は述べる。

 3つめは、「グローバルな世界におけるアイデンティティ」である。「グローバルな人材」とは、「マス化した人間」をいうのではない。「グローバル」と聞くと、つい英語のように「世界共通の何か」を想像してしまう。しかし、本当に必要とされている「グローバルな人材」はそうではない。ローカルなものをグローバルな視点で考えられる人材である。ラッセル氏は、「グローバルを考えるのであれば、ローカルのことを考えなければならない。それぞれの国の文化のベースを理解しなければいけない。クリエイティブな戦略は、それぞれの文化の理解に基づいてやらなければならないのだ」という。

 「デザイン」というと、視覚表現を頭に描く人も多いだろう。しかし、これからは体験や文化を軸とした「社会的デザインの在り方」に注目が集まりそうだ。その際には、ラッセル氏のいう3つのポイントがヒントになるのではないだろうか。

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