「営業は知識が足りない」「技術に理解がない」――それでも営業マンがビジネスに欠かせないのならば、彼らとうまくつきあう方法を考えようではないか。
エンジニアである読者は、社内の営業担当者に対してどのような感情を抱いておられるだろうか。想像するに、彼らの人間性に好意を持ち、全幅の信頼を寄せているケースは少ないに違いない。
何といっても営業マンは、エンジニアにとって譲れない価値基準の一つである「技術」に関する理解と知識を持っていない。営業マンは「大事なことを理解していない愚かで可哀想な生き物だ」ぐらいに思っているケースが少なくないはずだ。技術を持っている者が、持たざる者に対して優越感を持つのは仕方のないことだ。
「せっかく素晴らしい技術を投入した製品やサービスがあるのに、営業がしっかり売ってこないから業績が上がらない」と思うこともあれば、顧客の言い分をそのままエンジニアにぶつけて時間を使わせる営業マンを「仕事の邪魔をするトラブル持ち込み屋」のように思うこともあるだろう。
筆者はエンジニアではないが、証券市場を分析するアナリスト的な仕事の経験が長く、立場はエンジニアに似ていた。証券会社や運用会社に勤めていたころ、自社の営業マンの知識や理解に対して不満を感じたことは、正直にいうとおそらく一千回くらいある。
IT系の仕事でも事情は似たようなものなのだろう。ペイパルの共同創業者で、ベンチャー企業の経営と投資に詳しいピーター・ティール氏は、近著「ゼロ・トゥ・ワン」(NHK出版刊 今年のビジネス書の中では断然のナンバーワンだ。一読をお勧めする)の中で「営業(という行為)は誰もが行っていることなのに、ほとんどの人はその大切さが十分に分かっていない。シリコンバレーはその最たる場所だ」と述べている。
ティール氏は営業の役割を高く買っており「どんな仕事でも、営業能力がスーパースターと落ちこぼれをはっきりと分ける」と述べている。エンジニアも営業に興味を持つべきだし、営業マンとどのような関係を結ぶべきかを考えるべきだ。
逆の立場を想像してみよう。営業マンは、エンジニアを大変クールに評価しているものだ。彼らは、専門家・技術者(エンジニア)をビジネス上の価値で格付けする。
大まかには、「Aクラス=社外に対して競争力のある技術・知識の持ち主」「Bクラス=社内では不可欠な技術者」「Cクラス=持っている技術がすでに陳腐化していて、いなくてもいい人」の三段階に分類していて、加えて、その技術者がどの程度取り換え可能かを見ている。
営業マンにとっても会社にとっても最も価値が高いエンジニアは、他社にない技術を持っている人物だ。明白な技術の「差」は、自社のプロダクトに独占的な地位を与え、他社からの競争を封じて利益を守る基礎になる。こうした技術を持つエンジニアは貴重であり「Aクラス人材」だ。Aクラスの技術者は、会社のビジネスを支える宝のような存在だ。
付け加えると、「技術者単独で技術を持っていて、その技術を持ち運べる場合(A+)」と、「技術がチームに依存していたり、会社の所有になっていたりして、その技術者が単独で技術を持ち運べない場合(A-)」では、人材価値に差が生じる。前者は勤める会社を簡単に変えられるが、後者が勤務先を変えることはいくらか難しい。この差の分だけ、会社に対する交渉力が違うのだ。
多くのエンジニアは、「対外的に突出しているほどではないけれども、会社の中で業務に不可欠な技術を持っている」というくらいの価値を持っている。技術者の3分の2くらいは、この「Bクラス」だろう。
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