「デバイス&サービス時代にクラウド向けのアプリをクラウドベースで開発する」ことを指向して、マイクロソフトはVSおよびVS Onlineを提供しているのだが、それ以外にも彼らが提供しているツールはある。
例えば、VS(Pro以上)に統合されてはいるものの*3、Visual Studio LightSwitch(以下、LightSwitch)は、データ指向の業務アプリを簡単に開発するためのテクノロジだ。
*3 以前はVisual Studio LightSwitch 2011という単体パッケージも提供されていたのだが、現在では単体のパッケージとして提供はされていないようだ。
LightSwitchではGUIを使ってデータモデルの定義、アプリのUIの追加などを行っていくだけで、非常に簡単にSilverlightベースのデスクトップアプリあるいはHTML5ベースのWebアプリを構築できる。入力データの検証を行うコードなどは記述する必要があるが、コーディング量も比較的少量で済むことから、開発者ではない層にもアピールできるはずなのだが、VSに組み込まれてしまっているのが逆に足かせとなっている感は否めない。また、2021年12月にはSilverlight 5のサポートが終了することがアナウンスされていることから、長期にわたって利用できるアプリを作りたい人にはマイナスのイメージを持たれる可能性もある。とはいえ、現状ではサポート終了までは7年以上あるので、それで十分という場合にはSilverlightベースのアプリを、気になるのならWebベースのアプリを作成するのがよいだろう。
なお、LightSwitchについては古い記事になるが、「Windows Insider用語解説:Visual Studio LightSwitch 2011」や「連載「LightSwitchで情シスを効率アップ」」などを参考にしていただきたい。
もう1つ、2012年の年末にリリースされたコードネームProject Siena(以下、Siena)は、PowerPointやExcelなどを使いこなすスキルを持ったビジネスユーザーがExcelファイルやWindows Azure Mobileサービス、REST形式のWebサービスなどをデータソースとして、それらを取得/操作しながら、ちょっとしたWindowsストアアプリを作成するのに活用できる。
Sienaの大きな特徴は、これがWindowsストアアプリとして提供される点にある。つまり、SurfaceなどのWindows RTデバイスで簡単にアプリを作成できるのだ。VS OnlineではWindows以外のOSに対してもマイクロソフトのテクノロジへの門戸を(ある程度)解放したのに対して、SienaではWindows RTに対してもアプリ作成の道筋を広げたといえる。また、SienaではVSが必要ないことから、上で見たLightSwitchよりも非開発者層にとっては取っつきやすいものとなっている。
SienaはExcelファイルやWeb/オンプレミスで提供されるデータソースを取得して、それらのデータをブラウズしたり操作したりすることで、ビジネス上の価値を発見することに主眼が置かれている。が、その一方で、メディア関連の機能も現時点(ベータ版)である程度整備されている。また、画面上で何らかの操作を行うことで別の画面に遷移を行うようなアプリも作成可能だ(つまり、紙芝居やハイパーカード的なアプリを作成できる)。マイクロソフトが意図しているかどうかはともかくとして、これらの機能を活用して、ちょっとしたエンタテイメントアプリを作成できるだろう。マイクロソフトがこれから先どのような形で広めていくかは分からないが、Sienaによってサンデープログラマー層がプログラミングの楽しみを享受できる環境が広がっていく可能性もあるだろう。
ここでは触れないが、Microsoft WebMatrixもある。これはお手軽にWebアプリを構築可能なツールだ。Windows Azure Webサイトの開発にも使用でき、ASP.NET以外にもさまざまな言語やフレームワークを用いてWeb開発が行える。
ここで見たツール類により、ネイティブアプリ(LightSwitch/Siena)かWebアプリ(LightSwitch/WebMatrix)かなどの差はあるにしても、インターネットアウェアなモダンアプリ開発の裾野が広がることが期待される。
本連載では、.NET Framework 4.5/4.5.1の概要、モダンなアプリ、VSとVS Onlineを初めとするモダンなアプリを開発するためのツールを紹介してきた。
VS 2013のバーチャルローンチイベントやMicrosoft Conferenceなどを通して、マイクロソフトは「クラウド向けのアプリをクラウドベースで開発する時代の到来」をアナウンスした。これはアプリやサービスがマルチプラットフォーム化することだけを意味するのではない。それらを開発するためのプラットフォームもまたマルチ化するということだ。
デバイス&サービス戦略は「マイクロソフトだけが選択肢ではない」ことをマイクロソフト自身が明言し、その中で彼らがどう生き抜いていくかを熟慮した中で生まれたものだ。こうした時代に自社のテクノロジをどうすれば多くの開発者に使ってもらえるのか。
マイクロソフトは長年にわたって開発者を重要視してきた会社であり、彼らが提供する開発ツールの完成度は高い。そして、VSやVS Onlineが提供する高機能性や高効率性が本格的なアプリ開発を行う人に、LightSwitchやProject Siena、WebMatrixが提供する簡便さがアプリ開発をさほど得意としていない層にうまくアピールできれば、マイクロソフトは難局を乗り越えられるだろう(うまくいかなければ、手を変え品を変え、うまくいくまで続けるのがマイクロソフトの一番の特徴なのではあるが)。
そして、他プラットフォームと切磋琢磨する中で、高質なユーザーエクスペリエンスをもたらす新たなテクノロジが登場することがユーザーにとっては最大のメリットとなる。
学生時代にIT系出版社で編集バイトを始める。バイト時代にはその会社でお家騒動が持ち上がり、その出版社への入社直前にはお家騒動の果てに会社が分裂するなど、バブルな時代の出版社の浮き沈みを目の当たりにしながら、一貫してIT書籍の編集に関わり続ける。その後、会社を辞すも、結局はIT書籍の編集を生業として、今に至る。
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