図7のように、ルータやレイヤ3スイッチとコンピュータの間にレイヤ2スイッチを配置している場合は、レイヤ2スイッチでもIPv6を有効化します(本稿では、レイヤ2スイッチのIPv4の基本設定やDNSクライアントの設定は設定済みのものとします)。
レイヤ2スイッチL2SW1にIPv6アドレスfdf4:1b39:8777:1::2/64を手動で割り当てます。
今回想定しているCatalyst2960シリーズをデュアルスタックにするには、SDM(Switch Database Management)テンプレートを変更する必要があります。SDMテンプレートとは、TCAMリソースをさまざまな用途に割り当てるために、システムリソースに優先度を設定して最適化を行うための機能です。IPv6をサポートするためには、最初にSDMテンプレートをデフォルトのテンプレートからデュアルスタック用に変更する必要があります。
CAM(Content Addressable Memory:連想メモリ)は、高速検索用の特別なメモリのことです。CAMにはBCAM(Binary CAM:二値連想メモリ)やTCAM(Ternary Content Addressable Memory:三値連想メモリ)などの種類があります。BCAMは値が1と0で構成されているものを対象にしており、MACアドレステーブルなどでBCAMが利用されています。CAMという場合は、BCAMを指すことが多いようです。
TCAMは、0と1以外にX(Don't Care)を扱うことができるメモリで、IPルーティングやQoS、ACL(Access Control List:アクセス制御リスト)などで利用されています。IPにおけるパケット処理では、10.1.1.1/32などのIPアドレスだけでなく、10.1.1.0/24や10.1.0.0/16などのサブネットアドレスも扱う必要があるためです。
L2SW1#show sdm prefer
最初に、現在のSDMテンプレートを確認しておきます。
The current template is "default" template.
The selected template optimizes the resources in
the switch to support this level of features for
0 routed interfaces and 255 VLANs.
number of unicast mac addresses: 8K
number of IPv4 IGMP groups: 0.25K
number of IPv4/MAC qos aces: 0.125k
number of IPv4/MAC security aces: 0.375k
実行結果の1行目に「The current template is "default" template.」と表示されており、現在はデフォルトのテンプレートが選択されていることが分かります。
L2SW1#configure terminal
L2SW1(config)#sdm prefer dual-ipv4-and-ipv6 default
次に、SDMテンプレートをデュアルスタック用のものに変更します。
Changes to the running SDM preferences have been stored, but cannot take effect
until the next reload.
Use 'show sdm prefer' to see what SDM preference is currently active.
L2SW1(config)#exit
L2SW1#reload
System configuration has been modified. Save? [yes/no]: yes
Building configuration...
[OK]
Proceed with reload? [confirm]
メッセージが表示され、テンプレートが変更されたことが確認できたら、スイッチを再起動します。
L2SW1#show sdm prefer
スイッチが再起動したら、テンプレートが変更されたことを確認します。
The current template is "dual-ipv4-and-ipv6 default" template.
The selected template optimizes the resources in
the switch to support this level of features for
0 routed interfaces and 255 VLANs.
number of unicast mac addresses: 8K
number of IPv4 IGMP groups + multicast routes: 0.25K
number of IPv4 unicast routes: 0
number of IPv6 multicast groups: 0.375k
number of directly-connected IPv6 addresses: 0
number of indirect IPv6 unicast routes: 0
number of IPv4 policy based routing aces: 0
number of IPv4/MAC qos aces: 0.125k
number of IPv4/MAC security aces: 0.375k
number of IPv6 policy based routing aces: 0
number of IPv6 qos aces: 0
number of IPv6 security aces: 0.125k
実行結果の1行目に「The current template is "dual-ipv4-and-ipv6 default" template.」と表示されており、デュアルスタック用のテンプレートが使用されていることが分かります。
L2SW1#configure terminal
L2SW1(config)#interface vlan 1
L2SW1(config-if)#ipv6 address fdf4:1b39:8777:1::2/64
L2SW1(config-if)#end
VLAN1に、IPv6アドレスを割り当てます。
L2SW1#show ipv6 interface brief
IPアドレスを確認します。
Vlan1 [up/up]
FE80::9EAF:CAFF:FE41:6340
FDF4:1B39:8777:1::2
(以下省略)
VLAN1に、リンクローカルユニキャストアドレスと、ユニークローカルユニキャストアドレスが割り当てられています(リンクローカルアドレスは、自動的に割り当てられます)。
L2SW1#show ipv6 route
レイヤ2スイッチのルーティングテーブルを確認します。レイヤ2スイッチはフレームの中継処理にはルーティングテーブルを使いません。このルーティングテーブルは、コンピュータと同様に、レイヤ2スイッチ自身が送信元や宛先となってpingやTelnetなどのIP通信を行うときに使用されます。
IPv6 Routing Table - Default - 4 entries
Codes: C - Connected, L - Local, S - Static, U - Per-user Static route
S ::/0 [1/0]
via FE80::1, Vlan1
C FDF4:1B39:8777:1::/64 [0/0]
via Vlan1, directly connected
L FDF4:1B39:8777:1::2/128 [0/0]
via Vlan1, receive
L FF00::/8 [0/0]
via Null0, receive
最初の「S ::/0 [1/0] via FE80::1, Vlan1」は、デフォルトゲートウェイを表しています。L2スイッチの場合は、IPv6のデフォルトゲートウェイアドレスが動的に学習され、上記のように自動的に登録されます。
同様の手順で、L2SW2にはfdf4:1b39:8777:2::2/64を割り当てます。コマンドは以下の通りです。
L2SW2(config)#sdm prefer dual-ipv4-and-ipv6 default
L2SW2(config)#exit
L2SW2#reload
L2SW2#configure terminal
L2SW2(config)#interface vlan 1
L2SW2(config-if)#ipv6 address fdf4:1b39:8777:2::2/64
L2SW2(config-if)#end
以上で、ネットワークデバイス側の設定は終了です。次回は、WindowsコンピュータのIPv6アドレス構成について確認し、IPv6での「ちょっとだけ連携」の準備を完了させます。
山口 希美(やまぐち きみ)
ITインストラクター
エディフィストラーニング(旧社名NRIラーニングネットワーク)で、ネットワーク関連コース全般の企画・開発・実施、および書籍の執筆などを担当。同社で「理論と実装をバランスよく」をモットーに、実機演習中心のトレーニングを実施中。分かりやすさには定評がある。
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