Amazon Web Servicesでモバイル/IoTを担当するバイスプレジデントのマルコ・アルジェンティ氏に聞くIoT戦略。2回シリーズの後編として、機械学習とデバイスへのフィードバックの自動化について同氏が語った部分をお届けする。
Amazon Web Services(AWS)のIoT(Internet of Things)戦略に関する、モバイル/IoT担当バイスプレジデントのマルコ・アルジェンティ(Marco Argenti)へのインタビューを、2回シリーズでお届けしている。
前回の記事「AWSのIoT責任者に聞く(前編):AWS Lambdaの実現するイベントドリブンなプログラミングが、IoTへの扉を開く」では、AWS LambdaがIoTアプリケーションの要として機能するという点を取り上げた。
今回は後編として、機械学習の適用とデバイスへのフィードバック自動化について、アルジェンティ氏が語った部分をお届けする。
アルジェンティ氏 イベントドリブンプログラミングの次に重要な点は、データの分析だ。さらにこれに基づき、デバイスに対してフィードバックを実行するモデルが大切になる。
私たちは、AWSのサービスプロダクトをインテリジェント化する努力を進めている。例えばMobile SDKは機械学習サービス(「Amazon Machine Learning」)に統合できるようになっている。こうした統合を進める理由は、デバイスが使われているだけで学習できるようにするためだ。
あきんどスシローのような例を考えてみてほしい。
まず彼らは自社のサービスの消費状況を理解することから始めた。そしてAmazon Kinesisを使い、Amazon Redshiftと組み合わせた。
そのうちに、「消費パターンに基づいて、商品の提供の仕方を変えたらどうなるか」とビジネスプロセスを変えることを考えるようになる。そのために、Redshiftに保存されたデータに機械学習アルゴリズムを適用し、毎日、毎時の消費を予測することもできるようになる。
つまり、必要なら、イベントに対して、短時間のうちに自動的にレスポンスを返すことで、オペレーションの最適化を図れる。
Mobile SDKがさらに多くのデバイスをカバーするようになった場合を想定すると、この一連の仕組みがどれくらい重要なのかが分かるはずだ。
Mobile SDKは現在、特にゲーム開発者の間で大変人気がある。このSDKからデータをRedshiftに送ることで、機械学習による自動的なA/Bテストができ、時間とコストを大幅に節約できるからだ。
当社の機械学習サービスについて言えることの一つは、データアナリストが予測モデルを設計するために使えるツールの役割を果たすだけではなく、予測モデルを自動的に選択できるということだ。あなたはデータソースを指定し、どんなアウトプットが欲しいのかを示せばいい。例えば、A、B、C、Dといった複数のバケツに分類したいのか、振る舞いに基づいて、顧客を高リスク、低リスクに分けたいのか。コールセンターにおけるコンプライアンス確保などにも使われている。
Amazon Machine Learningのユニークな点は、Amazon.comのビジネスのために生まれたツールだということにある。
――IoTでメリットをもたらすユースケースを、もっと説明してほしい。
アルジェンティ氏 例えば駅のような公共施設における、トイレのハンドソープの補充サービスを担っている企業を思い浮かべてほしい。普通は人が数時間おきに巡回し、ハンドソープがなくなっていないかをチェックするが、無駄足になることが多い。だが、(Amazon Machine Learningで)予測すればどうだろう。ハンドソープがいつなくなるか、そこには繰り返されるパターンが見いだせる。駅の場合なら、電車の発着頻度に大きく左右されることも分かるはずだ。
そこで「80パーセントの確率でソープがなくなっているので、補充してください」と自動的に指示を出せる。Amazon Machine LearningはAWS Lambdaのためのイベントを生成できるので、例えば人にSNSやスマートフォンのプッシュ通知で通知できる。
――分析では、Mobile Analytics以上にリッチなデータ視覚化ツールが欲しいという声はないのか?
アルジェンティ氏 とても面白い質問だ。Mobile Analyticsではシンプルなデータ視覚化機能を提供しているが、よりリッチな、よりカスタマイズできる視覚化機能を求める声が出てきている。そのため、Amazon S3やRedshiftへワンクリックで自動的にデータをエキスポートできる機能を提供している。
つまり、現在のところは、最も基本的なユースケースを想定したツールを私たちとしては提供している。一方で、マイクロストラテジーやTableauなどのデータディスカバリツールベンダーと提携しており、こうしたところのツールを使う人たちが多い。
――(スマートフォンなどはそのやり方でいいかもしれないが、)非力なセンサーなどを含め、地球上のあらゆるモノにリーチして、互いの情報のやり取りを可能にするような世界は、どうやれば実現できるのか。
アルジェンティ氏 どんなデバイスでもつなげられる。真の壁はない。ただ、余分な作業が必要なだけだ。どんなデバイスでも、プロトコルサポートやコネクターが提供されているからだ。
AWSのモバイル関連サービスのロードマップは、「ユーザーにとって、何が差別化ポイントであり、どんなことに時間を取られて困っているか」を考え続けるところから生まれている。IoTについても全く同じことをやろうとしている。私たちは実際に、IoT関連のデバイスベンダーに対し、「どこで一番時間を取られているか」と尋ねて回っている。こうした活動で得られたフィードバックに基づき、多様なデバイスの統合をどこまで容易にできるかに取り組んでいる。
――だが、非力なデバイスになると、必要な時に良好な通信ができない可能性があるとか、中間地点でデータの一次処理を担う統合ポイントのようなものが必要なのではないかとか、IoT関連ではさまざまな悩みがある。
アルジェンティ氏 私たちはモバイルの世界で、同じような課題に直面し、教訓を得てきた。移動体通信は不安定だし、端末のバッテリにも容量の限界がある。私たちは、Mobile SDKで、例えばオフラインをサポートするなどし、こうした問題の克服に努めてきた。Amazon Cognitoでは、データをローカルにキャッシュしておき、デバイスが再接続した時点でこれを送出するといったことができる。また、Mobile SDKのS3 transfer managerでは、データを小さな単位に分割し、ネットワーク的に効率の高い方法で送信できる。
モバイルの世界とIoTの世界には共通項がたくさんある。バッテリ容量の限界、通信技術から来る問題、盗まれるリスクなどだ。
AWSはこれまで、モバイルについてさまざまな取り組みを進め、上記のような問題を解決してきた。これをIoTに向けて徐々に拡張していくことができる。実際、現時点でも、モバイルデバイスを使ってIoTアプリケーションを動かしている例がたくさん生まれている。
私たちは、こうした現状を踏まえ、新たなユースケースについて学習し続けることで、サービスを拡大していきたい。顧客が、どれだけクリエイティブな形で私たちのサービスを活用し始めているかを目の当たりにすると、驚きを禁じ得ない。
――モバイルとマイクロセンサーの間に、(新たなアプリケーションの)機会が無限に存在するということか。
アルジェンティ氏 そうだ。新たなビジネスモデルが生まれる可能性も無限大だ。
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