米MozillaがHTMLでコンテンツを保護するためのW3C標準仕様「Encrypted Media Extensions」(EME)を、Firefoxに実装することを表明した。これまでMozillaはEMEに否定的な立場を取っていた。
米Mozillaは2014年5月14日、HTML5でDRM(Digital Rights Management:デジタル著作権管理)付きコンテンツを再生するためのW3C(World Wide Web Consortium)標準仕様「Encrypted Media Extensions」(EME)を、「Firefox」に実装すると表明した。これまでMozillaは同仕様に対して否定的な立場を取ってきたが、業界の動向に押される形で判断を迫られた。
この発表を行ったブログの冒頭でMozillaは、「ほとんどの競合ブラウザやコンテンツ業界がW3C EME仕様を取り入れる中、ユーザーが引き続き全てのコンテンツにアクセスできるようにするためには、MozillaもEMEを実装する以外の選択肢はほとんどなくなった」と説明している。
DRMを巡ってMozillaでは、特定の端末で購入したコンテンツが別の端末では利用できないケースがあることなどを挙げ、「ユーザーにとっての負担が過度に重く、合法的、合理的な利用が制限されている」との立場を崩していない。
Webでの制限付きコンテンツの再生には長年、DRMが組み込まれたAdobe FlashやMicrosoft Silverlightといったプラグインが使われてきた。これに対してグーグルやマイクロソフトは2013年、Netflixなどのコンテンツプロバイダーと組んで、WebのためのDRM拡張であるEME仕様をW3Cに提案。これは、HTML5のvideo要素とコンテンツ暗号解除モジュール(CDM)を使って、Webスタックに直接DRM機能を実装する仕様となっている。
だが、Mozillaはこの仕様について、CDMにアクセスするためのJavaScript APIを記述したものにすぎず、CDM自体はプロプライエタリで詳しい仕様も公開されないと批判していた。
しかし、そうした意向に反してW3C EME仕様が策定され、コンテンツプロバイダーもプラグインからW3C EME仕様への切り替えを進める中、「MozillaがW3C EME仕様を実装しなければ、FirefoxのユーザーはDRM付きのコンテンツを見るために、他のブラウザへ移行せざるを得なくなる」と判断。やむを得ず、まずはデスクトップ版のFirefoxにW3C EMEを実装することにしたという。 Mozillaによれば、W3C EME仕様実装のために必要なCDMは、主要コンテンツプロバイダーと契約しているAdobeから提供を受ける。ただし、Firefoxではこのモジュールは直接ロードされず、オープンソースのサンドボックスに格納する(下図参照)。
この方式ではCDMがユーザーのHDDやネットワークにアクセスすることはできず、通信の仕組みのみをサンドボックスからCDMに提供する。従来のDRMシステムではユーザーの端末を特定する情報を収集していたのに対し、Firefoxのサンドボックスではそうした情報をCDMに収集させず、ユーザーや端末に関する余分な情報を開示させることなくコンテンツを1台の端末に制限できる仕組みになっているという。
「当面の間はW3C EMEベースのDRMが定着するかもしれないが、いずれはウォーターマーキングのようなもっと優れたシステムが普及すると信じる」とMozillaは締めくくっている。
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