米ヴイエムウェアはOpenStackディストリビューションを提供する。同社は8月25日(米国時間)、サンフランシスコで開催中のVMworld 2014で、ベータ版の提供開始を発表した。2015年前半には正式提供を開始するという。このOpenStackディストリビューションは、他社のものとは大きく異なる。
米ヴイエムウェアは8月25日(米国時間)、サンフランシスコで開催中のVMworld 2014で、「VMware Integrated OpenStack」と同社が呼ぶOpenStackディストリビューションのベータ版を提供開始したと発表した。2015年前半には正式提供を開始するという。これは、ヴイエムウェアがOpenStackに白旗を上げたとか、突然OpenStackを受け入れざるを得なくなったという話ではない。ヴイエムウェアの狙いは何かを解説する。
ヴイエムウェアのCEO、パット・ゲルシンガー(Pat Gelsinger)氏は、VMworld 2014の基調講演で次のように語っている。
「(企業において)第3のプラットフォームの時代のアプリケーションを稼働するために、新しいハードウェアのサイロが必要だと言う人がいる。新しいサイロなどとんでもない。これはそもそも仮想化が解決しようとした問題だ。(中略)完全なVMwareソリューションにOpenStackのインターフェイスを加えることで、VMwareインフラの上で直接、OpenStackを立ち上げることができる。ITインフラ担当の人たちは、何も変えることなく、OpenStackを使いたい開発者の人たちと親友になれる」。
「VMware Integrated OpenStack」とは、VMware ESXiなどのハイパーバイザをオープンソースのOpenStackコンポーネントで直接動かすという意味での、一般的なOpenStackディストリビューションではない。VMware vSphereにOpenStack APIをかぶせたものと表現できる。
正確に説明すれば次のようになる。VMware Integrated Stackには、OpenStackのNova、Cinder、Neutron、Glanceといったコンポーネントが含まれるが、これらに対し、vCenter、vDistributed Switch/VMware NSX、VMware VSAN(あるいは他社のストレージ)などのVMware vSphere製品群がAPIで連携する。このため、このプラットフォームの利用、制御、管理には、OpenStackのHorizonやコマンドライン、その他OpenStack APIに対応した各種のツールが利用可能だ。ヴイエムウェア自身も、vCenter Web ClientからOpenStackを管理できるプラグインを提供するほか、VMware vCloud Automation Centerなどの管理製品群との連携を進めていく。
ヴイエムウェアは、上記のような構成によって、アプリケーション開発者などのエンドユーザーは、OpenStack環境の利用に徹することができ、迅速で柔軟なITインフラのメリットを享受できるという。一方、ユーザー組織のITインフラ運用担当者は、自らが信頼を置いているVMware vSphereの安定性やセキュリティをそのまま活用し、既存の運用管理体制を大幅に変えることなく、既存の社内ITインフラとの統合管理によって運用負荷を抑えながら、開発者をはじめとするエンドユーザーの新たなITニーズに応えられるとしている。なお、VMware Integrated OpenStackは仮想アプライアンスとして提供され、既存のvSphere環境に容易に追加導入できるという。
これは、「vSphere対OpenStack」の図式、つまり「vSphere はそのうちOpenStackに取って代わられるのではないか」という一部ユーザーの懸念を解消することを狙ったものといえる。OpenStackの勢いを活用し、逆に特色のあるOpenStackディストリビューションとして、新たなITインフラニーズに積極的に応えられることを示したものと解釈できる。
さらにいえば、ヴイエムウェアはもはや「古い」ITベンダで、OpenStackのような新勢力のエネルギーが生み出すイノベーションのペースについてこられないのではないかというイメージの払しょくも狙っているはずだ。
VMware Integrated OpenStackには、上記に加えて次のようなメリットもあると、ヴイエムウェアは訴えている。
ゲルシンガー氏に、「VMware Integrated OpenStackがvSphereを含む製品であるのなら、ユーザー組織にとってのコストは高くなるのではないか、そうしたものをユーザー組織はなぜ導入したいと思うだろうか」と聞いた。同氏の答えは次のとおりだ。
「この製品の顧客にとっての基本的な価値は、すでに持っている仮想化インフラをフル活用して、OpenStackをこれに追加できるということだ。コストを引き上げ、異種環境を作り出すことで運用負荷を高めるような、別環境に対処する必要はなくなる」。
同氏はまた、VMware Integrated OpenStackのパッケージングやライセンス価格体系については正式提供時に明らかにするという前提のうえで、例えばヴイエムウェアとELA(Enterprise Licensing Agreement:包括導入ライセンス契約)を結んでいれば、vSphere分の追加コストは掛からないと話した。
OpenStackを推進する人々の一部は、OpenStackとはアプリケーションとITインフラの新しい関係を作り出すプラットフォームだと考えている。そこで、「VMware Integrated OpenStackは、『OpenStackとはITインフラの新しいアーキテクチャだ』と考える人々のための製品ではないということなのか」と聞いてみた。
ゲルシンガー氏は、OpenStackとはフレームワークであり、その本質はインターフェイスだと答えた。そしてヴイエムウェアはこのインターフェイスを通じて、自社のコンポーネントの優れた機能を提供できると答えた。
ゲルシンガー氏は、OpenStackについての考えを突然変えたわけではない。実は、2014年5月のEMC Worldで筆者がOpenStackについて質問した際も、同様な答えをしていた。
筆者はEMC、ヴイエムウェア、PivotalのCEOに対するQ&Aセッションで、「OpenStackはエンタープライズITの世界において無視できない存在になってきている。3社はそれぞれの製品をOpenStackに対応させてきたが、これまで以上に何かをする必要があるのではないか」と聞いた。その際の答えはこうだった。
「オープンなフレームワークとしてのOpenStackと、そのオープンなAPIを、ヴイエムウェアは完全に受け入れており、vSphere、vCloud Automation Center、Neutron連携など、各種コンポーネントのOpenStack対応を進めている。ヴイエムウェアはこれからも、OpenStackのインターフェイスに対して継続的に貢献し、サポートを強化していく」。
今回のOpenStackディストリビューション発表で、少なくともヴイエムウェアのOpenStack対応が防御的、あるいは受動的だと批判することは難しくなった。逆にVMware Integrated OpenStackの製品パッケージングや価格によっては、一般企業にとっての有力なOpenStackディストリビューションの1つになる可能性も出てきた。
[2014/08/27追記] なお、Canonical、HP、Mirantis、SUSEのOpenStackディストリビューションはVMware vSphereをサポートする。VMware Intergated OpenStackを使わなくとも、これらのOpenStackディストリビューションからvCenter経由でvSphereを管理できる。ヴイエムウェアは互換性を検証するなど、これらの企業との協業を拡大していくとも発表している。
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