OpenStackはPaaSをカバーすべきか、そうでないのかOpenStack Summit Hong Kong

OpenStackで、PaaSレベルのプロジェクトを推進する動きが見られるようになってきた。だが。これについてOpenStack Foundation内部では意見の対立があることが、11月5日より開催されているOpenStack Summit Hong Kongにおける取材で明らかになった。

» 2013年11月08日 12時44分 公開
[三木 泉@IT]

 OpenStackは、オープンソースIaaSのプロジェクトとしてスタートしたが、その活動の対象はより上位のレイヤに今後大きく広がっていく可能性がある。可能性はあるが、これについてOpenStack Foundation内部では意見の対立があることが、11月5日より開催されているOpenStack Summit Hong Kongにおける取材で明らかになった。

 OpenStackでは現時点で、下図に示すように4つのプロジェクトがインキュベーション段階にある。インキュベーション段階とは、コア・プロジェクト(正式にOpenStackの一部を構成するプロジェクト)となる前の、いわば審査中というレベル。後述のように、最低1年はこの段階を経て、コア・プロジェクトに昇格するかどうかが個別に決定される。上記の4つのインキュベーション・プロジェクトのうち3つ(Trove、Marconi、Savanna)は、IaaSレベルというよりPaaSに分類できる。

現時点でのOpenStackのプロジェクト(OpenStack FoundationのWebページより)

 レッドハットのコンサルティングエンジニアであるマーク・マクラフリン(Mark McLoughlin)氏は、今回のサミットのゼネラル・セッションで、2014年にはこの4つを含め、下図の8つがコア・プロジェクトに含まれるだろうと話した。マクラフリン氏はOpenStack Foundationの判断を代弁する立場ではないので、実際にこうした結果になるかどうかは分からない。だが、同氏の図では、上記の3つに、PaaSプラットフォームを目指すSolumプロジェクトがさらに加わることになる(Solumはまだインキュベーション段階に達していない)。

マクラフリン氏がOpenStack Summitにおける講演で示した、2014年に新たに加わる(と同氏が考える)プロジェクト

OpenStackはクラウドの全レイヤを「征服」する?

 OpenStackは今後、IaaSだけではなくPaaS、そしてもしかするとSaaSまでを含む包括的なクラウド・プラットフォームになっていくのだろうか。OpenStack FoundationのCOOであるマーク・コリアー(Mark Collier)氏と、同財団のエグゼクティブ・ディレクターであるジョナサン・ブライス(Jonathan Bryce)氏に、この点を聞いてみた。下記は筆者の質問と、両氏の答えだ。

―― IaaSより上のレイヤに関する新プロジェクトが次々登場することで、OpenStackはクラウドの世界全体をいわば「征服」していこうとしているかのような印象を受ける。そうした意図なのか。

コリアー このコミュニティはユーザーのニーズを満たすこと、データセンターにおける共通のタスクを自動化することに注力している。Databae as a ServiceなどはOpenStackにとって自然な進化だ。ただし、(OpenStack Foundationでは)新プロジェクトのインキュベーションについては時間を掛けた周到なプロセスを持っている。新プロジェクトについて、非常に初期の段階で耳にすることで、われわれが非常に速いスピードで新カテゴリに進出するように思うかもしれない。しかしわれわれとしては、かなり安定するまでインキュベーション段階を卒業させることはない。少なくとも(インキュベーションに)1年は掛ける。

―― だが、対象範囲を広げることは、OpenStackの上に付加価値を加えようとしているパートナーや参加者と、最終的には競合していくことを意味するのではないか。それでいいのか。

ブライス ITの世界では、時間とともに価値は上のレイヤに移行していく。ハードウェアからOS、管理システム、アプリケーション(SaaS)へと移行する。OpenStackに新プロジェクトが加わるまでのゆっくりとしたプロセスにおいて、他と競合するように見えたとしても、このプロジェクトが正式にOpenStackの一部となるころには、人々はその機能の標準的なバージョンを手に入れられることを喜ぶようになっているはずだ。

