このように活動を重ねるごとにノウハウを蓄積しているCONBUだが、ある時点で技術的に大きなブレークスルーがあったという。「ルーターやDHCP/DNSサーバといったバックボーン系の機器をクラウドに設置した」(田島氏)というのだ。当初は、それらの機器も現場に持ち込んでいたそうだが、あるイベントで機器が故障していたことがあったという。岡田氏によれば、「現場での物理的な故障は途方に暮れるしかないので、クラウド化に踏み切る決断をした」のだそうだ。
加えて、クラウド化の恩恵により、事前準備も非常に楽になったという。それまでは、メンバーの自宅に集合し徹夜で機器の設定などを行っていたが、今では、各人がチャットで連絡を取り合いながらリモートで設定作業を行っている。これにより以前と比較すると時間的にも余裕が出てきたため、その時間を利用してネットワークの可視化を実現する機能を盛り込むことなども行っているそうだ。例えば下図は、会場の混雑度を可視化したヒートマップだが、これもアクセスポイントの接続数などの情報を基に作成しているのだという。ちなみにこのデータは「CONBU API」として公開されている。
一方、Wi-Fiネットワークの提供という部分で無視できないのが、セキュリティの問題だ。アクセスポイントが不正アクセスの踏み台にされるようなことはないのだろうか? これについて岡田氏は、「悩ましい問題。セキュリティに詳しいメンバーはいるが、パケットを四六時中監視しているわけにもいかない。来場者のみに公開する形でSSIDと接続パスワードを設定しているので、『不特定多数』ではなく『特定多数』への接続提供というスタンスで考えている」と明かす。
また、通信のプライバシーについても、「毎回、深い議論を重ねており、『通信の秘密』は守られるべきもの、という思いを持って活動している」(岡田氏)という。電気通信事業法で「通信の秘密」が規定されている以上、当然なのかもしれないが、ボランティア集団とはいえ、彼ら自身通信事業者などのエンジニアであるだけに、セキュリティやプライバシーについても高い意識を持って活動していることがうかがえる。
なお、CONBUとしてイベントでのネットワーク構築が決まると、3〜4カ月前から手伝ってくれるメンバーの募集を開始するそうだ。イベントによっては「予想以上にたくさんの応募をいただき、泣く泣く選考を迫られることもある」(東松氏)という。選考基準は特に設けていないそうだが「『CONBUで◯◯がしたい!』という志のようなものをしっかりと明記してくれるとうれしい」(東松氏)とのこと。
筆者自身、今回の取材はとても楽しい経験だった。というのは、インターネットの本質的な部分には「ボランタリー精神」「利他の精神」があると信じているからだ。CONBUの活動を知れば知るほど、忘れかけていたインターネットの本質に触れた気がする。今では当たり前のように利用しているカンファレンスなどでのWi-Fi接続だが、その裏ではCONBUのメンバーたちが奔走しているかもしれない。今後のイベントでは「このネットワークは誰が構築しているのだろう」ということを心の片隅に置いて参加するようにしたいものだ。
長く音楽制作業を営む傍ら、インターネットが一般に普及し始めた90年代前半から現在に至るまで、IT分野のライターとして数々の媒体に執筆を続けている。取材、自己体験、幅広い人脈などを通じて得たディープな情報を基にした記事には定評がある。著書多数。ヴィンテージ鍵盤楽器アプリ「Super Manetron」「Pocket Organ C3B3」「Combo Organ Model V」「Alina String Ensemble」の開発者であると同時に演奏者でもあり、楽器アプリ奏者としてテレビ出演の経験もある。音楽趣味はプログレ。
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