日本IBMはなぜ仮想アプライアンス化を推進するのか「仮想アプライアンス・センター」の設立を発表

日本IBMは4月15日、ソフトウェアベンダやシステムインテグレータがアプリケーションを仮想アプライアンスとして提供することを支援する拠点、「仮想アプライアンス・センター」を同日に設立すると発表した。ベンダ中立的な標準を、日本IBMが推進する理由は何なのだろうか。

» 2013年04月16日 10時25分 公開
[三木 泉,@IT]

 日本IBMは4月15日に、ソフトウェアベンダやシステムインテグレータがアプリケーションを仮想アプライアンスとして提供することを支援する拠点、「仮想アプライアンス・センター」を同日に設立すると発表した。これは日本独自の取り組みという。

 「仮想アプライアンス」という言葉は、何らかのソフトウェアを仮想マシンとして流通させることを表現するために使われている。日本IBMが今回の発表で意図しているのは、複数のアプリケーションコンポーネントで構成される「業務」アプリケーション製品を、単一のパッケージとして流通させることの促進だ。

 具体的には、主要ベンダが参加する業界標準化団体、DMTF(Desktop Management Task Force)が定めた仮想マシンパッケージング標準「Open Virtualization Format(OVF)」での流通を促す。OVFでは1つあるいは複数の仮想マシンを、単一のファイルにまとめ、構成情報とともに提供することができる。OVFでは、複数のソフトウェアコンポーネントに対し、統合的なパッチ当てを行う手法も備えている。

 OVFによるソフトウェアの提供は、一般的なソフトウェアでは徐々に進んでいる。しかし、国内の業務アプリケーションでは、仮想アプライアンス化しているケースが少ない、こうした現状を変えるのが、仮想アプライアンス・センターの目的だという。

 日本IBMは、下図のように、業務アプリケーションを仮想アプライアンスとして提供することは、ソフトウェアベンダやシステムインテグレータにとって、さまざまなメリットがあると強調する。

仮想アプライアンスが導入やサポートを自動化できるメリットを強調

 仮想アプライアンス化すれば、インストール作業は基本的に不要で、導入に要する時間が大幅に短縮化される。また、導入のたびに、各ソフトウェアの専門家がかかわる必要がなくなる。あとは場合によって、個別環境への対応も、典型的な導入パターンに基づいてテンプレート化しておけば、さらに省力化が図れる。

 日本IBMは、同社の晴海事業所に仮想アプライアンス・センターを開所。同社が以前より無償で提供している仮想アプライアンス作成ツール「IBM Image Construction and Compositioon Tool(ICCT)」を用いたパッケージ化および動作確認で技術支援を行う。構築された仮想アプライアンスのカタログを同社のWebサイトに掲載。システムインテグレータは、掲載された仮想アプライアンスをニーズに応じて組み合わせ、利用できるとする。ただし、IBMがこうした仮想アプライアンスを再販するわけではない。

 OVFはIBMだけが開発したものでもなく、XenSource(シトリックス)やヴイエムウェアが貢献した、ベンダ中立的な標準だ。そのOVFの利用促進活動を、日本IBMがなぜやろうとしているのか。

仮想アプライアンス・センターで仮想アプライアンス化の支援やカタログ化を行う

 そう聞くと、次のような疑問が浮かんでくる。日本IBMは、PureSystemsの発表と同時にIBMが開設したPureSystems Centreに、ソフトウェアベンダやシステムインテグレータを誘導したいのではないのか。PureSystems Centreには、PureSystemsや、PureSystemsで採用されているミドルウェアとの統合によって導入と運用の自動化を進められる、ソフトウェア/アプリケーションのパターンおよびその実体がカタログ化されている。そして顧客がソフトウェア/パターンを、このPureSystems Centre上のカタログから直接購入する選択肢も用意されている。OVFに基づく仮想アプライアンスは、IBMの製品に直接結び付くものではないが、PureSystemsでは仮想アプライアンスも基本的なパターンの1つという考え方をしている。こうしたPureSystemsエコシステムの拡大を狙っているのではないのだろうか。

 これを質問したところ、日本IBMは、自社製品の売り上げ拡大に直接つなげる活動ではないと答えた。今回の仮想アプライアンスカタログも、PureSystems Centreとはまったく別個に運営するという。それよりも業務アプリケーションの仮想アプライアンス化を「業界のムーブメント」にしていきたいという。

 日本IBM 専務執行役員 システム製品担当の三瓶雅夫氏は、別の質問への答えで、(米国に限らず)中国を含めたアジアの新興国では、後発者利益で、すでに仮想アプライアンスを使った業務システム構築が活発に行われていると発言している。このままだと日本IBMだけでなく、日本のIT業界全体が取り残されていってしまうという考えがあるようだ。つまり、IBMの製品よりもはるか前段のところを変えたいというのが動機のようだ。

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