シスコシステムズが10月2日に実施した2015年度の事業戦略発表で。シスコ日本法人 代表執行役員社長の平井康文氏は、事業活動について例年にもまして具体的に説明した。
シスコシステムズは10月2日、同社にとっての2015年度に関する事業戦略を発表。シスコ日本法人 代表執行役員社長の平井康文氏は、昨年の「Excite Nippon」に代わって「Advance Japan」という大きなスローガンを掲げた。一方で、顧客、パートナーを対象とした事業活動については、数々の具体的な取り組みを説明した。
最も目立つのは、サブスクリプション(月額固定あるいは従量課金)形式での製品提供、そして顧客にとっての何らかの成果を指標とする取り組みだ。
データセンター製品では、「サービスとしての製品機能提供」というビジネスモデルの確立に向けた取り組みを進めているという。
具体例として、シスコのサーバ「Unified Computing System(UCS)」およびデータセンタースイッチ「Nexusシリーズ」では、顧客のデータセンター拠点に製品を設置するものの、シスコの資産としてこれらを運用、このサービスの利用料金を顧客に請求するという形態でのビジネスを始めたという。シスコはこれを「Data Center as a Service(DCaaS)」と呼んでいる。野村ホールディングスが採用を決定したという。
シスコは「コラボレーション」「データセンター」「セキュリティ」「エンタープライズネットワーキング」の4分野で、合計20種以上のソフトウェア製品を提供している。これらを分野別にバンドルした統合ソフトウェアライセンスを提供、定額無制限あるいは従量課金で提供する。顧客にとってはコスト変動リスクが低減し、ライセンス管理も容易になるとする。同社は、これらのソフトウェアバンドルを売るだけでなく、利用を促進するサービスを提供する。これにより、顧客が同社製品の機能を最大限に活用し、業務を改善できるようにしていくという。
シスコは10月1日、佐賀県が同社のコラボレーションソリューションを導入したと発表したが、佐賀県は上記のコラボレーション関連ソフトウェアを統合ライセンスで調達したという。
さらにシスコは、「CCS(Cisco Consulting Services)」という新たなコンサルティングサービスを拡充していく。これは、「ITをいかにビジネス成長の原動力としていくか」に焦点を当てたものという。より具体的には、「クラウドが他ビジネスモデル策定」「コラボレーション型ワークスタイル変革」「グローバル事業継続モデル策定支援」「IoE価値創出支援」などがメニュー化されている。
平井氏は、通信事業者を含む、世界のサービスプロバイダ大手100社に特化した、「グローバルサービスプロバイダー」新事業体制についても説明した。これは、グローバル化、事業環境の急激な変化、技術の急速な進化の渦中にあるサービスプロバイダに対し、営業、ソリューション開発、サービス提供の関連部署が一体となり、世界中で一元化した対応をしていくというもの。顧客ニーズをきめ細かく、迅速に、製品開発へ生かすことが目的の1つという。この活動には当然ながら、キャリアNFVや、後述のInternet of Everything、Intercloudも絡んでくる。
データセンターネットワーキングでは、同社がSDNを超えた取り組みとして進める「Application Centric Infrastructure(ACI)」が、サイバーエージェントをはじめ、国内企業における検証・導入が進んでいると平井氏は話した。ACIでは、多数のITベンダーと提携していることを強調する。
シスコのいう「Internet of Everything(IoE)」は、一般的な意味でのInternet of Things(IoT)の後に来るものだという。まず、産業系のネットワーク/セキュリティ製品が広がり、それがやがてはスマートファクトリーなどのソリューションになる。これを目指した動きとして、シスコはsmart-FOAという企業に出資・協業していることを明らかにした。smart-FOAは工場内の各種センサーデータと、その他の情報を組み合わせることで、ものつくりにおけるリアルタイムな問題解決および意思決定を実現するソリューションを提供しているという。2社は共同開発、共同販売を進めていく。
「IoEは事業変革を目指すという点がIoEと異なる」と、専務執行役員でIoTインキュベーションラボ担当の木下剛氏は改めて強調する。つまり、General Electric(GE)が目指しているような、モノからのデータなどを生かした新ビジネスモデルの創出が、IoEの目的だとする。シスコはこの分野で下位レイヤを牛耳れるとは考えていないと木下氏はいう。GE、インテル、AT&T、IBMと設立したIndustrial Internet Consortiumは、幅広い産業に共通なデータ構造の定義という形で、IoEと同じ方向を目指した活動を具体的に推進しているという。
シスコが進めるクラウドネットワーク構想「Intercloud」では、NTTデータ、CTCがパートナーとして参加したことを明らかにした(NTTグループではDimension Dataが当初よりパートナーとなっている)。NTTデータは同社のクラウドブローカー構想に沿った形で、Intercloudを活用すべく、検討を進めているという。CTCは、シスコ製品を採用したクラウドサービスをすでに運用していることから、まずはプライベートクラウドと同社クラウドとの柔軟な接続のために、シスコのソフトウェア製品「Intercloud Fabric」を検証するという。
Intercloudについては別記事で紹介するが、これはシスコ自身がIaaSやSaaSを提供する一方、他のクラウドサービスと連携し、ユーザー組織がプライベートクラウドと統合的に、これらのクラウドサービスから取捨選択して使えるようにするアライアンスだ。
米シスコは、ネットワークを遠隔管理するMeraki、OpenStackをサービスとして提供するMetacloudを買収している。これらのサービスは、Intercloudのパートナーが自ら利用、あるいは再販することが考えられる。
シスコ日本法人は、米シスコと同様、顧客がビジネスを伸ばすための支援をしていくと、たびたび表明してきた。だが、今回の事業説明会では、これまでよりも具体的な取り組みが明らかにされた。上記の動きのなかには、モノ売りからサービスへの移行ととらえられがちなものも含まれているが、シスコのメッセージはちょっと違う。エンタープライズにしても、サービスプロバイダにしても、顧客が儲けるのを助けるための技術、仕組み、ノウハウを総合的に提供していく。そこにシスコの存在価値と究極の差別化があるというのが、同社の主張だ。
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