EMCジャパンは9月5日、ミッドレンジストレージ製品シリーズ「EMC VNX」の全面刷新を発表した。VNXはEMCの注力する主力製品。新VNXは、新ジャンルであるオールフラッシュストレージに対する、ユーザーの見方に変化をもたらす可能性がある。
EMCジャパンが9月5日、ミッドレンジ製品シリーズ「EMC VNX」の全面刷新を発表した。発表概要については別記事をお読みいただきたい。同社は、新VNXの製品コンセプトを、「これまでのようにディスクではなく、フラッシュに最適化した」と表現している。この発表でEMCは、いわゆる「オールフラッシュストレージ」への直接的な言及はしていないが、実際にはこの新ジャンルのストレージ製品に対するメッセージが込められていると考えられる。
ストレージ分野では「オールフラッシュストレージ」と呼ばれる新しいジャンルが話題になっている。既存のストレージ製品でも、SSDだけで構成すればオールフラッシュストレージではないかといわれそうだが、過去数年の間にベンチャー企業が次々投入し、大手ストレージベンダも取り組んでいる、新ジャンルとしての「オールフラッシュストレージ」は、従来のストレージ装置と設計が異なる。
オールフラッシュストレージを推進するベンチャー企業は、従来のストレージ装置のアーキテクチャはダメだと主張する。フラッシュという記憶媒体の高速性と低遅延性を最大限に生かすためには、フラッシュと、フラッシュに対するデータの読み書きを行う主体(典型的にはサーバ)との間のデータ経路に存在する各種のボトルネックを取り払う必要があるからだ、といい、自社製品は各所のボトルネックを回避するアーキテクチャを備えているとする。EMCもオールフラッシュストレージを開発し、限定的に提供中であり、事実上、この主張を認めていると考えられる。
たしかに、この説明は理にかなっている。また、「従来と異なるアーキテクチャ」といわれれば、革新的な感じを受ける。だから筆者を含めてメディアも、この種の製品に注目したくなる。ただし、従来型とアーキテクチャが違うからといって、フラッシュの性能を「最大限に」生かせる保証があるとはいえない。一方で、従来型のアーキテクチャでも、フラッシュ利用で発生し得るボトルネックの発生個所を改善することはできる。その結果として、フラッシュの性能を「かなり」活用できる可能性が生まれる。
EMCの新VNXシリーズは、後者を目指した製品だ。オールフラッシュストレージのベンダが従来型ストレージ製品における最大のボトルネックとして指摘する、ストレージコントローラを中心に改善を加えている。
新製品ではストレージコントローラのソフトウェアを完全にマルチスレッド化したため、コントローラに搭載したインテルマルチコアプロセッサのCPUパワーを、フルに生かせるようになったという。新VNXの最上位機種「VNX 8000」では、8コアのCPUを2基搭載したコントローラを、アクティブ―アクティブで2つ動かすため、32コアでの並列処理が可能になった。さらにプロセッサ間の帯域幅を大幅に拡大し、リニアな性能向上を実現したという。
EMCは新VNXの性能について、「ミリ秒以下の遅延で、110万IOPSを達成した」としている。これは、IOMeterによる8KBランダムリードの数値だという。しかも、より多くのコアをコントローラに搭載することで、今後さらに性能を向上できると主張する。
こうなると、設計の美しさやカッコよさは別として、従来型のアーキテクチャの製品でも、各ユーザー組織における用途に照らして十分な性能を提供できるケースが広がってくる。しかも、従来型製品は、フラッシュとハードディスクドライブ(HDD)を組み合わせて使える経済性もある。すると、ユーザー組織がやるべきことは、アーキテクチャにかかわらず、求める性能とこれを実現するための製品コスト、そして必要とするデータ保護などの機能を具体的に比較することに移っていく可能性がある。
IT INSIDER「フラッシュストレージとSoftware Defined Storageの明日」では、オールフラッシュストレージとSoftware Defined Storageが企業コンピューティングに今後与える影響について解説しました。ご覧いただければ幸いです。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.