@IT内野から「自社のビジネスには、クラウドがもたらすスピードや柔軟性は必要ないと考える企業もあるのではないか」という問いが出ると、「スピードや柔軟性が本当に必要がない場合と、そのニーズにすら気付いていない場合がある」(増月氏)と“気付いていないこと”への懸念が挙がった。
規制の中でビジネスを行っていて競合がいない場合は、スピードや柔軟性を求めなくてもビジネスを回していけるが、そのような業界はほとんどない。また、現在のシステムの使い方や運用を変えたくないというニーズもあるが、使い方や運用を変えなければ、ビジネスの変革や企業の成長を目指せないのが現状だ。
また、「いったん構築したら長期間変える必要はない」ことが一般的な基幹系システムをOpenStackで構築し直した事例も多数あるという。「例えば、あるカナダの銀行が合併した際、各銀行のベンダーロックインされたシステムがサイロ状に並んでしまったため、各システムを見直してOpenStackを基盤に統合しています」(中島氏)
このように、「10〜20年使い続けると思われていた勘定系のシステムでも、経営環境によって変えざるを得ない時代となってきており、企業全体で見たときや経営戦略を考えればスピードや柔軟性のニーズは必ずある」というのが、登壇したパネリストの共通した見解だ。新たなサービスを生み出せるインフラがないと競争力も生まれない。また、柔軟性とスピード、コスト効率を高めるためにはパブリックではなく、自由度の高いプライベートクラウド環境が必要であるという。
中井氏は、同様の例として「以前、CPUがマルチコアになった時に、アプリケーションをマルチコアに対応させるために改修する予算はないという企業も少なからずいた。しかし、現在はほとんどのアプリケーションがマルチコアに対応しており、また、企業もそれを活用している」と、過去のITシステムインフラがたどった歴史を挙げる。「現在は、この例にあるマルチコア対応の流れと同様に、将来に備えるためにも、スピードと柔軟性を考えたシステムを検討する時期にある」(中井氏)
最後に、@ITの内野は「企業間競争やニーズの変化が激しい中にあって、“変えられない”インフラやサービスほど怖いものはない。本当に『ウチには変化もスピードもいらない』のか、変化に柔軟に対応すべき領域もあるのでないか、といった視点で、あらためて自社のビジネス全体を見直してみるべきではないだろうか。そうすると、『変化に強いインフラを構築できるOpenStackが、すでにエンタープライズレベルで安全に運用できる段階に入っている』という事実が、これまでとは違う意味を持って見えてくるのではないだろうか」と述べ、ディスカッションを締めくくった。
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