Scalrは、WebベースのGUIインターフェイスを提供しており、WebサーバのオートスケールやDBサーバのフェイルオーバを容易に行えるOSSのクラウド管理ツールだ。
利便性の高さが利点の1つであるクラウドは市場が急拡大している。Gartnerの市場予測によると、パブリッククラウドの世界市場は2013年に前年比18.5%増の1310億ドル規模まで拡大する見通しだ。
実際、クラウド運用管理ツールを提供するScalr社の最高経営責任者(CEO)であるセバスチャン・スタディール氏によると、「中小企業ではGoogleやsalesforce.comなどの提供するクラウドの導入が急速に進んでいる。特にシリコンバレーの新興企業でクラウドを使用しない企業はないほどだ」という。
その一方で、クラウドには「コンプライアンス(法令遵守)およびセキュリティと、利便性とのトレードオフ」という側面がある、とスタディール氏は説明する。特に大企業では、コンプライアンスやセキュリティに対する要件の厳しさなどから、クラウドへの移行を阻む障害となっているという。
企業内におけるクラウド環境構築や運用の諸問題を解決し、クラウド本来の利便性や俊敏性を最大限に活用するためのツールが、クラウド運用管理ソフトウェアである。OSやミドルウェア、データベースサーバなどのインストール、ロードバランサの設定、アプリケーションのインストールといった作業を自動化し、運用管理に掛かる手間を省力化することができる。大規模なクラウド環境を構築する企業にとっては特に重要だ。
スタディール氏によると、クラウド運用管理ツールは、大きく3種類に分けることができる。1つは、クラウドベンダが提供するツールだ。「AWS OpsWorks」などがこれに当たる。もう1つは、ユーザー企業による自作。数行のスクリプト程度のものから、Netflixの「Eureka」のような大規模なものまである。そして、最後の1つが、サードパーティベンダの提供するツールだ。ScalrやRightScaleなどのツールが市場に出回っている。
Scalrは、パブリッククラウドとプライベートクラウドを問わず、複数のクラウド環境を統合管理するツールだ。WebベースのGUIインターフェイスを提供しており、WebサーバのオートスケールやDBサーバのフェイルオーバを容易に行える。現在、7000社以上の顧客が利用しているという。
パブリッククラウドとして、AWS、IDCフロンティア(関連記事)、Rackspace、Google Compute Engineを、プライベートクラウドとして、OpenStack、CloudStack、Eucalyptus、nimbulaをサポートする。Scalrはこういった複数のクラウドを統合管理できる。また、CloudFoundryのプロビジョニング機能も持っているため、PaaS基盤との連携も可能である。
Scalrでは、インスタンスは「Role」として定義される。Apacheやmemcashed、MongoDB、MySQL、PostgreSQL、Nginx、Redis、Tomcatなどがロールとして標準で実装されている。LAMP構成、RDBMS用、KVS用、ロードバランサ用といった目的に特化したロールを選択することが可能となっている。
複数のロールをひとまとめにしたものを「Farm」と呼んでいる。例えば、Webサイトを構築するためにアプリケーションサーバ、ロードバランサ、データベースの各ロールを用意し、ファームでひとまとめに管理する。同様の構成のWebサイトを追加したい場合は、ファームを複製するのみで構築可能だ。管理者の作業を軽減し、かつ設定ミスや操作ミスといった障害の原因を抑えることができる。
また、Chefによるサーバの構成管理にも対応するほか、サーバ起動時など任意のタイミングで定義したスクリプトをインスタンス上で実行する機能も備わっている。ファームを自動でモニタリングする機能も搭載されており、サーバの状態を可視化することもできる。
Scalrは、利用者が自分で環境を構築するOSS版と、Webサービスとして提供するHosted版、大企業向けのEnterprise版が用意されている。オープンソース版を利用すれば、低コストで利用可能な点も特徴だ。
なお、Scalrを使ったクラウド管理については、こちらの記事で詳述しているので参照されたい。
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