「私が朝起きる理由は、ネットワークの世界を変えること」ヴイエムウェアネットワークのトップに独占インタビュー

ヴイエムウェアは、同社のネットワーク仮想化製品「VMware NSX」で、狭義のSDNを超える世界を目指している。マーティン・カサド氏を含む同社のネットワーク事業のキーマンへのインタビュー内容の一部をお届けする。

» 2015年03月27日 12時00分 公開
[三木 泉@IT]

 「私が朝起きる理由は、ネットワークの世界を変えることだ」、つまり自分の今の生活の目的は、ネットワークに変革をもたらすことだ、とマーティン・カサド(Martin Casado)氏は筆者とのインタビューで話した。同氏は2014 年8 月、米ヴイエムウェアのネットワーキング&セキュリティ事業部門(NSBU)ゼネラルマネージャーに就任。それまではNicira時代を含めて一貫して技術を統括してきたが、8月以降はネットワーク事業の全責任を負うことになった。

 どうネットワークの世界を変えるのか。基本的なメッセージは、Nicira時代と全く変わっていない。ネットワーク仮想化、つまり分散トンネリングで、物理的なハードウェアと(基本的には)完全に切り離された、ソフトウェアによるネットワークを構成。ポリシーと自動化を生かした動的な運用を可能にする。さらに、他社製品との連携などを通じて、従来はやりにくかったことを実現する、プラットフォームとして機能させる。

 「従来はやりにくかったことを実現」するための前提として、ヴイエムウェアとって決定的に重要なのは、 VMware NSXがハイパーバイザーの仮想スイッチを起点としたネットワーク構成を実現していることにある。

 これを、シスコシステムズから移籍し、ヴイエムウェアのワールドワイド・システムエンジニアリング担当バイスプレジデントに就任した、ドミニク・デルフィーノ(Dominick Delfino)氏は次のように表現する。

 「ネットワークは、常にエッジに対してサービスを提供することがテーマになる。だが、仮想化の進展によって、ネットワークのエッジはもはやアクセススイッチのポートではなく、仮想マシンの仮想NICや仮想スイッチに移行した。ホストをつかんでいれば、そこからネットワークを見渡すこともできるし、見上げることで、OSやアプリケーションを把握できる。高度なネットワークサービスを提供する上で、ホストは理想的な場所だといえる」

 また、Big Switch Networksの共同創業者で、ヴイエムウェアNSBUのチーフテクノロジーストラテジーオフィサーに就任したグイド・アッペンツェラー(Guido Appenzeller)氏は、「仮想スイッチは、ワークロードから見れば最初のホップであり、同一物理ホスト上の仮想マシン間のトラフィックの制御をはじめとした機能を提供する上で、最も重要なスイッチだ。長期的に考えれば、ネットワーキングは実質的にほとんど消え去ってしまう。Software Defined Data Centerと呼ぶかどうかは別として、サーバー、ストレージ、ネットワークなど全てのインフラリソースを、単一の管理レイヤによって制御するようになる」と話した。

VMware NSXは、vSphereユーザーのための製品ではない

 ヴイエムウェアのネットワーク関連製品は、年間2億ドルのペースで売れているという。現状では、顧客の大部分がVMware vSphereの既存ユーザーだ。だが、カサド氏は、VMware NSXをvSphereユーザーのためのネットワーク製品にするつもりは全くないと強調する。

 「私は、ビジネスリーダーとして、自分の会社の製品を使ってくれている顧客にまずアプローチしている。だが、OpenStackが6、7%程度のマーケットシェアしかないとしても、ぜひVMware NSXを使ってほしいと思っている。

 個人としては、ハイパーバイザー(注:vSphereの意味)を売ることなど考慮していない。ネットワークの世界を変えるには、できるだけ多くのエンドポイントにリーチしなければならない。従って、KVM、Hyper-V、物理サーバー、そしてOpenStack、CloudStackなどから、できるだけサポートしてもらえるように、可能な限り、あらゆることをしていくつもりだ」

左より、ヴイエムウェアのデルフィーノ氏、カサド氏、アッペンツェラー氏

 そのための1つのカギとなるのは、Nicira/ヴイエムウェアが開発に大きく貢献してきたオープンソースの仮想スイッチソフトウェア、Open vSwitchだ。

 「Open vSwitchは、最も広く使われているハイパーバイザースイッチであり、ヴイエムウェアにとって競合となる企業にも広く採用されている。私たちは、これに対し、今後もずっと投資していく。どんなネットワークニーズを持つ、どんな顧客に対しても、ネットワークを運用するためのベストなソフトウェアソリューションを提供していかなければならない」(アッペンツェラー氏)

OpenStackネットワーキングの「政治」にどう対処するか

 カサド氏は、Open vSwitchとOpenStackが、どちらもオープンな標準的インターフェイスを提供するという点で、IT業界にとって不可欠な存在だと話す。だが、OpenStackのネットワーキングは、最近非常に政治的な色彩を帯びてきている。これにどう対応しようとしているのか。カサド氏は次のように答えた。

IT INSIDER No.41 「SDN製品最新事情(2):ヴイエムウェアがSDNという言葉を使わなくなった理由」では、SDNという言葉の定義にとらわれないVMware NSXの進化について、カサド氏、アッペンツェラー氏、デルフィーノ氏へのインタビュー内容をまとめました。お読みいただければ幸いです

 「たしかに、とても政治的な状況になってきている。相反するテーマが持ち出され、競合する人たちが、代理戦争を仕掛けたりしている。VMware NSXと競合するようなプロジェクトもある。だから、私たちがOpenStackで投資する対象は、そのフレームワークに関わる部分だ。

 OpenStackには2つの見方がある。1つは、『OpenStackは、様々な実装がプラグインできるインターフェイス群を構築する取り組み』だというもの。これがOpenStackの当初の考え方であり、私の考え方でもある。もう1つの見方は、『OpenStackは、VMwareに競合するオープンソースの実装をつくる取り組み』だというもの。私はこれには賛同しない。OpenStackがオープンなインターフェイスである限り、顧客はこれと組み合わせて使うコンポーネントを選択できる余地が生まれる。しかし、OpenStackが実装を含めたソリューションになると、顧客は選択肢を失ってしまう。私たちはOpenStackをインターフェイスとして使うことに力を注ぐ。他社と、テクノロジーそのもので競い合いたい」

シスコとの競合をどう考えているのか

 では、シスコとの競合についてはどう考えているのか。「VMware NSXを採用すれば、シスコのNexusのような高機能なスイッチが不要になり、ハードウェア調達コストを引き下げられる」というセールストークをしているのではないのか。

 カサド氏は、これを強く否定する。「私たちのメッセージは、ハードウェアとは完全に切り離して考えてもらうということだ。シスコのことなどは言わないように、とても注意している。また、過去2年あまりの間に10Gbpsイーサネットポートの価格は大幅に下がった。これだけでも、顧客はハードウェアコストの低減効果を享受できている」。

 アッペンツェラー氏は次のように表現する。

 「私たちは、高度に自動化され、スクリプティングされたネットワークの運用を実現するという、十分に大きな闘いをすでにやっている。(企業の)ネットワーク担当チームやネットワーク製品ベンダーに対し、新たな闘いを挑む余裕はない」

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