5月17日、カンファレンス運営に興味がある人のためのイベント「カンファレンスカンファレンス」が開催された。そこで共有されたノウハウをレポートする。
5月17日、カンファレンス運営に興味がある人のためのイベント「カンファレンスカンファレンス」が開催された。会場には、IT系コミュニティカンファレンスの主催者たち(Lightweight Language Matsuriの法林浩之氏、YAPC::Asia Tokyoの牧大輔氏、PHPカンファレンスの田中康一氏、東京Node学園祭のJxck氏、PyCon JPの清水川貴之氏)が勢ぞろい。そこで共有されたイベント運営のためのノウハウを、一問一答形式に再構成してレポートする。
まず、カンファレンス主催者は、参加者の誰よりもカンファレンスが好きである。そもそも、カンファレンスが好きでなければ、運営に携わることは難しいように感じた。東京Node学園祭のJxck氏はこう語る――「自分の場合は、単純に面白いと思っているからやっている。自分と同じように、このような活動が面白いと思う人が集まるから、カンファレンスは楽しい会になるのではないか」――。
また、「恩返しをしたいから運営している」という回答が複数出ていたことが印象的だった。「先輩たちが作ってくれたソフトウェアやコミュニティに対して、恩返しがしたい」(法林氏)。「昔、オープンソースコミュニティなどで周りの人に助けてもらった。だから、その恩返しがしたい」(牧氏)。
キャンセル率は、無料・有料にかかわらず、年々高くなる傾向にあるようだ。イベント開催時は、通常ならば20%のキャンセル率を想定しておいた方がいいだろうとスピーカーは口をそろえた。また、無料イベントと有料イベントでは、有料イベントの方が10%ほどキャンセル率が少ないという結果も表れている。
イベント集客人数を決定する際のポイントとして、YAPC::Asia Tokyoの牧氏は次のように述べる。「考えるべき軸は2つ。『こういうイベントがやりたい』ということと『何人集めたいか』。『何人呼びたいから、こういうイベントにしよう』という発想はしない。この2軸で、成功する方法を考える」――。
参加者同士の交流は、ほぼ全員が「懇親会」と答えた。また、予算がない場合などは「ランチを一緒に食べたい人」という具合に、出会いのセッティングだけを行うゆるい手もあるようだ。
多くのカンファレンスでは、やりたい企画を実現するためにいくら必要かを計算してスポンサーを募り、予算を立てているとのこと。「○○万円しかないから、あの企画はできない」などと、削っていってしまうのは損。予算がないときは、会場を大学などにすると無料で使わせてくれることもあるようだ。
また、無視できない収入として、参加者からの有料チケット代がある。相場は、平均3000円前後。Ustream配信や資料の共有が活発に行われ、情報だけならば無償で得られる今、なぜ有料にするのか。PyCon JPの清水川氏は、「その場の空気や熱、そこで出会う人たちとの交流の価値として、値段を付けている」と話す。
また、参加者としてイベントに来ていたRubyKaigiの角谷信太郎氏は、RubyKaigiのチケット代値上げについて「RubyKaigiは世界中から参加者が集まってきてしまう。1000人を超えると、会場を抑えるのが大変。だから値上げした。また、海外の格が高めのカンファレンスと合わせたという面もある。高いと思った人には、日本中で活動している地域のRubyコミュニティに参加してもらいたい。無料やほぼ無料(50円)のイベントも多数あるため、そういったところからも活動を盛り上げていってほしい」と述べる。
中でも、「飲食の制限」と「ネットワーク環境」がとても重要である。ネットワーク環境については、人脈と労力を使って何とか自力で作るケースが多いようだ。一方、自分たちでは解決できない厄介な問題が飲食。「飲食の制限は交流の制限でもある」とパネリストたちが口々に言うように、飲食の制限はカンファレンスにとって肝となる。
飲食の制限について、牧氏は「規模が大きくなると、会場が豪華になる。会場が豪華になると、飲食が難しくなる場合が多い。そこで、『大人数収容できて飲食ができる場』を探すことになる。すると、結婚式場にぶち当たる。しかし、われわれは、炭水化物と揚げものとビールさえあればいい。なのに、結婚式場ではサーモンのカルパッチョのようないらないものが出てきたりする。そこが歯がゆいところだ」と言う。
スポンサー営業に回ると思いきや、実際はツテを辿ってスポンサーを獲得するケースが多い。また、一度つながりができると、企業の方から声をかけてくれる場合も少なくないようだ。スポンサーに提供できるメリットを試行錯誤しながら、少しずつ輪を広げていくのがミソ。
スポンサーの立場としては、イベントの規模感や参加者の属性、集客プランなどがあらかじめ分かっていると社内で相談しやすいという。さらに、イベントのアンケート結果を後日共有できたり、要望に応じて臨機応変な対応が可能だったりするとさらに協賛しやすいという。スポンサー営業に行く際は、社内説得材料として「資料」は用意した方がよさそうだ。
スタッフは、基本30〜40名くらいで考えておけばいいだろう。スタッフは多ければ多いほどいいように思うが、多くても動く人数は変わらないため、1人当たりのタスクは変わらないのが実情。
スタッフには、勉強会で知り合った人やイベント参加者へのアンケートで、少しずつ新しい人を巻き込んでいく。だが、難しいのは世代交代。なかなか世代交代ができないイベントが多い中、PHPカンファレンスは毎年のように実行委員長が変わっている。田中氏に話を聞いてみると、当日スタッフで入ったメンバーをいきなり会場の運営責任者にしてしまったり、次の年には委員長をやらせたりと、強引なくらい意識的に行っているとのこと。また、「委員長を外れた後は、卒業」ではなく、元委員長はコアスタッフに在籍しているのがポイント。分からないことがあれば、前の実行委員長にいつでも聞ける体制が整っていることが大きな要因となっている。
最後のトピックは、会社の仕事とカンファレンス運営をどう両立させているかについて。仕事の一部としてやっているメンバーもいたが、そのような人でも土日や平日の深夜の時間を使ってコツコツと行っていることが分かった。
「カンファレンスが好き」――この気持ちこそが、イベント主催/運営の極意である。
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