第170回 日本の半導体業界再編はまだ続く?頭脳放談

富士通が半導体生産から撤退、パナソニックがIntelに製造を委託、と日本の半導体製造が最終局面を迎えているようだ。半導体産業が「産業の米」といわれた時代はいつのことなのか……。

» 2014年07月31日 05時00分 公開
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 長く続いた日本半導体業界の再編だが、このところあまり大きなニュースはない。ニュースがないのは良い知らせかというと、実はそうでもないようだ。何万人とか何千人が影響を受けるといった大規模な再編劇は、大きく取り上げられてニュースにもなるが、すでに大規模なものをやる余地がほとんどなくなってしまっているようにも見える。実体は数百人規模が影響を受ける程度の、規模の小さなものに移ってきているのではないかと思えるのだ。大きなものに慣れてしまうと、規模が十分の一くらいでは不感症になってしまう。そのせいで大きく取り上げられないだけであるようだ。

 そんな中、最近ニュースになっていたのが、富士通が半導体生産からついに撤退という話である。システムLSIなどで主力工場の三重工場は台湾の聯華電子(United Microelectronics Corporation:UMC)へ、比較的古い会津若松工場はON Semiconductor(オン・セミコンダクター)へ売却されるだろうということだ。ご存じとは思うが、UMCは半導体の製造を請け負うファウンダリ大手であり、オン・セミコンダクターはデスクリート半導体のような比較的ローテクだがなくてはならない類の比較的小規模なデバイスを作っている米国メーカーである。だいぶ前になるが、オン・セミコンダクターは、三洋電機の子会社である三洋半導体も買っている。

 なお、富士通の半導体事業のうち、マイコン部隊はとっくに切り離されてすでにSpansion(スパンシオン)に統合されている。ちょっと個人的な感傷を書かせていただければ、大昔に在職していた会社は、当時では最先端だった富士通の三重工場や会津若松工場で製品を作ってもらっていた。その縁で会津工場には見学に行かせてもらったこともある。いまさらといえ、業界の栄枯盛衰を思わずにはいられない。富士通から買った会社への移行自体は、工場を売っても当面は元のまま富士通製品を作って納入を続け、徐々に工場を買った先の製品比率を増加させていくという方式だろうから、取りあえず急な変化はなく、雇用も維持されるのであろう。しかし、これで富士通もファブレスということになる。半導体工場の重い投資リスクから解放されて、アナリスト的にはプラス評価なんだろうか。

 一方、その少し前のニュースでは、Intelがその先端の14nmプロセスで「将来のパナソニックのSoC製品」の製造を請け負うという話も出ていた(Intelのニュースリリース「インテル コーポレーション、将来のパナソニックのSoC製品を低消費電力版(LP)14nm プロセス技術で製造」)。こちらは先端プロセスが使えることになって良かったね、という感じがする一応の「前向きさ」が感じられる発表であるが、どうなのだろう? Intelは数年前まで、自社で作ったAtomベースのSoCでパソコン以外の家電分野なども制覇するみたいな方向性を打ち出していたのが、結局のところなかなか思ったようにはいかなかった。うがった見方をすれば、そこで製品力でなく製造能力をもっと生かそうという方向に方針転換しているようにも見える。

 先端プロセスの製造能力という点で、Intelのアドバンテージは大きい。それをてこにARMにやられている分野に食い込むのは正解かもしれないが、昨今のSoCはどこの会社もARMベースが多い。結局、IntelのファブでもARMが作られることになるんだろうか? すでにARM製品をラインアップに加えたAMDに対して、Intelは自社ブランドにARM製品はないが、工場ではARMを大量に作るという隠れARM路線だろうか。あるいは製造請負から各社に入り込んだ後に、IntelコアのSoC向け提供という、前から個人的かつ勝手に主張している線にでもつながると面白いのだが。

 パナソニックはパナソニックで、昔は自社ファブで、自社の完成品向けだけではなく外販向けのシステムLSIも製造していたが、2014年度の期初から富山県の魚津を中心に3箇所ある自社ファブを外資のTowerJazz(タワージャズ)との合弁会社に移してしまっている。外資51%でパナソニック側は主導権を手放してしまったと聞いている。つまりパナソニックもまた、すでにファブレス化を進めていたわけだ。ちなみにTowerJazzは米国に本社と言っているが、イスラエル系のファウンダリ会社だ。普通のファウンダリとは一味違う、ちょっと特殊なプロセスで毛色の違う製品を作っているようだ。それにしても一時期はかなり力を入れていたパナソニックの自社SoCのUniPhierは、最近とんと話題を聞かない。力が抜けている感じだ。14nmプロセスでいったい何を作ろうというのか、ファブの話だけからはうかがいしれない。

 とっくの昔にお気付きかもしれないが、富士通とパナソニックはだいぶ前にシステムLSI部門の統合をする、という発表をしていた間柄だ。その後、目立った発表はないが水面下で着々と進んでいる、といったことが漏れ伝わってくる。システムLSI統合で合意している両社とも、そのシステムLSIを製造していた自社ファブをほぼ似た時期に外資に売却する決断をしたことになる。とすると、ファブレスで身軽にした上で両者を統合し、その後はIntelの先端14nmプロセスを使うという話になっているのだろうか? それとも統合とは無関係にパナソニックはIntelの14nmプロセスの件を決めたのだろうか。ニュースリリース自体は淡々とパナソニックとIntelの2社の関係を述べているだけで、その後のことは何も言っていない。だが、統合するんだかしないのだか、その後どうするんだか、を考えずに手を打ったりすることはあり得ないだろう。

 ここまでで、富士通の2工場、パナソニックの3工場の合計5工場が外資に「売られて」いるわけだが、取りあえず、どの工場も元の会社の製造ひも付きであり、当面は以前と同じものを作り続け、人員整理などは避けられるようだ。まずはめでたいと言いたいところだが、しかし、その陰でひっそりと閉鎖されていた工場があったことに気が付いた。兵庫県にある、タワージャズジャパンの西脇工場である(ちなみに黒田官兵衛の地元だそうだ)。ここは、製鉄各社が半導体製造に乗り出した日本半導体の最盛期に、神戸製鋼がTI(Texas Instruments)と組んで設立した会社が起源となっており、その後、Micron Technologyに売られ、それをさらにTowerJazzが買ったという、少々複雑な経緯の事業所のようだ。

 TowerJazzとしては、製造キャパが十分にあって比較的新しいパナソニックの工場を買収することになったので、古い西脇工場を閉じることにしたのだろう。もともと一緒の会社であれば、西脇工場を閉じるのならそこの人を富山県の工場へ集約という可能性もあるのだろうが、そうはいかなかったようだ。西脇工場の人々は職を失ってしまったらしい(兵庫県中小企業団体中央会のお知らせ「タワージャズジャパン(株)の解散・西脇工場閉鎖に伴う離職者の再雇用確保にかかる緊急要請について」)。転職支援をするという話が書かれているから、会社側から転職支援の会社にそれなりの金額が払われているのだろう。どうも、このごろ半導体関連でもうけているのは、転職支援の会社ばかりにも思える。

筆者紹介

Massa POP Izumida

日本では数少ないx86プロセッサーのアーキテクト。某米国半導体メーカーで8bitと16bitの、日本のベンチャー企業でx86互換プロセッサーの設計に従事する。その後、出版社の半導体事業部などを経て、現在は某半導体メーカーでヘテロジニアス マルチコアプロセッサーを中心とした開発を行っている。


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