 実例で説明したい。最新リリースではCeilometerが加わった。これはモニタリングとメータリングを行うものだ。Ceilometerプロジェクトは2年前に始まった。最初に人々が取り組み始めた時、『OpenStackはモニタリングやビリングをやるべきでない、こうした機能を提供する企業と競合する』と言われた。しかし、インキュベーション・プロセスを経て、コミュニティが一緒になって作り始めたころには、(反対していた人も、)モニタリングやビリングの製品を提供してきた企業にとって、あらゆるOpenStackのプロジェクトから利用メトリックスをAPI経由で取得できる標準的な方法があったほうが便利だと気づいた。

 プロジェクトはそれぞれAPIを持っているため、OpenStack(の一部として提供される)ソフトウェアが唯一のソリューションとはならない。もう1つの例はOpenStackへのユーザーインターフェイスを提供するOpenStack Dashboard(Horizon)だ。インターフェイスを自社で構築する他の企業もある。そこで市場において競合が発生する。しかし、画面設計や速さ、その他の機能によって、人々はどれがいいかを選ぶことができる。ある機能がOpenStackに含まれたとしても、APIを提供しているため競合は可能だ。

コリアー 私は、こうしたベンダにとって最大の脅威は、Amazon Web Services(AWS)の継続的な成長だと考える。数多くのITベンダがAWSの競合プレッシャーに対抗するため、OpenStackと力を合わせ、これに貢献することで、OpenStackの成長を加速している。

―― すると、あなたたちはAWSに打ち勝ち、それ以上になるためには何でもやるということか。

コリアー われわれはOpenStackを成功に導き、できるだけ多くのユーザーにとって役に立つことに専念している。

ブライス ユーザーが成功するためなら何でもやるということだ。

「PaaSのエコシステムと競合するのでなく、連携すべき」

 これについて、OpenStack Foundationの理事の1人であるジョシュア・マッケンティ(Joshua McKenty)氏に聞いたところ、同氏はOpenStackがIaaSレベルに留まるべきと考えていると答えた。同氏はOpenStackの基となったNASAのNebula Computing Platformのテクニカル・アーキテクトであり、Piston Cloud Computingの共同創立者でCTOを務めている。下記がマッケンティ氏のコメントだ。

 私はSolumがいい考えではないと、できるだけ多くの人々に伝えようとしている。私は相互運用性委員会の共同議長になったばかりだ。この委員会はコア・プロジェクトの定義に責任を持っている。私はSolumがOpenStackのコアとして考慮されるようになるかどうかは疑わしいと思っている。OpenStackにとって非常に悪いことだし、だれにとってもいいことではない。

 私はOpenStackのエコシステムがPaaSのエコシステムと競合するのではなく、連携することが重要だと考える。OpenShift、Cloud Foundry、Docker、Stackatoなどはすべて素晴らしい選択肢であり、これらの選択肢を維持することは非常に重要だと思う。

 同じように、ServiceMesh、DynamicOps、RightScale、SCALRなどは、すべて異なるマーケットで役立っている。従って、OpenStackはCMPを持つべきではない。だからこそHorizonは、ずっと「ダメな」ソフトウェアであり続けてきた。他のサービスのAPIを表に出すだけで、オーケストレーションやワークフロー、ポリシーの機能をまったく備えていない。理由は、それをしてしまうと、素晴らしいパートナーたちと競合してしまうからだ。いま名を挙げた企業は皆、OpenStack APIをサポートしてくれているが、われわれが競合するなら、それをやめてしまうだろう。私は他のエコシステムで、プラットフォームがその上のパートナーと競合し始めた結果、プラットフォーム全体が崩壊してしまった例を知っている。同じことがOpenStackに起こってほしくない。

 私は、Savannaもコアに持ち込むべきではないと思う。「Hadoopだけ」というよりも、APIレイヤに徹したほうがいい。グラフデータベースや“New”SQLデータベースを同等に扱えるべきだ。

 従って、理事会および相互運用性委員会における私の目標は、OpenStackの周りに壁を作り上げることだ。「これがOpenStackの今後に向けた姿であり、他のものはやらない」と決めることだ。(OpenStack Foundationにおいて)これに関するコンセンサスはまだ存在しないからだ。だが、私は最終決定権を持たない。影響力があるというだけだ。どこまで達成できるかは、やってみないと分からない。

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